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中国・新型コロナウイルス禍 サービス産業デジタル化は巨大市場

オンライン教育に殺到

中国江蘇省丹陽市の中学2年生、周玉玥さんは今年の春節(1月25日)の後、家でオンライン教育を受けることになるとは夢にも思っていなかった。春節休暇が終わったら、本来、2月10日から新学期が始まるはずだったが、3月下旬になっても学校側から具体的な新学期開始時期を指示して来ない。

江蘇省は8000万の人口を擁し、この外に他都市から出稼ぎに来ている人が1000万人前後いる。新型コロナウイルス感染発生後2カ月の間、同省の感染者は631人で、死者は出ていなかった。初動の感染防止策が効果的だったためだが、学校は休校し、工場は長い間、操業停止状態が続き、本稿執筆時の3月下旬になってもフル操業に戻ってはいない。

周さんは家で暇を持て余しているわけではなかった。「毎日、学校のオンライン授業を受けなければなりません。パソコンの動作操作はいつも遅いので学習条件は良くありませんよ」とぼやく。学校のオンライン授業の外に、さまざまな有料、無料の講座があり、今後、高校に進学し、大学受験を目指している彼女は何とか遅れずについて行かなければならないと焦っているのだが、パソコンの操作は遅く、一部の先生の教え方は彼女には合わない、と不満だらけだ。

「休校だが休学ではない」

新型コロナウイルス発生後、中国各地で休校が続き、そこから「休校だが休学ではない(勉強は休まない)」という考え方が広がってきた。少し前まではすさまじい勢いだった対面(オフライン)の塾が感染拡大を避けるために休講を余儀なくされ、多額のコストをつぎ込んで、オンライン転換の道を模索し始めた。また、各地の公立学校もオンライン授業に乗り出し、オフライン教育の休業を補う代替になった。感染拡大による休校期間中に、オンライン教育プラットフォームは昨年夏休みの巨額投資を顧みず、一転して全国の小中学生に無料講座を提供し、休校によって家庭に閉じ込められ、たまったストレスを吸収排出するドレーンの役割を果たした。無料講座プラットフォームは多くの新規ユーザーを開拓した。第一財経記者によると、補習講座のユーザーは1000万人を上回り、新東方オンラインは延べ200万回の無料講座を発信した、という。

こうしたドレーン効果の外に、最近、オンライン教育企業の台頭は金融市場で注目され始めている。一部のオンライン教育企業の株価が上場以来の新高値で取引されている。2月7日、新東方オンラインの株価は史上最高値の37・5香港ドル(約525円)を付けた。網易有道も同10日に上場以来の最高値、29・5ドル(約3275円)に達し、発行価格を73・5%上回った。

サーバー崩壊現象も

ユーザー激増によって、オンライン教育プラットフォームに動作の遅延、サーバーの崩壊などの現象が起きている。本来、2月10日に始まるはずの学校は休校のままで、大部分の児童生徒がオンラインを利用し始めたために、関連プラットフォームが全面的なマヒ状態に陥った。その主な理由はアリババクラウドの過負荷だった。アリババクラウドがメーンであり、市場占有率が高いからで、影響は各社によってさまざまだった。オンライン教育企業、洋葱学院の関係者はメディアに対して「確かにアクセス量が激増し、サーバーはパンク状態だ」と語った。サーバーはこれほど多数のユーザーが同時にオンラインにアクセスすることを想定していなかった。

2月段階で、中国のオンライン教育各社はプラットフォームのインフラ整備に投資すべきか否か決めかねていた。当時、無料講座がもたらしたユーザー増が長期的な有料ユーザーになるのか否か、明らかでないからだった。もしこの現象が短期的に終わり、中期的な需要増に結び付かない場合、多額投資をしても、平常に戻った後、供給能力過剰になるかもしれないからだ。

教育効果の面から見ると、オンラインとオフラインの違いは、オンラインでは教師側が生徒側の理解度を即座に知ることできないことである。いかにして教育効果、効率を把握できるように改善するか、技術的な課題であり、この分野の研究開発が待たれる。こうした事情から企業はインフラ投資に二の足を踏んだ。

プリンター需要が急増

もう一つ、親たちの頭痛の種があった。オンライン教育にはネット教材を使うために、ユーザー家庭でプリントする必要がある。2月初め、中国の大多数の家庭にはプリンターがなく、春節後、急速にプリンターの需要が増加し、一時的に供給が需要に追い付かず、プリンターメーカーには意外だった。

プリント専門企業にはラッキーで、オンラインでプリントの注文を受け、プリントアウトしたテキストを宅配便で送り、部分的にこの問題を解決した。しかし、日常的にプリントする需要が増え、プリンターメーカーはユーザーの需要を満足させるために、時間に追われて製造した。

インターネットが「ニューインフラ」

ここ数年、モバイルインターネット、バーチャル・リアリティー(VR)、人工知能(AI)などの技術がさらに進み、オンライン教育は市民社会に溶け込み、将来性は前途洋洋だとして、投資家の狙い目になっている。中国「互聯網週刊(チャイナ・インターネット・ウイーク)」の2月29日号は「データを見ると、2020年のオンライン教育のユーザーは2億9600万人に達し、市場規模は4330億元(約6兆9300億円)に及ぶ」と報じた。

オンライン教育にとどまらず、今回の新型コロナウイルス禍によって、中国のインターネット産業界に計り知れない変化が生じたと言えよう。今年2月以後、中国人の多くはオンラインで生活必需品を購入し、人との接触を避けるために、オンラインスーパーの商品は充実し、物価も安定していた。また、多くの飲食店が大型の外販プラットフォームに依拠して、オンラインサービスを展開し、家に閉じこもらざるを得なかった顧客の利便を図り、企業自らも売り上げ激減を免れた。さらに、スマートフォン(スマホ)決済は想像以上の役割を果たし、現金に触れないで支払いができることで感染防止に貢献した。テレコムのビッグデータ分析は感染経路データを提供し、関連部門の検査効率向上に貢献した。

全ての中国人に強烈な印象を残しただろう。――中国にインターネットがなければ、中国人の新型コロナウイルスとの戦いは困難を極めただろう、と。

もし、こうしたことはすでにインターネットが備えているビジネスモデルだったとしても、この新型コロナウイルス禍の間に、伝統的な生活サービス業は短期間にインターネットと「化学反応」を起したと言える。デジタル生活のプラットフォームはある程度、すでにサービス業デジタル化の「ニューインフラ」となり、中国経済の新旧原動力の転換に推進力を提供した、「ニューインフラ」は多くのインターネット企業にとって、新たなチャンスである。国家統計局が発表したデータによると、昨年のサービス業の増価値は国内総生産(GDP)の53・9%を占め、雇用の50%を受け入れた。サービス業は国民経済の主導産業となった。しかし、これと同時に、中国のサービス業の80%はデジタル化されないままで、インターネットの力を借りて、自らのモデルチェンジ、レベル向上を実現しなければならない。

インターネット企業およびさらに範囲を広げて、インターネット産業全体について、その市場は極めて巨大である、オンライン教育はそのほんの一部に過ぎない。

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