Try,everybody! Orthodox10

鑑賞のポイントが今回から大きく変わりますのでご注意を。

【Try, everybody! 60】

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wRとwQの働きが弱い形。少し考えると、1.Re4?が魅力的な手だと気が付くはずです。threatは2.Sc7#。しかし、これは1...Rd7!で明らかに逃れています。

他に考えられる手は1.Qe4!。これも先程と同様のthreatを持つ上、1...Rd7の受けも利かない格好(2.Sc5#)をしていますね。よって、あとはPe5を外す受けに対して、丁寧に1手詰を探せば正解に辿り着きます。

Key:1.Qe4! (2.Sc7#) 
1...Rdxe5/Rhxe5/Bxe5/Sxe5
2.Sc5/Bf5/Rg6/Bg8#

これが正解手順でした。これだけだとkeyも平凡、変化も普通で見どころが分かりませんが、実は作者の狙いは全然別のところにあるのです。

問題設定に立ち返りましょう。#2v つまり本手順の他に、作者の意図したTryが1つあるということが分かります。となると、先程の1.Re4?が気になるところ。1...Rd7!で逃れは逃れなのですが、他の受け方をするとどうなっていたか?ということを考えます。

Try:1.Re4? (2.Sc7#) 
1...Rdxe5/Rhxe5/Bxe5/Sxe5
2.Qxa2/Qg4/Qg6/Qg8# but 1...Rd7! 

Tryの中の変化はこのようになっています。で、このTryを本手順と比較してみましょう。

Key:1.Qe4! (2.Sc7#) 
1...Rdxe5/Rhxe5/Bxe5/Sxe5
2.Sc5/Bf5/Rg6/Bg8#

すると、黒の変化4通りに対する白の最終手が全て変わっています。これが作者の用意したテーマでした。

纏めとして、高坂さんの解説を。

高坂:一見1.Re4で詰んでいるようですが、1...Rd7で逃れ。1.Qe4としておけばd5への利きが残るので、2.Sc5とできます。ここで、トライと本手順とを比較してみましょう。すると、同じ黒の応手4つに対し、白の2手目(mating move)が全て異なっているではありませんか!これをchanged mateと呼びます。



以上で作品の解説は終わりなのですが、これをすんなり受け入れられない人もいるでしょう。実は私自身が、これの何がおもろいの?と思っていました。難しいことを実現しているのは分かるのですが。たぶんこれは詰将棋で培った感覚が、鑑賞の妨げをしてしまっていたのだと思います。

というのも、詰将棋において「紛れ」はあまり作られることがないからです。紛れは殆どの詰将棋に存在するものですが、ここでいうカギカッコ付きの「紛れ」はそれのことではありません。「紛れ」とは、テーマ的な紛れのことです。つまり作者が意図的に構築したもの。

このプロブレムは『作意の中の各変化と「紛れ」の中の各変化の比較』という内容のため、普通の詰将棋からはあまりにもかけ離れています。

せっかくなので、詰将棋において「紛れ」を構築した例を紹介しておきましょう。以下の柏川作が有名でしょうか。

http://kazemidori.fool.jp/?p=12086#more-12086

風みどりさんのブログを引用させていただきました。このブログには他にも良い記事がたくさんあるので読んでみてください。

さてこの柏川作ですが、本手順において全く必要のない、紛れのためだけの駒(54歩、65歩)を置いているのが革新的なところ。本手順だけを鑑賞しても作品の本質に到達できない作りで、このような作品は現在でもあまり多くないはずです。また、こういう作品は紛れまでが作意であると私は捉えています。それで、一般的に作意順と呼ばれる手順のことを、ここまで本手順と書いてきました。

ここで問題となる点は、実際に解いた時に紛れ順に到達する人がどれくらいいるのかということです。100人が解いたとして100人が紛れ順に入ってくれれば良いのですが、人によっては(深く考えずに)13歩成と指して解き進め、紛れに気づかないまま本手順を解き終えてしまう可能性もあります。

本作に限らず、詰将棋において「紛れ」を構築したときには必ずこの問題が発生します。ちなみに、変化は本手順の中に存在するものなので解く際は大体読みますが、それでも読み飛ばされる場合があります。紛れなんて解答をする上では読む必要のないものですから、もっと読み飛ばされやすいです。非常にうまく作られた「紛れ」でないと解答者がその手順を通ってくれないということです。

以上が、詰将棋において「紛れ」があまり発展していない理由の1つではないでしょうか。


チェスプロブレムの話に戻ります。今回の作品でも、1.Re4?を考える前に1.Qe4!が見えてしまったという解答者が一定数いるはずです。ですが、そこで「解けた」と思わないのが重要な考え方になります。なぜなら、1.Qe4!はただの本手順であり、真の意味での作意ではないからです。「紛れ」までキチンと読むことで作者の意図を汲み取り、そこで初めて作意を解き明かしたと言うことができます。(前にこういう感じの話を詰将棋関係者としたら理解してもらえませんでした)

詰将棋よりも分かりやすいのは、作者が問題設定にvを付与して、「紛れ」の存在を解答者に示せるというところですね。逆に詰将棋よりも分かり辛いのは、王手義務がないため指せる手が山ほどあり、Tryを見つけにくいことがある点です。また、何をもってTryとするのかという点に関しても、納得いかないことがあったりします。本作は、本手順とTryの着手位置がe4で統一されていて、またPe5にヒモを付けるという意味付けも同じですから分かりやすい部類でしょう。

長々と書きましたが、こういうタイプの作品は数を解いていくことで慣れていくに限ります。かくいう私も、慣れていっている途中です。
また、ここまで述べてきたことはあくまでも私の考え方です。間違っているところもあるかもしれませんが、考え方の一つとして受け取っていただけると嬉しいです。ご意見等ありましたらお気軽にお願いします。

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