創作過程

最近「どうやって詰将棋を作っているの?」と聞かれることが何度かあったので、noteに書くことにしました。私の作り方はたぶん特殊な部類ですが、読んでいただけるとありがたいです。

1.テーマを考える
2.図化する
3.推敲する

まず詰将棋創作の順序として、私の中では以上の3つの行程があります。

抽象的に書くと訳が分からなくなるので、具体的にある作品の創作時を例に出すことにしましょう。


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1.

まずはネタ探し。前から興味を持っている、複数解で飛と角を対比するアイデアを考えます。そういうパターンはいくらでもありますが、その時(2年ほど前でしょうか)に思いついたのは「飛打に角合 & 角打に飛合」で2解という案でした。

※たぶんこの行程に最も時間がかかります。というのも、過去に無いオリジナルなネタを拾ってくるのは結構大変だからです。ずっと考えてるというよりは、頭にパッと浮かぶ瞬間を待っています。

2.

思いついてしまえば創作の8割くらいは終わっています。あとは図化するだけですから技術の問題。最初に考えることは伝統ルールでやるべきか否か。飛打に角合 & 角打に飛合の難しいところは、合駒が出る理屈(意味付け)をどうするかというところ。

例えば55玉に対して「57飛、56角合、〜〜まで○手」「37角、46飛合、〜〜まで○手」の2解とすると、この飛合と角合は同じ意味付けにはし辛いのです。「45に利かせる」が意味付けなら、金合と銀合でも良いって話で、切り分けが面倒ですよね。2解で別の意味付けにすると考えることが増えて厄介なので、没にします。粘っても良いのですが、あまり頑張る必要も感じません。

頑張る必要を感じない理由としては、手順に華がないからというのもあります。実現出来たところでおいしくないものは作る必要がないので(このあたりは個人の感覚によります)。

ここで、テーマをもっと面白くしてみましょう。飛打に角合 & 角打に飛合はパッとしなかったので、飛打に角中合 & 角打に飛中合 で考えてみます。これなら手順がかっこよくなる予感があり、面白いものが作れる可能性がグンと広がりました。あえて創作難易度を上げることで、方向性を見えやすくするという狙いもあります。

中合にした時に生じる新たな問題点は、中合を同飛(あるいは同角)とする余詰を消すのが面倒だというところ。消すことは出来るでしょうが、いかにも駒数が増えそうなので、ここで伝統ルールは諦めてフェアリーで作ることにします。フェアリーの創作経験はこの時点ではゼロでしたが、論理的に構成すれば伝統ルールと作り方は変わらないので問題無いだろうということで、見切り発車。

ばか詰でも良いですが、ばか自殺詰のほうが余詰が消しやすいことに気づいた(フェアリストには常識らしい)ので、ば自で作ることにしました。最初に考えたのは次の図。

【図1】

画像1

ばか自殺詰4手  b)67角→桂

a)14飛、24角合、34角、68角成まで4手
b)19角、28飛合、55桂、68飛成まで4手

中合を直後に動かせる「シフマン」を使って、狙いの部分を4手で実現しています。詰む形が68に龍か馬が来るしかないというのがミソで、この設定によって余詰の心配がほぼなくなっています。また、もう1つのメリットとして、解答者に作者の意図していない紛れを考えさせなくて済むという点もあげられます

ただ、この図は持駒の飛、角が余ってますね。もともとa)持駒飛、b)持駒角の予定だったのですが、24角と28飛をアンピンする駒(この図においては角・桂)をツインで変更するのがマストなので、持駒の変更は出来ません。 無理やりやるなら、b)持駒飛→角かつ67角→桂  となりますが、 ツインで2枚変更は大減点なので避けます。

以上より、持駒は飛角の2枚にするしかないので、14飛と打つ順では角を、19角と打つ順では飛を攻方の駒台から消す必要があります。さて、飛or角を捨てる意味付けですがここが大変なところ。私の個人的な考えとしては、飛捨て角捨てにあまり積極的な意味付けを持たせないほうが良いです(非常に感覚的な議論で、人に理解されるかは分かりません)。

3.

あとは推敲ですが、ここで発想の飛躍が要求されます。

「飛を捨ててから飛合、角を捨ててから角合が出る」手順になることは確定しているので、「飛を捨てないと飛合が出せない、角を捨てないと角合が出せない」手順にするというアイデアを思いつきました。玉方の駒台に着目する手段で、これが完成への最も大きな一歩だったようです。

それで出来たのがこの図。

【図2】

画像2

ばか自殺詰6手 b)67桂→66

a)84飛、同香、19角、28飛合、55桂、68飛成まで6手
b)86角、同香、14飛、24角合、54桂、68角成まで6手

83香に飛or角を取らせることで玉方の持駒にして、中合を発生させるアイデアです。68香を飛にしてツインの条件も少し変えました。ただしこの図は、角をもう一枚盤上に置かないことには成立していません。b)でいきなり14飛、24角合として詰んじゃうので。ただ、83香は結構良い案だと思っていました。しかし、ここから初形73玉に「63飛、同玉以下」と「64角、同玉以下」のような、68飛のラインに玉が入ってない逆算のアイデアで1時間ほど寄り道することになります……。こういうことに時間を割くのは明らかにセンスが無いのですが、自分のやってることがセンス無いということに気づくのに時間がかかるのです。

方向性を元に戻してさらにこねくり回し、やっと辿り着いたのがこの図。

【完成図】

詰将棋パラダイス 2020年11月号

画像3

ばか自殺詰6手 b)67桂→66

a)54飛、同馬、19角、28飛合、55桂、68飛成まで6手
b)97角、同馬、14飛、24角合、54桂、68角成まで6手

(玉方に合駒をさせるための捨駒)+(最遠打)+(限定中合)+(Shiffmann)をダブルでやったということになりました。飛と角のZilahiにもなっていて、全体の対照性は、チェスプロブレムで表現されるレベルに達していると思います。伝統ルールではこのレベルでコントラストを表現するのはなかなか難しいですから、フェアリーの有難みを実感した作品でした。

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本作、テーマの発想から完成までかかった時間は1ヶ月くらいでしょうか。でも、2と3の行程自体は実質4時間くらいで終わったと記憶しています。つまり、ほとんどの時間は脳内で寝かせているだけなのですが、その時間が最も重要だと思います。

創作時の脳内の思考のごくごく一部を書きました。本当は他にも色んなパターンを試行していて、全部書いていると日が暮れるのでやめました。この創作法を直接真似するのは難しいですし、する価値も無いと思いますが、参考程度にはなるかなと思って書きました。具体的な作品の内容はともかくとして、太字で書いた部分は作家の方には共感していただけるところがあるかもしれません。


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