見出し画像

The Problemist 2014.5 前編

この号の巻頭にはJohn Riceによる「The cyclic Zagoruiko: A brilliant new discovery」という記事がある。面白い内容なのでいつもより詳しく紹介したい。

まず最初にZagoruikoを復習しておく。

Zagoruiko:At least three phases with at least two changed mates.

このパターンを書き表すと以下のようになる(もちろんtryでなくset playやツインを用いても良い)。

1.x? a/b 2.A/B#
1.y? a/b 2.C/D#
1.z! a/b 2.E/F#

このテーマは、前にThe Problemistで読んだ記事によると、1916年が初出。とてもクラシカルなパターンの1つだ。


John Riceの記事に戻ろう。
1961年にZagoruikoのtheme tourneyが開催され、1st Prizeの作品は以下のパターンを実現したものだった。

1.x? a/b 2.A/B#
1.y? a/b 2.B/C#
1.z! a/b 2.C/A#

このパターンをcyclic Zagoruikoと呼ぶ。しかしこの1号局(実はJohn Rice本人の作局)は、tryの初手とkey moveがいずれもdouble checkになっているというものだった。これは勿論大減点の要素。つまり、テーマを実現するだけで精一杯だったというわけだ。

さて、テーマの誕生から数ヶ月が経ち、様々な作家がより優れた作品を発表した。そんな中でもRiceが例として挙げているのは次の作品。


Eduard Livshits

1st Honorable Mention= Shakhmaty (Riga) 1962

#2

1.Qf5? (2.Qf3#)
1...Sxd4/Sxe5
2.Sb6/Bxb7#
but 1...g4!

1.Qxd3? (2.Qf3#)
1...Sxd4/Sxe5
2.Bxb7/Sc7#
but 1...Ra3!

1.Bf8! (2.Qh1#)
1...Sxd4/Sxe5
2.Sc7/Sb6#

たしかにこれなら、減点要素の無い形で作品が成立している。



話を先に進めよう。
このようなcycleのパターンは他のジャンルに応用されていった。実例として#3への応用例を紹介する。

Andrey Lobusov

1st Prize Neue Zurcher Zeitung 1982-3

#3

1...bxc5/Bd5/Bxe5     ←a/b/c
2.Sg4+/Be4+/Sfe4+   ←A/B/C
2...Rxg1/Rxd1/Rxg1
3.e3/Qxd5/e3#


1.Qe7? (2.Qxd6+ Bd5 3.Se6#)
1...bxc5/Bd5/Bxe5
2.Be4+/Sfe4+/Sg4+   ←B/C/A
2...Rxd1/Rxg1/Rxg1
3.e3/e3/Qxe5#
but 1...cxd3!


1.Qc7! (2.Qxd6+ Bd5 3.Se6#)
1...bxc5/Bd5/Bxe5
2.Sfe4+/Sg4+/Be4+   ←C/A/B
2...Rxg1/Rxg1/Rxd1
3.Qxc5/e3/e3#

#3で、3×3型のcyclic Zagoruikoを実現!
一応黒の2手目以降も書いたが、鑑賞する側は白の2手目までを見れば良い。


そして、cyclic Zagoruikoの誕生から50年以上が経った2014年、歴史に新たな1ページを書き加える作品が生まれた。

Peter Gvozdjak

1st Prize Sochi Tourney 2014

#2

1.Sc5? (2.Sd7#)
1...Sxf4/Sxf6   ←a/b
2.Bc3/Bc7#    ←A/B
but 1...Qb5!

1.Rd4? (2.Rxd5#)
1...Sxf4/Sxf6
2.Bc7/Qf4#   ←B/C
but 1...Sb6!

1.Be4? (2.Qg5/R6f5#)
1...Sxf4/Sxf6
2.Qxf4/Qxf6#   ←C/D
but 1...Qxb3!

1.Rb6! (2.Qd6#)
1...Sxf4/Sxf6
2.Qf6/Bc3#    ←D/A


史上初、#2で4×2のcyclic Zagoruikoを実現した作品。#2の1つの極地に達したと言っても過言ではない傑作だ。難しいtaskをただ成立させただけでなく、配置効率も素晴らしい。1.Be4?がダブルスレットになっているのが唯一の欠点だが、そんな指摘も野暮に思えるほどの完成度の高さである。


この作品を紹介してJohn Riceの記事は締め括られている。このようなテーマの発展史は非常に勉強になるので、詰将棋界でも誰か書いてくれないものかと期待している。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?