臨床実習が100倍楽しくなる10の指南(導入編)
学生の皆さん、実習は大変でしんどいですか?
指導者の皆さんは実習生を受け持った時にどのように対応していますか?
自分が実習生だった時の経験則に基づく指導
現在のキャリアに基づく指導
様々な指導の仕方があると思います。
しかし、学生にとってそういった指導の仕方はどうしてもプレッシャーになることが多いように感じます。
プレッシャーになる一番の原因は学生に臨床のイメージが伴っていないこと。もう一つは理学療法に対する認識の低さだと思います。
良く分かってないから受け身の実習になってしまい、結果的に学生が臨床に出るための準備にはならない。指導者側は理解してもらえない状況にフラストレーションが溜まり、パワハラ紛いの指導になってしまう。
これは僕自身が学生の時に思っていたことと臨床に出てから指導者となった今でも日々感じていることでもあります。
そんな現状を少しでも変えるために、今回は実習が楽しくなるような10の指南を書きました。少しでも積極的に参加できる実習になることを願って作成したので是非ご一読ください。また、普段指導者をされている臨床のPTの方にも読んでいただけると幸いです。
1、まずは目的の確認
皆さんは普段の生活でどれだけ目的というものを意識していますか?
何の為にそれをしているのか。
これはとても重要な事です。目的を明確にしておかないといつの間にか進む道が逸れてしまい達成するべき目標に到達できません。
ですから目的を今一度明確にすることから始めましょう!
まず、PTの目的は身体に障害を持つ者に対し、運動や物理的エネルギーを利用して基本的動作を回復させる事です。
では実習の目的とはわかりますか?
それは学校を卒業して臨床に出た時に患者さんに対して適切な理学療法を行う為に必要な知識・技術を学生のうちから修得する為です。国家試験を合格することが養成校の目的ですが、国家試験を合格する為の知識だけでは患者さんを治療・訓練することはできません。ぶっちゃけ臨床に役立つ知識はほとんどありません(笑)
理学療法士の免許を取得して4月から働きだした時点で患者さんからすればあなたは立派なPTです。担当患者さんの進むべき道はあなたの手にかかっているのです。
1年目だろうが10年目だろうが患者さんにとっては一人のPTです。実習はその溝を少しでも埋める為の修行の場所と思ってください。
実力があれば一年目からでも活躍できます。プロ野球でも高卒ルーキーが活躍するのと一緒です。キャリアは関係ありません。
目的を理解して自分の為の実習にしていきましょう!!
2、指導者が学生に求めていること
とはいえ実習中に全て一人前にできるわけではありません。実習は個人の能力によって進捗が大きく変わります。
では我々指導者が学生の皆さんに何を求めているか
それは
日々の小さな変化を感じ取ってもらうことです
良く分かりませんね(笑)
要は一日一つで良いので分からないことをスッキリ理解して欲しいのです
養成校からは実習に先立ってカリキュラムを渡され、ここまで出来るように指導をしてくださいと書いてあります
しかし先述したように学生には個人差がありますので皆さん全てがカリキュラム通りに進められる訳ではありません。
ですから我々指導者は毎日少しでも良いので成長してもらえるように患者さんを見学させ、様々な課題を出すのです。
ただこの辺りを上手くアプローチできない指導者もいると思います。そうなると実習もうまく進められず、最終的には学生に不利益を与えてしまう結果にもつながりかねません。
そうならない為にも学生は今何を課せられているのかしっかり把握することが大事です。分からなければその時こそ質問をしてください。
「今日は何を目的に見学すればよいでしょうか?」
「今の患者さんにはどのような問題点があってどういった治療をしていたのですか?」
憶することはありません!どんどん質問しましょう!分からないことを聞くのは学生の権利です。指導者に合わせて黙って時間を過ごす事ほど無駄な事はありません。
それでも質問しにくい人は予め学校の先生に相談して先生から指導者にその旨を伝えてもらうのも良いかも知れませんね。
しかしまずは指導者が質問をさせやすい雰囲気を作ることです。実習というのは自然と上下関係を構築してしまうものです。その関係を改善する為には指導者側から歩み寄る他ありません。
学生はビビらず、指導者はビビらせず、これが大事です。
3、患者さんの障害を把握しよう
ここからは少し専門的な知識を確認しましょう。
実習を上手く進めていく上でどうしても避けて通れないのがレポート作成です。実習中最大の難関であり、学生を睡眠不足に陥れる魔物と言っても過言ではありません。
少しでもスムーズに進めるためには
・障害像の把握
・動作分析の正確さ
・明確なゴール設定
という3つがポイントとなります。
ここを理解するのがとても難しいのですが逆に言えばここさえできればレポートは怖くありませんし、何より自分が臨床に出てからも使える知識になります。
ですから今からでもこのポイントだけ押さえていきましょう。
では改めまして障害像の把握ですが
ICIDH(国際障害分類)というのをご存知でしょうか。患者さんの障害を把握するためにはこのモデルを活用しましょう。ICF(国際生活機能分類)というのもありますがこれは全くの別物です。最近はICFが主流になっていると思いますが臨床で障害像を把握するにはICIDHで整理する方が効率的ですしDrは基本ICIDHで処方を行います。
ICIDHはinternational(I)、classification(C)、impairment(I)、disability(D)、handicap(H)の略です
impairment:機能障害
機能障害とは器官が病理的変化によって本来持っている機能を果たせないことで起こることを指します。関節可動域制限や、筋力低下がこれにあたります。
disability:能力低下
能力低下とは機能障害によってもたらされる動作レベルでの障害です。動作の自立や実用性の低下を表し、その原因には必ず機能障害が潜んでいます。客観的な現象として捉えられるのもdisabilityの特徴です。
handicap:社会的不利
社会的不利とは能力低下によってその人の社会の中でどういった不利益、損害をもたらすかを表します。ADLの狭小化や退院困難などがこれにあたります。handicapは医療の領域ではなくリハビリテーションの領域になるのですが障害像を把握する上で知っておく必要があります。
どのようにつなげるか例を挙げると
・THA術後の患者さん
impairment
#創部の疼痛
#股関節の関節可動域制限
#股関節の筋力低下
disability
##立ち上がりの実用性低下
##歩行の実用性低下
handicap
###ADLの狭小化
###自宅退院困難
というように関係性を明確化します。
優先順位の付け方や細かい問題点については患者さんによって違いますし、指導者の指導によっても変わると思います。まずはざっくりとした形だけをここで覚えてください。書いてみて指導者に見せる、添削をしてもらってより良い形を作っていきましょう!!
4、これさえわかれば動作分析も怖くない
次に動作分析を確認しましょう。
「動作分析苦手です」
よく聞く答えですね。僕も学生時代苦手でした。意味わからなかったですし「どこがおかしかった?」と指導者に聞かれても答えられなかった記憶があります。
答えられないというのは難しく考えすぎて思考が止まっていることが多いです。ですからもう少し簡素化して考えるようにしましょう。
観察のポイントは2つです
・自立しているか
・実用性はあるか
どんな動作をしているかはこの2つで答えましょう。
次に上記の2つのポイントがなぜ起こっているのかを分析します。分析するときはまた2つのポイントを覚えておいてください
・支持基底面と重心の関係
・静力学と動力学の判別
基底面上に重心があれば安定していますしなければ不安定な状態になります。動作が自立していなかったり、実用性が低いときは大抵重心の位置が基底面上にないかあっても定まらない事が多いです。歩行では重心は基底面から外れるのが当然ですがその動揺が正常歩行に比べどれくらい増大しているか、または減少しているかで判断しましょう。
静力学とは筋を使わずに姿勢を維持しているときのことです。対して動力学は筋や重力、床反力を使って姿勢の維持や動作の初動を行うことを指します。静力学に問題があるのなら、骨・関節や靭帯といった器官に問題がある可能性が高く、反対に動力学に問題があるのなら筋や反射といった器官に異常があると分析できます。
動作を見る時はまず「何かおかしい」から初めて「どこがおかしい」まで考えた後に上記のポイントに則って分析してみましょう。
いきなり修得するのは無理です。大事なのは繰り返して理解する事ですよ。
5、検査・測定を極める
ゴール設定の前に検査・測定について話をします。
検査・測定は正確性、妥当性が重要です。いかに客観性を持たせて誰から見てもおかしくない方法で行う必要があります。
ポイントは3つです
・ポジショニング
・オリエンテーション
・ランドマークの設定
ROM測定では他動による測定値が必要です。ですから患者さんに負担の少ない肢位設定や声掛けが重要です。力の抜けない姿勢ではちゃんとした測定はできませんし、ランドマークを毎回統一しなければ前回との比較ができません。
MMTや感覚検査では患者さんが検査の方法を100%理解していなければ妥当性は得られません。学校で習った正しい方法を素人である患者さんに理解して貰う為には分かりやすい言葉で伝える必要があります。練習で家族やPTを知らない友人に説明して理解してもらえれば患者さんにも使えると思いますよ。
検査・測定は素早く丁寧に、分かりやすくをモットーに行いましょう!
6、予後予測を的確に行う為のコツ
では予後予測について話していきます。次のゴール設定と重複する部分もあるのでご了承ください。
予後予測とは問題点である機能障害がどの程度の期間で改善するかを予測する事です。もちろん障害によっては予後が変わらないものもあれば進行していくものもあります。
例えば手術や病気によって起こる炎症は経過によって改善していきます。痙性麻痺はプラトーまでは改善しますがその後は残存します。ALSや筋ジストロフィーなどの筋力低下は経過によって悪化していきます。
予後を考える時は機能障害を起こしている疾患を調べることで良好・不変・不良に大別できるのでまずはそこまで進めましょう。疾患によって分からないことがあればDrに聞くのが一番確実です。Drと話ができる機会があれば術式や予後について質問してみて下さい。
7、患者さんのゴール設定をしよう
予後予測ができたら次はゴール設定です。まずは患者さんのHopeを把握しましょう。家に帰る為、復職する為にどんな動作を獲得できれば良いのかを聞いて下さい。
出来ない動作=機能障害があります。機能障害の予後予測からその動作がいつになったら出来るのか。これがゴール設定となります。
例えば術後の患者さん、炎症による疼痛があって独歩が不可能であれば、炎症が改善すれば独歩も獲得できるはずです。炎症は1~2週間で改善しますが荷重時痛はその後も残存することが多いです。荷重時痛の改善1ヶ月と予測した場合は独歩の獲得は1か月後となります。これが長期目標です。それまでに物的介助での歩行を自立させる必要がありますので杖での歩行を獲得させましょう。杖による免荷で疼痛がなければ1週間もあれば獲得できると思います。ですから杖での歩行獲得が短期目標となります。
このように機能障害が改善するまでの日数でゴール設定をすれば指導者とのフィードバックも行いやすくなりますし患者さんの変化をとらえる指標にもなりますよ。
ただ患者さんは教科書通りに良くなる人はいません。なぜ教科書と違うのか、それを学生に経験してもらうのも実習の目的の一つだと思います。
8、将来に役立つレポートの書き方
せっかく頑張って実習を受けるのですから将来の自分に役立つレポートを作りましょう!正しい知識と経験は必ず財産として残りますよ。
重要なのは必要な事だけ書いて誰が読んでも分かりやすいこと。だらだら文章を書くのは非効率的です。
コツはA4に収まる内容にすること。動作分析と統合と解釈はできるだけ簡略化しましょう。
統合と解釈が苦手な人が多いと思います。統合とは動作分析と疾患から考えられる問題点を洗い出すこと、解釈とは出された問題点と検査結果を照合し機能障害として明確化する事です。
つまり動作分析→検査結果→ICIDHという流れが一本の筋でつながっているかでレポートの完成度が決まります。ここを把握するのがとても難しいので実習中のフィードバックはこの部分を重点的に行ってもらいましょう。学校の先生に聞く事も大事ですよ。
また、先輩のレポートなどを貰ったりすることもあると思いますがハッキリ言って役立ちません。あなたが担当する患者さんは先輩の症例とは違いますし、先輩のレポートが間違った解釈のまま残されていてもそれを検証する術がありません。
レポートは指導者と、そして目の前の患者さんとで作り上げてください。
9、患者さんの為に治療を身につける
レポート作成まで出来たら是非理学療法を実際に行ってみて下さい。とはいえ経験もない技術を使って治療をしてもなかなかピンとこないかも知れません。
まずは指導者の治療を見学しましょう。どんな障害を持つ患者さんにどのような治療を行っているのか説明してもらいましょう。
classicalな運動療法でも適応があれば1~2週間行うことで機能障害が改善して動作に変化が出てきます。その変化を見学してください。
それと運動療法、物理療法共に適応と禁忌があります。そこだけは実習前に把握をしておくことをオススメします。
理学療法士はあくまで治療者です。評価することも大事ですが機能障害を治療によって改善することを念頭において実習に臨んでくださいね。
10、心と身体にやさしい実習中の過ごし方
さて、長々と述べてきましたが最後は実習をいかに楽しく有意義に過ごせるかを話していきたいと思います。
まず学生の皆さんはなぜPTを目指そうと思ったのかを指導者に伝えてください。自分の理想とするPT像があればその目標の為に指導者はサポートしてくれると思います。指導者にとって一番苦手な学生は「何を考えているのか分からない学生」です。必要以上に仲良くすることはありませんが自分がどんな人間なのか伝えることは重要だと思います。それと実習を通じて何を学びたいか伝えることも大事です。その時は出来るだけ具体的に伝えましょう。
もう一つ大事なのは健康管理です。どんな実習でもまずは自分のコンディションが良くなければ上手く進めることはできません。
徹夜で課題をこなそうとしても良い結果にはなりませんしストレスの方が大きいです。無い答えを頭から出そうとしても無理です。そしてどれだけ準備して臨んでも実習は分からないことが多々あります。
先述したように我々指導者が学生の皆さんに求めているのは一日一つで良いので分からないことを理解してもらう事です。なので一個何か理解したらその日の実習はクリアです。早く帰ってしっかり寝ましょう(笑)消灯は24時です。それ以降起きてても脳は働きませんよ。ほぼ毎日徹夜で実習をこなしていた僕が言うのだから間違いありません(泣)
指導者の皆さんは学生にPTの魅力を一つでも多く伝えてください。どんな時にやりがいを感じるか、治療で上手くいったこと、PTになって良かったことなど臨床の日々を学生にイメージしてもらう事も重要だと思います。愚痴はできるだけしないようにしましょうね(笑)
どれだけ打ち解けたとしてもそこは学生と指導者という立場です。学生が無理しているなと思ったら休ませてください。本人の度量以上の事を課しても良い結果は生まれません。自分の為ではなく学生の為の実習を心がけましょう。
僕は理学療法士という仕事に誇りを持っています。真摯に取り組めば本当に人を幸せにできる仕事だと思っていますし、その魅力を世の中の学生に少しでも伝えられたと思い文章にしてみました。
これを読んで学生の皆さんが少しでも実習を楽しめたら幸いです。
ちなみに今回は導入編ということで各論は簡素化して書いています。今後さらに深く細かい内容で情報を発信していきたいと思いますので良ければ皆さんお付き合いください。
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