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『チェス・プロブレム入門』感想③

【ダイレクトメイト(Directmate)】

執筆者は若島正さん。

ここでは作品を紹介しながら前提となる知識を解説している。特に重要なことを書いておこう。白の初手(key move)には大概threatが付いていて、黒の初手はそれを受ける手だと言うこと。threatが付いていない場合というのは、例えばD01のような限られた場合のみである。また、長編以外のダイレクトメイトで作意となる本手順が1通りになることはなく、同手数変化の総体が作意を形成しているという点は抑えておく必要がある。


D01:何も知らない読者はいきなりボディにパンチを入れられた気分になるだろう。変化を複数用いて何かを表現するというのは、詰将棋では滅多にお目にかかれないからだ。テーマはAlbinoで、これはH08で履修済み。

D02:D01に続き日本人作家による啓蒙作だが、こちらはより古典的。keyにもうすこし妙手感があれば良いのだが。

D03:紛れはそれほど機能していない感じ。

D04:Grimshawはオーソドックスでもヘルプでも頻出のネタなので覚えておきたいところ。ただこの作品は、解説で触れられている通り、1...Bd4の変化が利いていないのがあまりにも辛い。

D05:これは私がイメージするいわゆるpattern playからはちょっとズレている感じなのだが、作品として最低限のことはやっている。

D06、解説で1.Sd4?に対して1...Sc5 2.Qb8とあるが、2.Sxc6でも詰むじゃん、アレ?と思う。しかし続きを読んでいくと、こういう表記になっているのは本手順と対比する関係なのねと分かる。4種のchanged mateに、ルークのplus-flightのおまけ付き。

D07、明快なコレクションネタで好作と思う。ちなみに2.Rf4の受けとしては1...Bg4も存在するが、それには2.hxg4#がある。

D08:チェスプロブレムを勉強し始めてからしばらく理解できなかったのが、このset playというヤツである。紛れや変化と違って、詰将棋に登場することがない考え方だからだろう。ヘルプにおけるset playは「手数の異なる詰手順」なのだが、ダイレクトメイトにおいてはそうではない。ダイレクトにおけるセットは「黒が詰まされにきたら…」みたいなことを考えるのである(厳密には違うけど)。なぜセットを考えるかということは、私には言語化できないのだが、本手順や紛れと同じで1つの相なのだから考えないのは失礼な話だと言うくらいにとりあえず思っておいていただきたい(私は作品をいくつも見ていくうちに理解できた)。また、作品を解図する上でもセットプレイの考え方は重要である。
ちなみに、ここで紹介されているZagoruikoのパターンは、実は1世紀近く前からあるもので、このパターンからの派生や、その他のパターンなどが多く開発されている。

D09:線駒の使い方が完璧。ここまでの9作で一番好きだ。さすが原さん。

D10:#3としては非常に単純な部類で、ステイルメイトを回避する成りが登場する。


【この1局】

D09

Atsuo Hara
PP 2007 2nd HM

#2 vvv

1.Rf4?(2.d4#) Se4!
1.Rb6?(2.Bf6#) Bd6!
1.Bb3?(2.Re6#) Sd5!

1.a7! (2.axb8=Q#)
1...Se4/Bd6/Sd5
2.d4/Bf6/Re6#

Dombrovskisの流麗な表現。素晴らしい!
テーマを知らなくても魅力が伝わるという、高い水準に達している。

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