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日本家電がまた戻ってきた

JPINS/文日本ブランドは前世紀の中国家電市場の主役だったが、2000年以降、中国家電の台頭につれて“総崩れ”になった。現在、中国人の所得レベルの向上にともない、消費の高度化が長期的なトレンドとなっている。価格ではなく品質で勝負する日本の家電は再び多くの消費者の支持を得られるだろうか。

日本企業は中国人の消費の高度化にすぐに気づくべきだ。2014年前後、中国の婦人らが日本のホテルに入った時に、日本の便座に衝撃を受けた。なぜなら、1つの便座で消毒・殺菌・加熱・消臭ができるとは思いもよらなかったからだ。生活の質がそのまま何段階にも引き上げられたことから、中国では日本の便座や炊飯器の購入ブームが巻き起こり、「日本ツアー」の大部分が「ショッピングツアー」となった。日本の便座や炊飯器の価格は中国国内の同類製品の10倍であるにもかかわらず、中国の消費者は気にも留めず、簡単に2、3個買ってしまう。2015年の春節期間だけでも、日本を訪れた中国人観光客が購入した便座は40億円近くに達した。

20年前と違い、現在の中国家電市場はまったく新しい構図となっている。中国賽迪研究院が発表した「2021年中国家電市場報告」は、「2021年、消費の高度化によるハイエンド市場の活性化は、中国家電市場の急激な落ち込みからの脱却をけん引するエンジンとなっている」と指摘する。家電に対するニーズは基本的な機能を満たす「温飽(基本的欲求の充足)型」から「品質型」へとシフトしている。大型テレビ、床置式エアコン、マルチドア冷蔵庫、大容量洗濯機、大風量タイプレンジフードなど高品質の製品が人気を集めている。

従来のエアコン市場を例にとると、艾健網が発表した「2021年度中国セントラルエアコン市場報告」によると、2021年の中国エアコン市場の販売量は前年同期比8.7%減少したが、ハイエンドの家庭用セントラル空調は急速な伸びを見せ、出荷額は30%近く増え、市場規模と成長率はいずれも過去最高のレベルに達した。このことから、従来型家電の消費の高度化傾向が非常に顕著となっている。

中国の家電市場は、野蛮で原始的な「価格競争」の段階を経て、日本企業の伝統的強みである品質を追求する段階に入ったことは明らかだ。

またエアコン市場を例にとると、中国の格力(グリー・エレクトリック、美的集団(Midea Group)、海爾集団(ハイアールグループ)は国内市場のトップ3であるが、世界のトップ3でもあり、絶対的な優位性を有している。にもかかわらず、セントラル空調というハイエンド市場で日本企業は生き残っているだけでなく、しっかりと生きている。2021年に中国で100億元以上を売り上げた空調ブランドは計4社で、中国の格力、美的を除く2社は日本ブランドのダイキンと日立だ。このうちダイキンは22.2%のシェアでインテリア製品の細分化市場シェア1位となり、マルチエアコンのシェアは長年業界1位の座をキープしている。

ダイキンエアコンは売れ行きがよく、しかも高く売れる。ネット通販で見ると、天吊形エアコンやセントラル空調は、馬力やエネルギー消費量など基本的なパラメーターが同じだが、ダイキンは格力の1.5〜2.5倍の価格で売られている。また、ダイキンは格力などのライバル企業に比べて控えめで、広告宣伝にほとんど力を入れていないため、ダイキンが中国の企業だと思っている人も少なくない。価格競争が最も激しい中国市場で、ダイキンのエアコンはなぜこんなに高く売れるのだろうか。その答えは、日本の便座と同じように、ダイキンは優れた品質で中国の消費者の心をつかんだことにある。エアコンの中核であるコンプレッサーでも、省エネ、空気清浄、殺菌、インテリジェント化などでも、ダイキンはエアコン業界の“天井”といわれている。ダイキンと中国ブランドは技術面・品質面でまだ大きな差がある。例えば、省エネ面では、ダイキンが自社開発した冷媒は無毒・無臭・無汚染で、他の冷媒よりも冷却効率が20%以上高く、中国企業はダイキンの足元にも及ばない。

実際、すでに日本の有名家電メーカーが戻り始めており、2020年には松下厨電科技プロジェクトが浙江省嘉興市で実施された。パナソニックが中国で家電工場に投資するのは16年ぶりとなる。2022年1月、パナソニックグループグローバル副総裁、中国東北アジア総代表の本間哲朗氏は『中国企業報』のインタビューに応じ、現在、ほぼ大部分の家電、エアコン、コールドチェーン製品、住宅設備が中国国内で開発されていることを明らかにした。3月、松下電器中国東北アジア公司執行副総裁兼松下家電(中国)有限公司総経理の呉亮氏は記者の取材に対し、2021年の中国・北東アジア地域全体の売上高は前年同期比111%増となっており、次のステップとして松下家電は、キッチン・浴室スペースに大型家電、冷蔵庫、洗濯機、空調、小型家電を加えたBIK商品群をそろえ、パナソニックや競合ブランドよりも高級なセカンド・ブランドを目指していると答えた。

中国の家電市場は価格競争から品質競争に変わり、日本家電に新たなチャンスをもたらすのは確かだが、日本企業はなおも激しい競争に直面するだろう。なぜなら、中国家電もハイエンドブランドの構築に全力を挙げているからだ。例えば、ハイアールのハイエンドブランド「カサルテ」、美的集団のハイエンドブランド「COLMO」はいずれもすでに一定の規模を備えており、現在、「カサルテ」の市場売上高は100億元前後に達しており、国内ハイエンド家電市場シェア1位の座をキープしている。さらには一部の中国家電はすでに日本市場の開拓を始めており、2021年の海爾智家(ハイアール・スマートホーム)のハイアールとAQUA(アクア)の冷凍庫は日本市場で43%のシェアを占め、2年連続で市場1位となった。

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