9. 新しい形

○ Aの自宅

部屋。A、ウロウロして落ち着かない様子。
そこへ一本の電話が。Bからである。

A「もしもし!」
Bの声「ごめん!」
A「おお! …できたか?」
Bの声「ああ。これは間違いなく、新しい形の漫才だと思う。今そっちに送ったから」
A「分かった」
Bの声「ごめんな、明日ぶっつけ本番になっちゃうけど、…でもこの通りやってくれたら、絶対上手くいく」
A「おう。俺もお前のネタ、信じてるからさ」
Bの声「…じゃあ明日、頼むな」
A「うぃ。おやすみ」

電話が切れる。
A、パソコンを開き、ネタを確認。

A「こりゃすげえや…」

○ 劇場

出囃子が鳴り、AとB、スタンドマイクの前に登場。
B「はいどーもー! ケチャップマスタングでーすお願いしまーす! いや〜僕ね、お化け屋敷が大の苦手で、克服したいなあ〜と思うんですよね」

A、眉間にしわを寄せ、首を傾げる。

B「…ちょっと、おばけやってもらっていい?」

A、Bを見て、一層眉間のしわを深くする。

B「あのー、…うん、やってみよう。…うわぁ、ここがお化け屋敷か。怖いなぁ。でも入ってみるか」

A、首をもたげながら、Bを睨みつける。
両手を何度も出し、「why!」とでも言いたげな様子。

B「…いや、ある意味怖いよ! 何だこいつ!ずっと、なんか、威圧みたいなの、してくる!」

A、ついに地団駄を踏み始める。
何度も「why!」「why!」「why!」の手。

B「…いや、もういいよ!どうも、ありがとうございました…」

B、逃げるように退場。
A、そのあとを追う。

○ 楽屋

B、頭を抱えている。
A、隣で座っている。

B「…ネタ飛ぶのはわかるけどさ、せめて最初の一言ぐらいは出てくるだろ」
A「え、俺飛んでた?」
B「はぁ? とぼけ切れねえだろ、あんなミスしといて!」
A「俺は台本に忠実にやったよ!」
B「俺があんなネタ書くわけねえだろ!!」

A、カバンからパソコンを出し、送られてきたネタを見せる。

A「ほら!」

ネタのBのセリフ、全て「??????」となっている。

B「…めちゃくちゃ文字化けしてる」
A「これは新しい形だな〜って、やっぱお前すげえなって思ったんだよ!」
B「いや、こんだけハテナ並んでたら普通は、その、新しい形、でも、なんか、…あぁもう! お前めっちゃ良い奴じゃん! 俺に全幅の信頼寄せすぎだろ!!」
A「二人で、天下取ろうな」

A、拳を差し出す。
B、ふてくされながらも、拳を突き合わせる。

(完)

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