フォルテの誕生日2017

「おや、もうこんな時間かい。やれやれ、本当に世話焼ける子たちだねぇ…。」

その日、白き月の中でフォルテのための誕生日パーティがエンジェル隊によって開かれ、言わずもがなのドンチャン騒ぎで夜遅くになって、夜更かしそうな皆をあやしてようやく全員落ち着かせたフォルテは、誕生日プレゼントの入った袋を持って、自室に向かって歩いていた。

「にしてもミルフィー、いつもの世話の礼まではいいが、『皆のお母さん』はないだろ…。せめてお姉さんって言ってほしかったよ。」

苦笑しながらも祝ってくれた皆の気持ちに悦びを感じている最中、ふいと彼女を呼ぶ声が回廊に響いた。

「まあ、フォルテ、ここにいたのね。」
「シャトヤーン様…っ。」

振り返れば、回廊の交差から月の聖母であるシャトヤーンが歩き出てきた。

「良かった、もう部屋に戻って休んでいると思ったわ。」
「シャトヤーン様こそ、もうお休みになられたのかと…。こちらに何かご用があるのでしょうか?」
「ふふ、そのとおりよ。」

シャトヤーンはいつもの優しい微笑みを浮かべながら、懐から一つの平たい箱を取り出した。

「他の方から聞きました。今日は貴方の誕生日ですね?おめでとう、これは貴方へのプレゼントよ。」
「えっ、シャトヤーン様が、私、に…?」

いきなりの出来事に、フォルテは少々、いやかなり面食らった気分になっていた。

「ええ、材料の調達に少し手間を取ったけれど、間に合ってよかったわ。さあ、遠慮せずにここで開いてみて。」
「は、はい、それでは…。」

まだ戸惑っているフォルテは、素直にその言葉を従い、箱の蓋を開けてみた。
箱は上質な原木で作られ、ほのかな木の香りが渋さと共に伝わり、そして箱の中には-----。

「これは…モノクル、じゃないですか。」

そう、今フォルテがかけている片眼鏡とほぼ同じであるが、レンズの光沢や質感から、明らかにクオリティが違うのが分かる。

「そう、けれどこれは、私がロストテクノロジーを少し応用して作った手作りなの。少しでもあなたの目の負担を減らせたらと思って、私の感謝の気持ちを込めて、ね。」
「そんな、こんな私に、シャトヤーン様の手を煩わせなくても…。」
「あなただからこそよ。エンジェル隊の隊長としての仕事、とても大変でしょう?いつも守られている私が、貴方達にできることは、これぐらいしかできないのが寧ろ心苦しいぐらいです。」

屈託のない、慈愛に満ちた笑顔をフォルテに見せ、感謝の言葉をかけた。

「ありがとう、フォルテ、いつもエンジェル隊を纏めてくださって。苦労することも多々あるけれど、体にも注意して無理はなさらないようにしてくださいね。」

「シャトヤーン、様…。ありがとうございます…。」

少々照れた表情を浮かべては、フォルテは顔を俯かせ、帽子で目を伏せた。照れ隠しもあるが、ふと湧き上がる感激の気持ちを堪えていたからだった。

内戦地帯であった惑星に生まれて肉親を失い、幼い仲間達とともに生きながらえ、そしてエンジェル隊に入った今でも、フォルテは常に上に立つものとして気丈にやってきた。弟妹のようで家族のような仲間こそ、今は多くあるけれど、"普通な子供"として自分が扱われることは殆どなかった。そんな中、シャトヤーンの気遣いと言葉は、彼女に初めて"母"に心配される"娘"の気分をもたらしてくれた。人生において感じたことのない、"親"に甘えているような気持ちは、恥ずかしながらも----嬉しかった。


翌日の朝、新しい片眼鏡をかけては、フォルテはいつものように一癖あるエンジェル隊と共に任務に赴く。白き月という"家"を帰り場所に、可愛がり甲斐のある"家族"と共に、敬愛する"母"に見守られながら----。

-終わり-

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