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チェスプロブレム創作対決 結果稿

この記事は、先日Twitterで開催されたチェスプロブレム創作対決の結果稿になります。


まず企画をおさらいしましょう。チェスプロブレム初心者で今回が初創作であるウマノコ氏とkisy氏の対決として突如始まったこの企画は、「HelpmateでAUWを実現せよ」という私=シナトラが出した課題をどちらがより上手く実現できたかを競うものです。Judgeも私が担当します。

結果発表の前に、HelpmateとかAUWって一体何なの?という方のための説明をしておきます。

Helpmateとは、詰将棋でいう協力詰に相当します。白黒(先後)協力して黒のKを詰ませるというルールです。勘違いされることが多いですが、基本的に黒から指し始めます。今回登場するのはいずれもHelpmateの2手詰(これをH#2と呼びます)で、指す順は黒→白→黒→白で詰み(メイト)です。

AUW(Allumwandlung)というのはチェスプロブレムにおけるテーマの1つで、PがQ、R、B、Sの4種類に成るというものです。何枚のPを用いても良いですし、白と黒のどちらのPでも構いません。白と黒の成りを合計して4種成にする、通称mixed AUWも認めています。AUWは詰将棋で言うところの7種合に相当するという人もいますが、既に詰将棋作家として一流のお2人にとっては創作難度は高くないはずで初創作にピッタリだと思い、これを課題としました。



前置きはここまで。それでは両者の作品をTwitterから引用して、解答を見ていきましょう!


まずはウマノコ作。

解答:
1.Be5 f8=S 2.Kf4 Se6#
1.Qh6 f8=Q 2.Kh4+ Qxh6#
1.Kf6 f8=B 2.Sg5 Bg7#
1.Kh6 f8=R 2.Rg5 Rxh8#

作者コメント:
AUWとStar-flightを組み合わせてみました。それ以外に拘った点は以下の3つです。
・4つ子ではなく4解
・黒がQRBSを1度ずつ動かす
・1枚のポーンでAUWを実現

☆Star-flightとは、駒が斜め方向4箇所に移動することです。本作では黒のKが4解でStar-flightしています。

antilles:4解で表現できるテーマが組み合わさっており、1つの解が見えるとほかの解の方向性も見えてくる好作品と感じました。

駒井めい:4箇所でメイトするのがとてもキレイでした!

☆お2人とも「4」という数字に注目されていて流石です。AUWとStar-flightはどちらも4つの手順があって1つのテーマになるため、融合するのに適していると言うことができます。


続いてkisy作。

解答:
a) 1.f1=B h8=R 2.Bh3 Rxh3# 
b) 1.f1=S b8=Q 2.Sg3 Qxg3#

作者コメント(kisy):白が2種、黒が2種に成るmixed AUWの場合、黒の成りをself-blockにすると作り易いのが分かっていましたが、前例も多いだろうと思いました。そこであえてそれは避け、「移動合回避のために捨てないとならない」という意味付けで成駒が限定できるように作りました。この図はツイン条件と白Pが2枚あるのが微妙だと思うので、できれば2解で別の構図で作り直したいです。

☆なかなか難しいコメント。たしかに、ヘルプの世界では基本的に複数解>ツインとされます。self-block(つまり、壁にするための成り)にすると作り易いのもその通りだと思います。

antilles:Pの位置でうまく解が切り分けられていると感じました。白ポーンではなく黒ポーンで切り分けることもできそうです。

駒井めい:取らせで統一されていて、手順構成も明快なので、解けて気持ちがよかったです!

☆antillesさん、駒井めいさん、コメントありがとうございます!




お待たせしました!私のJudgeは以下です。







勝者:kisy氏


【評価のポイント】

今回、私は「AUWの面白さ」で勝敗を判断することとしました。勿論作者にもそれは伝えた上で創作していただいてます。なぜこの基準にしたかと言うと、ウマノコ氏、kisy氏ともにプロブレム創作自体は初心者だからです。もちろん一般的なJudgeにおいては、オリジナリティや完成度が重視されますが、初心者にそれを求めるのは厳しいでしょう。特に、オリジナリティの項目をクリアするのは至難の業です。AUWは作例が山ほど存在するため、本当の意味での「新作」はなかなか作れません(私も前例に詳しいわけではないため、オリジナリティも考えはじめるとJudgeも大変になります)。


kisy作(再掲)

画像4

H#2 b)Pf4→g2

a) 1.f1=B h8=R 2.Bh3 Rxh3#
b) 1.f1=S b8=Q 2.Sg3 Qxg3# 

では、kisy作のAUWはどこが面白かったのでしょうか?秘訣は黒の成りにあります。黒はBg1の利きを通すためにbPf2を動かす必要がありますが、動かした先は一段目のため何に成るかを選択しなければいけません。もちろんQやRに成るとwKへのcheckがかかるのでダメですが、それではBやSに成りたいか?と聞かれると別に積極的に成りたいわけでもないのです。もし1.f1=金とでも出来たら、2.金e1と手待ちしておくだけでメイトになりますよね。でも、1.f1=B, Sの場合はそうはいきません。BやSに成るのは詰まされるには強すぎる利きを自ら作ってしまうわけです(黒自身は詰まされたいと思っているのに!)。例えばb)で、1.f1=S b8=Q 2.Sh2 Rh3だとSがf3に利いているため詰んでいません。そこで成った駒を捨てる必要が生じて、解が一意に定まります。この手順を、あとで捨てるのを見越した積極的な成りとも捉えられますが、成って捨てる以外の道がなかった消極的な成りだと私は感じました。

kisy作はこの「捨てるための成り2種類」を盤上9枚で実現しています。白の成りもh8=Qとは出来ない(checkがかかってしまう)ように出来ていますね。お見事!

では、この作品に文句の付け所がないかというとそうではありません。1番気になる点はやはりツイン設定で、a)でのPf4という配置はQ成からQg3とする可能性を消していますし、b)でのPg2もB成からのBh3を消しています。2解で成立すればそれに越したことはありません。ただ、この構図だと1.f1=B b8=Q 2.Bh3 Qg3#の筋があるため簡単ではないでしょう。また、作者の言う通り白のPを1枚に纏められないか?とも思いますが、私は良い案を見つけられませんでした。


続いて、ウマノコ作を分析しましょう。

ウマノコ作(再掲)

画像5

H#2 4sols

1.Be5 f8=S 2.Kf4 Se6#
1.Qh6 f8=Q 2.Kh4+ Qxh6#
1.Kf6 f8=B 2.Sg5 Bg7#
1.Kh6 f8=R 2.Rg5 Rxh8#

ウマノコ作の素晴らしいところは1枚のPで4種成を表現した点です(kisy作は3枚使っている)。そしてさらに、Kのstar-flightという4解用のテーマを加えています。H#2の4解でAUWをすると、下手に作ったら成りが4つあるだけのバラバラの作品になりかねません。4手のうちの1手しか成りはないわけで、残りの3手が4解それぞれで適当に作られていると評価されないのです。その点ウマノコ作は、Kの移動先の工夫もそうですし、白の最終手も成った駒を動かす手になっており、手の統一が取れています。これによって解同士に結びつきが生じているのです。

また、4解もあるとそれぞれの解で黒の手順前後を消すのが難しいところですが、線駒を使って上手く限定しており確かな創作技術が伺えます。配置も14枚で、重さを感じさせません(実は初めに私のところに送られてきた図は21枚でした、やはり推敲は大事)。気になる点としては、Kの移動するタイミングが揃ってない、最終手の駒取りが挙げられますが、実は作者はここにも気を配っています。4解のうち2解で初手にKが動く、4解のうち2解で最終手駒取りという構成になっているのがその気配りです。解をグループに分けて捉えるのはプロブレム特有のものですが、解を2+2に分解できるほうが1+3になっているよりもバランスが良いということは感覚的に理解していただけるのではないでしょうか。この考え方は、(ここでは詳しくは説明しませんが)HOTFなどにも繋がるものだと思います。


最後に2作のAUWを比較してみましょう。kisy作とは違って、ウマノコ作の4種の成りはどれも積極的ですね。これは白のPでやってるからある意味当然と言えるのですが、成り自体の面白さを比較して私はkisy作に軍配を上げました。もちろんウマノコ作も素晴らしい作品で、人によっては評価が入れ替わると思います。

両者の作品に対するコメントは以上です。


【講評】

初創作とは思えない高いレベルでの戦いになりました。初めは軽い気持ちでjudgeを引き受けましたが、2作ともとても良いところがあって選考には苦労しました。お2人とも相当時間をかけて創作したと思われます。その創作姿勢が素晴らしい!!対決という性質上勝ち負けは必ず発生しますが、実は結果は重要ではありません。というのは、Judgeといってもあくまで1人の人間の考えを表明しているに過ぎないからです。もっとも大事なことは、ウマノコ氏とkisy氏のお2人がチェスプロブレム創作の第一歩を踏み出したということです。今後も創作活動を続けてくれるととても嬉しいです。応援しています。また、この企画を見てチェスプロブレムに興味を持ってくださる方がいらっしゃったら、すぐに創作を始めましょう!

「すぐに」と言ったのには理由がありまして、今回コメントをくださったプロブレミストのantillesさんが、現在Twitterでコンテストを開催しているのです。初心者向けなので気軽に参加できますよ。詳しくは下のツイートとリンク先のnoteをお読みください。

以上、宣伝でした。



【作品紹介】

最後に、H#2におけるAUWで他にどんなことが出来るのかを知るために、世界の一流作家によるAUWの作例をご覧いただきながらお別れといたしましょう。


Hans Peter Lehm

Segal-MT 1st Prize 1962

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H#2 4sols

1.d6 e8=R+ 2.Kd7 Sb8#
1.Sd6 e8=S 2.Rh6 Sxg7#
1.Rd6 e8=B 2.Sf5 Bf7#
1.Kd6 e8=Q 2.dxc6 Qe7#

1枚のPによる白の4種成。pinされているそのwPを、初手のd6着手でunpinする統一感が美しいです。


Fadil Abdurahmanovic

Die Schwalbe 2nd Prize 1962

画像3

H#2 b)Kb5→a4 c)Pe6→f4 d)Kb5→d8

a) 1.dxe6 e8=R 2.Kd7 Rd8#
b) 1.Kxc6 e8=S 2.d5 b5#
c) 1.Kd5 e8=Q 2.dxc6+ Qxc6#
d) 1.Kxe6 e8=B 2.d6 Bxf7#

ウマノコ作と同様に、4解用のテーマの組み合わせた作品。白はAUWとして、黒の手に注目するとbKのplus-flightになっていますね。というわけで4解テーマ×2でした……は間違い。さらにbPd7が4種類の移動(これをpickaninnyと呼ぶ)をしています!このようなテーマ×3の構成が60年も前に作られているとは。


Fadil Abdurahmanovic

Phenix 1st Prize 1990

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H#2 4sols

1.Sg5 cxb8=R 2.Kc7 d8=Q#
1.Sd8 c8=B 2.Kc7 dxe8=S#
1.Re5 d8=B 2.Sc5 c8=S#
1.Qd8 dxe8=R 2.Kd7 cxd8=Q#

最後はなんと4種成のダブル。4解で2枚のPをQ-R, R-Q, B-S, S-Bと成っていて統一も十分でしょう。なにより驚きなのは、これだけのことをやっているのに初形に全く皺寄せが来ていない点です。傑作。


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