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The Problemist 2013.5 後編

前回の続きで、Selected Problemsから2作紹介しよう。


Richard Becker

Special Prize Chess Star 2011

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Black to move. Win

1…b1=Q 2.c8=S+ Ka6 3.d8=S Qe4+ 4.Kb8 Qe5+ 5.Sd6 Qxd6+ 6.Kc8 Kb6 7.Se6 Qxe6+ 8.Kd8 Kc6 9.f8=S Qf6+ 10.Ke8 Kd6 11.g8=S

これでh8=Qを止める手段が無く、白勝ちとなる。

1作も解けたことがない私にも理解できるendgameが載っており、思わず引用したくなった。S成が4回という狙いで、変化は皆無(そこが良いところ)。


Satoshi Hashimoto

2nd Prize StrateGems 2011

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PG 25.0

橋本作なので解図に挑戦した。そういうわけで思考過程を書いてみる。ちなみに、7th Prizeの橋本作も同時に紹介されていたが、こちらは私には解けそうもないので省略する。

まずは当然手数計算。P→4手、Sc4→2手、Bb5→3手、Rh7→3手、Qh8→3手、Ka8→7手は目に見えている。またd6での駒取りの痕跡からRh1を3手かけてd6に捨てるしかない。これでまずは合計25手が確定した。

白の手順について考察しよう。まずRa1の経路はa1→a3→h3→h7である。このRがh7まで行った後にRh1が動くことができる。こちらのRはh1→h3→d3→d6と動く。このRがRd6まで動いてはじめて、Pd3と突き出すことができる。そのあとようやくwKの行進が始まる。Qh8がRh7より先に入らなければならないためにc2のPが早く取られる必要があることも踏まえると、序盤の手順は比較的簡単に確定するだろう。

1.a4 a5 2.Ra3 Ra6 3.Rh3 Rc6 4.Sa3 Rxc2 5.Sc4 Rc3 6.Qc2 Sf6 7.Qxh7 Rg8 8.Qh8

さて、ここで問題に直面する。その問題とは、最終的にc6にいなければならないRが完全に閉じ込められてしまったことだ。つまり、黒はここから邪魔になっているB,K,Q,Bをどかしてあげないといけないことが分かる。動いていないように見える黒の一段目の駒たちはSb8を除いて全て動いていたのだ!

8...e6 9.Rh7 Be7 10.h4 Rf8 11.Rh3 Sg8 12.Rd3 f6 13.Rd6 Kf7 14.d3 Re8

普通に考えると、4枚とも動かしてから1手でRg8→c8するほうが効率が良いがそれは成立しない。Rが1マスずつしか動けないように、手順前後も余詰も発生しないように作られていて凄いと思う。ともあれ、白は2つのRを目標の地点に到達させることに成功した。これであとはKの行進。注意すべき点は、まだcxd6とは指せないということ。wKの経路が無くなってしまうからだ。

15.Kd2 Bf8 16.Ke3 Qe7 17.Kd4 Rd8 18.Kc5 cxd6+

これでようやく収束(PGでは使わない表現か?)に入れる。

19.Kb6 Ke8 20.Ka7 b6 21.g3 Ba6 22.Bg2 Rc8 23.Bc6 Qd8 24.Bb5 Rc6 25.Ka8 Bc8

終わってみれば、8段目の駒が5枚スイッチバック!!!素晴らしい点はいくつもある。1つは勿論Rc6の予想外の経路だ。図面からwKをどうやって運ぶかがテーマなんだろうなと想像して解き始めるので、こっちが本題だったのか!と驚きが倍増した感覚があった。2つ目はRh1の使い方のうまさ。Rd3を経由することで白に発生する手順前後を消し、d6を埋めることで黒が他の手順でRをc6に運ぶ順をすべて消している。私は創作未経験者なのでこれは的外れな見解かもしれないが。そして、3つ目は盤上のほとんどの駒を活用していて配置に無駄がないという点。4つ目、手順にも無駄がないということ。例えば、The Problemist 2013.1 前編で紹介した橋本作は21…h6が取ってつけた手に見えてしまう。もちろん、手数合わせのために必要な手ではあるのだが。本作にはそういう手が1つも見受けられない。全ての手が絡まりあっていて、そこが素晴らしいと思う。

最後にもう一度手順を。

1.a4 a5 2.Ra3 Ra6 3.Rh3 Rc6 4.Sa3 Rxc2 5.Sc4 Rc3 6.Qc2 Sf6 7.Qxh7 Rg8 8.Qh8 e6 9.Rh7 Be7 10.h4 Rf8 11.Rh3 Sg8 12.Rd3 f6 13.Rd6 Kf7 14.d3 Re8 15.Kd2 Bf8 16.Ke3 Qe7 17.Kd4 Rd8 18.Kc5 cxd6+ 19.Kb6 Ke8 20.Ka7 b6 21.g3 Ba6 22.Bg2 Rc8 23.Bc6 Qd8 24.Rc6 25.Ka8 Bc8


最後はBCPS AWARD: Fairies 2010 から。

Zdravko Maslar

2nd Prize The Problemist 2010

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Ser. -H=17

1.g1=R 2.Rg3 3.Kg1 4.f1=S 5.Reg2 6.Rbf2 7.b2 8.b1=B 9.a1=Q 10.Qh8 11.Qh1 12.Sh2 13.Bf1 14.Bf5 15.Bh3 16.g4 17.e2+ Ke1=

読み方はシリーズ・ヘルプ・ステイルメイトで良いのかな?黒が連続で17手指し、白が1手指してステイルメイトにせよというもの。狙いは勿論AUW。このルールは手順前後のない手順しか作れないため自由度が低いと思っている。鑑賞していても(創作側の視点に立ってしまうため)窮屈だと感じることが多いのだが、本作は眺めていて良い気分になった。それは多分、本作が良い作品だということなのだろう。


本日はここまで。

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