13. 必要悪

◯ 取調室

刑事(男・45)と容疑者の男(25)、向かい合わせで座っている。

刑事「…なんであんなことしたんだ」
男「……」
刑事「さすがに、やってませんとは言わないよな?」
男「……」

刑事、机を叩き、

刑事「なんとか言え!!」
男「…僕が、やりました」
刑事「よし、それでいい。理由を聞かせろ」
男「…あの日は雨で、客の入りもまばらでした」

◯ コンビニ(回想)

男、従業員の制服を着て、雑誌を陳列している。
レジには女性店員(20)。清楚で真面目そうな雰囲気。
男、女を見ている。
女、男に気付いて、軽く会釈。
男、鼻の下を伸ばしながら、会釈を返す。
すると1人の老人(男・70)、来店し、レジへ。

女「いらっしゃいま…」
老人「どうなってるんだこの店は!!!」
女「…えっ」
老人「弁当買ったのに箸が付いてないじゃないか!!」
女「申し訳ございませんでした!」
老人「手で食えっていうのか!!」
女「今、お渡ししますので…」
老人「いらねえよ!! それよりお前の態度が気に入らねえんだよ!! 遊び半分で仕事しやがって! 客のことナメてるだろ!!」
女「そんなことは、ございません…」

買い物客、チラチラと様子を見ている。
男、勇気が出ず、立ちすくんだままになっている。

男の声「彼女を助けたいという気持ちと、怖くてたまらない気持ちが、僕の中で正面衝突してしまったんです」

男、拳を強く握りしめ、

男「おりゃああああああ!!!」

その場で服を脱ぎ始める。

女「きゃあああああ!!!」
老人「?」

老人、振り返る。
男、全裸になっている。

男「いらっしゃいませぇっ」

(回想終わり)

◯ 取調室

男、ボロボロ泣きながら、

男「さらに大きなハプニングを作れば、それまでのハプニングがウヤムヤになるんじゃないかと思って、…それで、それで…(机に突っ伏す)」

刑事、立ち上がり、男の肩を持つ。

刑事「正義の形は、人それぞれだな」

(完)

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