salon

【上演時間】
20分弱

2019.11.20〜11.24 @北池袋新生館シアター
「男芝居フェス」参加作品

◯ 歌舞伎町・道(夜)

ボーイ、道ゆく人に声をかけている。

ボーイ 「お兄さん、この後ご予定は? ウチの店どうっすか? …(また別の人に)お兄さん、新しい風俗興味ないっすか? どうっすか?」

腕時計を見て、頭を掻く。渋い様子。

ボーイ 「こうなったらアレ使うか…」

ボーイ、手のひらにチラシを乗せ、その手を縦にする。チラシが落ちないように歩き始める。
向かいから桐野、歩きスマホをしながら歩いてくる。
顔面にその手が思い切りヒットする。
さながらパイ投げの様相。

桐野 「痛っ!(顔を押さえる)」
ボーイ「 大丈夫ですか!」
桐野 「え、何? 何が起きたの今?」
ボーイ 「大丈夫ですか!」
桐野 「(鼻血が出てないか確認し)あ、大丈夫みたい。すいません」
ボーイ 「ここ、下向いて歩いてると危ないですよ」
桐野 「ああ、すいません、ちょっと調べ物してて」
ボーイ 「もしかして、ちょっとやらしいお店とか探してました?」
桐野「 …ま、まあ、はい(照)」
ボーイ 「だったらウチの店どうですか? もうすぐそこなんで」
桐野「 あ、本当ですか。ちなみに業態って…?」
ボーイ 「サロンです、サロン」
桐野 「なるほど、じゃあちょっと、リーズナブルな感じで」
ボーイ「 そうっすね。ちなみにお兄さんSNSとかってやられてます?」
桐野 「ああ、まあ、一応…」
ボーイ 「もし今日遊んでってもらって、ウチの店のレビューを投稿していただくと、次回半額でお通しできるんですけど」
桐野 「半額っすか!」
ボーイ 「どうなさいます?」
桐野「 …じゃあちょっと行ってみようかなぁ」
ボーイ 「かしこまりました、ご案内いたします」

二人、袖へ歩き出す。
歩きながら、

桐野 「あの、さっき本当、ありがとうございました、助けていただいて」
ボーイ 「いえいえ、下向いてると危ないですからね」
桐野 「はい、気を付けます」

(暗転)

◯ 風俗店

(明転)

怪しげなピンクの照明、激しいユーロビート。
ボーイと桐野、入ってくる。

ボーイ 「では三十分で、六千円ですね」

桐野、ボーイに金を渡す。

ボーイ「 では、ご案内いたします」

ボーイ、桐野を連れて個室へ。

ボーイ 「ごゆっくりどうぞ」

桐野、椅子に座る、周りを見渡し、そわそわしている。
そこへ遊助、やってくる。

遊助 「こんにちは〜」
桐野「 …え?」
遊助 「え?」
桐野 「え?」
遊助 「いや、え?」
桐野「 …待合室、あっちだと思いますよ」
遊助 「知ってますけど」
桐野 「え?」
遊助 「今日三十分ですよね?」
桐野 「はい、三…、え?」
遊助 「よろしくお願いします」
桐野「 …え、そっちの店っすか?」
遊助「 (ツッコミのテンションで)いやそっちってどっちだよ!」
桐野 「え、怖っ」
遊助 「え?」
桐野 「ちょっと、違うなぁ、帰っていいっすか、すいません」
遊助 「いやちょっと、困りますよ。俺の評価が下がるでしょ」
桐野 「お金は置いていきますので」
遊助 「いやそういう問題じゃないんですよ」

揉めていると、ボーイ、やってきて、

ボーイ「 どうされましたか?」
桐野 「いやなんか、口の悪い青年が来たんですけど」
遊助「 お前も十分口悪りぃだろ!」
ボーイ 「すいませんお客様、当店のシステムをちゃんと説明しないまま、お通ししてしまいまして…」
遊助 「またかよ。なんで説明しないで行けると思ったんだよ!」
ボーイ「 …実は当店、『ツッコミ専門風俗』となっております」
桐野「 …すいません、『ツッコミ専門風俗』って聞こえたんですけど」
遊助 「合ってるよ!」
桐野 「お前さっきからなんだその口の利き方。客だぞこっちは!(詰め寄る)」
ボーイ 「(間に入り)このように! お客様のボケを極上のツッコミでおもてなしするのが、我々のコンセプトでございます!」
桐野 「いや俺ボケてないのよ。袋叩きじゃないかさっきから」
ボーイ 「すいません。ただこの男は、この店のナンバーワンです! 必ずやお客様を大満足させることを、ここにお約束いたします!」
遊助「 で、やんの? やんないの?(挑発)」
桐野「つまりこの店は、ボケたいという衝動を抱えた客がやってきて、そこにツッコミを入れることで快感へと昇華する。そういうお店だということですか?」
ボーイ「左様でございます」

桐野、フッと顔を緩め、

桐野「なるほど。ならもっと早く言ってくれればよかったのに。ワタクシ、こういう者です」

名刺をボーイに渡す。

ボーイ 「お笑いルポライター・桐野まさし?」
桐野 「まあお笑いに関する書籍出したりとか、講演会やったりとか。いわゆるお笑い界隈で、ちょっとした影響力を持たせていただいております」
ボーイ「 …そう、ですか(不安げに遊助を見る)」
遊助 「……(表情を変えない)」
桐野 「俺のツイッター、フォロワー三万人。…好きに書いちゃっていいよね?」
ボーイ 「…かしこまりました」

遊助と桐野、座る。

ボーイ「では、…ごゆっくりどうぞ 」

ボーイ、去る。
遊助、タイマーを手に取り、

遊助 「じゃあ、三十分ね。よーい、スタート」
桐野「いないいないばあ!」
遊助「あやすな!急にあやしてくんなよ!」
桐野「いないいない、…いない」
遊助「いねえんじゃねえか」
桐野「いる、いない」
遊助「今一瞬居たな?一瞬見えたぞ今」
桐野 「じゃあどうしようかな…、じゃあ小話するから、テキトーにツッコんできちゃっていいよ」
遊助 「なんだそのスタンス。ずっと腹立つな」
桐野 「こないだ、出版社のトイレでメシ食っててさ」
遊助 「その感じで友達いねえのかよ!(的な)」
桐野 「そしたら外から、男二人が話してんのが聞こえてきたのよ。立ち小便かな?」
遊助 「ああ、よくあるね」
桐野 「よくよく聞いてたらさ、誰かは分かんないんだけど、誰かの悪口なんだよね」
遊助 「たぶんお前だろ(的な)」
桐野 「なんかどうやら、メガネかけてて、背が高くて、ナメてる相手にはガンガン上から行くタイプらしいのよ」
遊助 「お前じゃねえか(的な)」
桐野 「で、そいつらもヒートアップしちゃってさ、『次会ったらもうボコボコにしちゃおうぜ』ぐらい言っちゃってるわけよ」
遊助 「大ピンチじゃねえか(的な)」
桐野 「俺も一旦「音姫」流してさ。ちょっと牽制って感じで」
遊助 「なってねえよ。てか自分って気づいてんじゃねえか(的な)」
桐野 「でも最後の最後に、『でもアイツ、タトゥーがめちゃくちゃダサいからなぁ』って言ってたわけよ。それでハッハッハってなって、その場は収まったらしくて」
遊助 「どういう展開だよ(的な)」
桐野 「で、『あ、タトゥーダセぇんだそいつ。助かったぁ』と思ってさ」

桐野、服を捲り上げる。
腹に『一期一会』とタトゥーが彫ってある。

遊助 「ダサッ! なんだそれ!外国人がやっちゃう漢字タトゥーあるあるじゃねえか!アリアナグランデですら2文字で留めてたのに!4文字もいっちゃってんじゃねえか!」
桐野 「(食らってる顔) 」

遊助、ツッコみ終わる。桐野、長めの息を吐く。

遊助 「…どうっすか」
桐野 「ん? まあ、なかなかいいんじゃない?(動揺)」
遊助 「絶対食らってんだろ!」
桐野「じゃあ次は、…もし自分が桃太郎だったら、鬼ヶ島に誰を連れて行くかの話、しよ!」
遊助「ああ、自分の思ってるやつを発表するのね?」
桐野「うん。もう、ある?頭に」
遊助「まあまあ、一応」
桐野「じゃ、せーので言おう? せーの、」
遊助「ライオン」 桐野「イヌ」(同時に言う)
桐野「え、何て言った?」
遊助「いや、ライオンです。やっぱ強い動物といえばライオンだし、すごい頼もしいじゃないですか」
桐野「あ、なるほどね!」
遊助「お兄さんは?」
桐野「イヌ」
遊助「バカなの?お前」
桐野「はんっ(感じる)」
遊助「自分のっていう条件何だったんだよ」
桐野「(ツッコミを受け、さらなる快感を感じている)」
遊助「今、桃太郎ができていくサマを見てるのか俺は?」
桐野「じゃ、2つ目。自分のやつ、ある?」
遊助「…まあ、ありますよ」
桐野「じゃあいくよ? せーの、」
遊助「カバ」 桐野「サル」(同時)
桐野「え、何て言いました?」
遊助「いや、カバ。カバって実は足も速いし、鬼も丸飲みしてくれそうじゃないですか」
桐野「あ、なるほどね!」
遊助「お兄さんは?」
桐野「サル」
遊助「何やってんの?」
桐野「はんんっっ」
遊助「え、作者?お前桃太郎の作者なの?もしくはたまたま自分の意見と原作が合致してるの?何なの?」
桐野「…じゃあ、3つ目ね」
遊助「キジだろ」
桐野「ヒント出していい?」
遊助「いらねえ、キジだろ」
桐野「アタマの文字とケツの文字、どっち知りたい?」
遊助「どうせ2文字だからどっちも危ねえな…、じゃあ、アタマ」
桐野「アタマ? …キ」
遊助「キジじゃねえか」
桐野「はんっ」

そこへボーイ、やってきて、

ボーイ 「お客様、オプションはいかがですか?」
桐野 「…オプション?」
ボーイ 「ワタクシからはこちらの(後ろ手に隠していたハリセンを出して)ハリセンをお勧めさせていただきます」
桐野 「なるほど、ハリセンか。ここへ来て『味変』ってわけですか。…いいでしょう」
ボーイ 「ありがとうございます! (遊助に渡す)」
遊助 「めちゃくちゃ楽しんでんじゃねえか」
桐野 「ハリセンでツッコまれるとなると、それなりに大きなボケが要求されるな…、かといって、力技に逃げるようなマネはしたくないし…、ん〜ここはあえて、ニュアンスボケにとどめておくべきか、それとも刺し違える覚悟で大ボケをかますのか、…ん〜(熟考)」
遊助 「いや早くしろよ!(ハリセンで叩く)」
桐野 「はぁっ!(感じる)」
遊助 「声出しちゃってんじゃねえか!(的な)」
桐野 「今のは違う、反射だよ。ヤカンに触ってしまった時と一緒だよ」
遊助 「もういいから早くボケろよ! ほら! 早く!」
桐野 「…布団がふっとんだ」
遊助 「しょうもねえな(ハリセン)」
桐野 「はぁっ!(感じる)」

遊助、ハリセンで連打する。
そのたびに桐野、「はぁっ」と声をあげる。

桐野 「やめろって、本当にやめろって。…おい、なんなんだこの店は!(取ってつけたような言い方)」

桐野、逃げるように店を後にする。
ボーイとすれ違い、

ボーイ 「ああ、お客様! …(遊助に)おい、お前なんか失礼なことしたのか? せっかく常連になってくれるチャンスだったのに!」
遊助 「(タイマーを止め)…7分か。まあ持ったほうでしょ」
ボーイ 「…えっ?」
遊助 「また絶対来ますよ、あいつ 」

(暗転)

       × × ×

(明転)

開店前のサロン。
ボーイ、店内を整備している。
遊助、椅子に座り、電子タバコを吸っている。
蒲田、スマホで桐野のブログを読んでいる。

蒲田 「あれを風俗と呼べるのかどうかは極めて微妙だが、新しい快楽に出会えたことは言うまでもない。人気が出る前に、また馳せ参じようと思う。…すごいじゃないですか!」
ボーイ 「もうウチ、人気出ちゃったけどね! 予約すごいもん! (スマホを取り出し)あっ、また電話だよ」

ボーイ、外へ。

蒲田 「やっぱ遊助さんってすごいっすね。自分も、遊助さんみたいにツッコミで客を満足させたいです! 」

遊助、蒲田を一瞥し、

遊助 「まずその服装、論外」
蒲田 「…あ、すいません」
遊助 「技術がねえなら、せめて身なりをちゃんとするとかできるだろ」
蒲田 「でも、普段着でツッコむのは、遊助さんリスペクトっつーか…」
遊助 「じゃあ何? (立ち上がり)お前俺ぐらいツッコめんの?」
蒲田 「いや、それは無理っすけど…」

遊助、電子タバコの煙を蒲田に向かって吐く。
蒲田、ゲホゲホとむせながら、

蒲田 「いや、煙いな! …火事が起きたのかと思うわ!(たどたどしく)」
遊助 「まず『間』がクソ。それじゃ何を言うか客に読まれんだろ」
蒲田 「すいません」
遊助 「おい(電子タバコを差し出す)」
蒲田 「いや、でも…」
遊助 「いいからやれよ!」
蒲田 「(しぶしぶ煙を吐く)」
遊助 「いや煙いな! 玉手箱開けたのかと思うわ! お前の喉は竜宮城か!」
蒲田 「(感嘆し、思わず電子タバコを落とす)…すげえ」
遊助 「…拾えよ」
蒲田 「…ああ、すいません(拾って渡す)」
遊助 「まあ今日はどうせツイッター見てきたミーハーな奴しか来ねえから、お前回しとけよ。俺ちょっと出てくるから。ボーイに伝えといて」
蒲田 「はい、お疲れ様です! 」

遊助、外へ。
ボーイ、入れ違いで入ってきて、

ボーイ 「遊助は?」
蒲田 「ちょっと、出てくるって言ってました」
ボーイ 「ああ。ま、今日は一見さんばっかりだから、大丈夫だよ」
蒲田 「はい、頑張ります! 」

桐野、やってきて、

桐野 「来ちゃった♡」
ボーイ 「はっ! あっ! ご予約、されてましたっけ?」
桐野 「してないよ? だから開店前に来たんじゃないかよ」
ボーイ 「あの、ちょっと、それは困ります…」
桐野 「ウワサに聞くところだいぶ繁盛してるみたいじゃない! 誰のおかげなんだ? ん? 誰のおかげなんだ?」
ボーイ 「桐野様の、おかげでございます」
桐野 「だな! じゃ、レビュー書いたから半額三千円と! アイツいないの? こないだの!」
ボーイ 「遊助はあいにく不在でして…」
桐野 「あ、そう。そりゃ残念だねぇ。でもこの店のことだから、さぞ良いツッコミが揃ってるんでしょうよ! 」

桐野、勝手に個室の椅子に座る。

ボーイ 「(蒲田に)…行けるか?」
蒲田 「いや無理っすよ。ここでしくったら遊助さんに殺されます!」
ボーイ 「…(苦悩するが、パッと顔をあげて笑顔)もちろんでございます。こちら新人ではありますが、ぜひ遊んでやってください」
桐野 「新人さん? 鍛え甲斐あるねぇ〜」

ボーイ、蒲田の背中を押して個室へ。

蒲田 「いや、ちょっと待ってくださいよ」
ボーイ 「(笑顔で)ごゆっくりどうぞ」

ボーイ、そそくさと外へ。
蒲田、その場であたふたする。

桐野 「とりあえず座んなよ」
蒲田 「…はい、失礼します(座る)」
桐野 「今日はね、シンデレラの馬車? カボチャじゃなかったら何がいいかなぁ〜って考えてて〜」
蒲田 「…いや、カボチャ、でいいだろ」
桐野 「え?」
蒲田 「カボチャで、いいだろ」
桐野 「…うん、まあそうなんだけど、それを言っちゃあおしまいじゃないかよ!」
蒲田 「…いや寅さん、かよ」
桐野 「…え? 普通に聞こえないんだけど」
蒲田 「寅さんかよ! …と、言いました」
桐野 「…あ、寅さんみたいに聞こえたんだね! 僕の言い方が。あちゃ〜っ! でいろいろ考えたんだけど、カボチャじゃなくてレタスがいいかな〜って思ったんだよね!」
蒲田 「いやモスバーガーかよ!」
桐野 「なんで?」
蒲田 「モスバーガーみたいになっちゃうだろ!」
桐野 「ならない。どう間違えてモスバーガーになっちゃってるのかも分からない」
蒲田 「…すいません」
桐野 「え、君さ、人に対して、ツッコミを入れたことって、ある?」
蒲田 「(素早く)あるよ!」
桐野 「強いなぁ。ボケてないときに限って強いなぁ」
蒲田 「すいません」
桐野 「まあナンバーワン以外はカスだっていうのは風俗店あるあるだけど、これはちょっと、金返せって言われても文句言えないよ?」
蒲田 「すいませんでした」
桐野 「はあ〜。こんな店をリコメンドしちゃったとなると、僕の看板にも傷がつくなぁ〜。あのブログ削除しようかな〜」
蒲田 「…(うつむいて)本当に、すいませんでした」
桐野 「…いやいや、泣きゃいいってもんじゃないでしょ」
蒲田 「…俺、遊助さんみたいなツッコミがしたいんです。でも、いくら家で練習しても、全然できるようにならなくて、どうしたらいいか分からなくて…」
桐野 「(ため息)」

そこへボーイ、遊助を連れて戻ってくる。

ボーイ 「お客様! …連れてまいりました」
遊助 「(蒲田を見て)お前なに泣いてんの?」
蒲田 「…すいません」
ボーイ 「どうかここからは、遊助とのプレイを存分にお楽しみください!」
桐野 「いやあ、もうそんな気分でもないなぁ…」
遊助 「(蒲田に)ほら、どけよ。お客さんに失礼だろ」
蒲田 「…はい。失礼します」

蒲田、うつむいたままトボトボ歩き始める。

ボーイ 「お時間は、ここからきっちり三十分とさせていただきますので…」
桐野 「ちょっと待ちなさい」

蒲田、立ち止まる。

桐野 「君、彼のようにツッコミが上手くなりたいって言ったね?」
蒲田 「…はい」
桐野 「だからダメなんだ。ツッコミには先天的な向き不向きがある。それを見極めを誤ったまま努力をしたって、上達するわけがない。こっちへ来なさい」

蒲田、元の場所へ。

桐野 「君は外していいよ」
ボーイ 「…はい。ごゆっくりどうぞ」

ボーイ、外へ。

桐野 「ツッコミには2種類ある。1つは、初速の速さを売りにするツッコミだ。これは、彼が得意とするやつ。だが初速に自信のない人間が、ツッコミとして生き抜く術が1つだけある。…ワードセンスだ」
蒲田 「…ワードセンス?」
桐野 「ああ。ボケから一定時間のストロークを設けた後、言葉の巧みさを武器にしてツッコむ。もちろん間を空ける分リスキーではるが、成功すれば初速以上の力を発揮する場合がある。試しにやってみるか?」
蒲田 「…え?」
桐野 「僕ね、シンデレラの馬車がカボチャじゃなかったら、何がいいかな〜って思うんですよ」
遊助 「いやカボチャでいいだろ!(的な)」
蒲田「…(言葉が出て来ず)すいません」
桐野「僕ね、シンデレラの馬車がカボチャじゃなかったら何がいいかなって思うんですよね」
桐野「魔女の手間増やすな!」
蒲田「(また出て来ず)すいません!」
桐野「(蒲田に迫りながら)僕ね、シンデレラの馬車がカボチャじゃなかったら何がいいかなって思うんですよね!」
遊助「日がな一日そんなこと考えてんのか!」
蒲田 「…一回診てもらったほうがいいんじゃないですか?」
桐野 「そう、それでいいんだよ。そうやって、自分の言葉を自分のタイミングで発すればいいんだよ。いや〜僕ね、カボチャじゃなかったらレタスがいいかなって思うんですよね」
遊助 「葉物野菜はねえだろ!」
蒲田 「せめて、キャベツぐらいの強度が欲しいですね」
桐野 「そうそうそうそう! もっとミート意識してごらん? ボケが飛んできた所に対してミート意識してごらん! …あとね、ガラスの靴もプラスチックでいいと思うんですよ」
遊助 「おままごとじゃねえか!」
蒲田 「急に舞台が、中国になっちゃいましたね」
桐野 「はい中国出たよ! もっと自分の言葉出していこう! あと赤ずきんちゃんはアレ、ウーバーイーツに頼めばオオカミに会わなくて済んだよね」
遊助 「現代版クソつまんねえな!」
蒲田 「あの森は、配達圏内なんですかね?」
桐野 「逃げんな逃げんな! 俺のボケなぞったって意味ねえんだよ!自分の言葉をだせ! …あとオオカミの腹に石じゃなくて手榴弾詰めればよかったですね」 
遊助 「発想がサイコパスか!」
蒲田 「手榴弾はどっからかき集めてくるんですかね?」
桐野 「いいよいいよ!今視点をズラしただろう? ボケから視点ズラしていくのいいよ! …(遊助に)白雪姫って、どう思う?」
遊助 「好きな子か!」
蒲田 「この問いに正解はあるんですかね?」
桐野 「…こっちのほうが、向いてる気がしないか?」
蒲田 「…なんか、まだフワフワしてるんですけど、モノにできそうな気がします」
桐野 「人間誰しも、理想と現実とのギャップに苦しむものだ。だからこそ、自分が今持っているものを磨くことで、その差を埋めていく。これはツッコミに限らず、あらゆることに応用できる教訓だと思うんだ。…ま、そんなことを書いた本が、今週出る」

桐野、カバンから本を取り出す。
『ツッコんで、生きてゆく。』という表紙。

遊助 「いや宣伝かよ!」
蒲田 「マーケティングが、ステルスすぎやしませんか?」
桐野 「待合室にでも置いてくれ。じゃ、このへんで 」

桐野、立ち上がる。

蒲田 「ありがとうございます!(頭を下げる)」
桐野 「…また、つまらないものを、面白くしてしまった」
​​
桐野、立ち去る。

(暗転)

       × × ×

(明転)

蒲田、電子タバコを吸いながら、桐野の著書を読んでいる。
遊助、やってきて、

遊助 「お疲れさまです!」
蒲田 「おう。どう? 最近調子は」
遊助 「はい、もう相変わらずの初速で、やらしていただいてます」
蒲田 「まぁな〜。お前は初速が取り柄だもんな〜」
遊助 「そうなんすよ〜。蒲田さんのワードセンスには到底かなわないんで」
蒲田 「まあ俺も申し訳ないぐらいのスピードで抜いちゃったもんなお前を。…おい(電子タバコを手渡す)」
遊助 「いや、そんな失礼なことは…」
蒲田 「いいから、ほら」
遊助 「…じゃあ、失礼します(顔に煙を吐く)」
蒲田 「…君の口は、バルサンでも焚いてるの?」
遊助 「うわ、すげー! 絶対俺そのワード出てこないっすもん!」
蒲田 「だろ? まあ今後もさ、お互い自分の武器で戦っていこうや。な!」
遊助 「はい、あざっす!」

ボーイ、後ずさりしてやってくる。

ボーイ 「お客様、まだ開店前ですので…」

後から桐野、入って来て、

桐野 「来ちゃった♡」
遊助 「来ちゃったじゃねえよ!」
遊助 「北海道シチューの、CMですかぁ?」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?