4. 教師と生徒

◯ 生徒指導室

男性教師(40)、椅子に座っている。
男子生徒(14)、その横で申し訳なさそうに立っている。

教師「どうして呼ばれたか、分かるな?」
生徒「…すいませんでした」
教師「俺は別に、説教するつもりはないんだ。どうしてお前がタバコなんて吸ったのか。それが知りたいだけなんだ」
生徒「…反省してます」
教師「何か、ストレスでも抱えているのか。友達とか親御さんとか、相談しづらいことでもあるのか?」
生徒「……」
教師「黙ってちゃ分からないぞ?」
生徒「…なんでタバコを吸ったのかっていったら、…いや、僕が悪いです、すいません」
教師「どうした。言ってみなさい」
生徒「たとえば、タバコを吸う前の世界を『甲』、吸った後の世界を『乙』とするなら、…いや、僕が悪いです、すいません」
教師「なぜだ。なかなか良い導入だったじゃないか」
生徒「タバコを吸う前の世界を『レア』、吸った後の世界を『ウェルダン』とするなら、…いや、僕が悪いです、すいません」
教師「そこにこだわりがあるのか? 先生は、是非その先が知りたいんだが」
生徒「僕はタバコを吸いはしましたが、常習性はないので、おそらく『ミディアムレア』の状態だとは思うんですが」
教師「分かる、分かるぞ。先生にも、ミディアムレアの時代はあった」
生徒「…いや、僕が悪いです、すいませんでした」
教師「…つまりあれか。お前はタバコを吸うことで、世界がどう変わって見えるかを知りたかった、そういうことだな?」
生徒「これは宇宙の話なんです」
教師「…うん、続けて」
生徒「宇宙は絶え間なく膨張を続けていて、人類がいくら『果て』を目指しても、届かないじゃないですか」
教師「間違いないな」
生徒「…いや、僕が悪いです、すいません」
教師「興味深いなぁ。お前今日ずっと興味深いぞ? なぜ途中で取り下げてしまうんだ?」
生徒「結局どんな御託を並べても、悪いのは僕なので」
教師「そうだよ? ぶっちゃけお前が悪いよ? でも、すごく興味深い導入を何度もされて、生殺しに遭っている俺の身にもなってくれ。先生はもう限界だ」
生徒「…では、もっとシンプルに話します」
教師「そうしよう」
生徒「タバコは、兄貴の部屋から拝借しました。ただの興味本位です。でも、タバコを吸う前の世界を『甲』、吸った後の世界を『乙』とするならば、僕は『乙』の世界に行きたいと思いました」
教師「結局そっちを採用するんだな。続けて?」
生徒「火をつけて、煙を吸い込んだ瞬間、僕の体に異変が訪れました。感じたことのない目眩に襲われ、頭がクラクラしたのです」
教師「いわゆる、『ヤニクラ』というやつだな」
生徒「常習者にはこの症状は訪れないと、のちに本で知りました。僕はこれを受けて、頭がクラクラする状態の世界を『乙』、その先の世界を『丙』と、名称を変更することにしました」
教師「臨機応変な姿勢は、今後の人生にとっても大切だな。続けて?」
生徒「…いや、僕が悪いです、すいません」
教師「んだお前! イーッてなるわ! じらしてじらして。何か知らんけどめちゃくちゃムラムラしてきたわ! 大の大人をムラムラさせて、何が目的だ!」
生徒「…全部、僕が悪いです」

チャイムが鳴る。

教師「…しょうがない。原稿用紙渡すから、反省文書いてきなさい。しっかり結論まで書くこと! いいな!」

教師、原稿用紙を渡し、そそくさと出ていく。

生徒「(深々と頭を下げて)すいませんでした!」

生徒、原稿用紙を見つめながら、

生徒「…腕が鳴るぜ」

(完)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?