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読書記録 「採用基準」

この記事では、マッキンゼーの採用マネジャーを12年務めた、伊賀泰代さん著「採用基準」という本のレビューを書いていきます。

今リーダーシップ関連の書籍をいろいろ読んでいますが、この本がそのきっかけになりました。


リーダーシップの総量が足りなすぎる

著者が本書で最も訴えたかったメッセージはこれだと私は思いました。

これはリーダーの立場に立つ人の指導力、統率力の無さを訴えるものかというと、違います。

日本にももちろん優れたリーダーは多くいるのですが、著者が問題視しているのは「小さなリーダーシップの圧倒的な欠如」です。

リーダーシップは誰もが発揮できるし、場面に応じて誰もが発揮すべきだというのが著者の考え方です。事実、マッキンゼーでは誰もが主体的にリーダーシップを発揮するのだそうです。

リーダーシップは誰もが発揮できるというのは、マッキンゼーという組織に限った話ではないはずです。

別に本書で特別強調されていたわけではありませんが、個人的にこの「小さなリーダーシップ」というワードがとても気に入ったので、推していこうと思っています。

リーダーとして目立つ立場にいる人ではなく、何の肩書もない一般メンバー。そんな人たちが限定的な局面で発揮する「小さなリーダーシップ」の総量を増やすことが企業の、ひいては日本の活力につながります。


リーダーの役割とは

これは人によっていろいろな考え方がありそうです。

「メンバーをまとめて団結させる」「先頭に立ってチームを引っ張る」

どれも間違った答えではないと思いますが、著者の考えではリーダーの役割は「チームの成果目標を達成すること」です。

極端な話、人間関係が最悪でも成果目標を達成すれば良いということですかね。現実には人間関係が最悪で成果目標を達成できるチームはあまり見ませんが・・・

ここで重要なのは、必ずしも「良い人」である必要はないということです。

著者は「救命ボートの漕ぎ手を選ぶ」というメタファーを使っていました。これは非常にわかりやすいですね。

あなたが乗った船が沈没して、乗る救命ボートを選ぼうとしたとき、どんな人の船に乗りますか?

この場合最優先なのはもちろん命を守ることです。

人柄は良くてとても仲良くしている、けど少し頼りない、そんな人のボートに乗るでしょうか?

一方で普段はぶっきらぼうで、言いにくいこともずけずけと言う。けれど自分の仕事の目標は常に達成する、そんな人のボートに乗るでしょうか?

多くの人は後者を選ばれるのではないでしょうか。

つまりそれこそがリーダーの資質であり、求められる役割であるというのが、著者の意見です。

日本のリーダーシップの総量の少なさは、成果にこだわらない組織風土に一因があると著者は書いています。

成果主義が日本になかなか根付かないことは周知の事実ですが、成果よりも「和」を重んじる日本的な組織風土は、リーダーシップの発育を阻害していたのですね。

成果にこだわった言動というのは、時として「和」を乱しているように見えます。そういう言動をする人を潰してしまう、無視してしまう、そういう風土が根付いてしまっている会社はきっと日本にはまだまだたくさんあります。

この著者の考え方は、リーダーシップをかなり行動という側面から強く見た意見という印象です。

人格という側面から見たときには、西郷隆盛の言葉で「成果の高い者には報酬を、徳の高い者には地位を」という言葉もありますし、リーダーには求められる人格というものもあるのかなとは思います。

ただ、その人格というものは誰しもが持ち合わせるものではありません。「小さなリーダーシップ」の観点からも、行動という視点からリーダーのあるべき姿を紐解く姿勢は重要ですね。

リーダーに重要な「決める力」

リーダーが為すべきタスクとして、著者は以下の4つを挙げています

  1. 目標を掲げる

  2. 先頭を走る

  3. 決める

  4. 伝える

個人的にはこの4つの中で最も重要なのは、「3.決める」だと考えます。

理由は、4つの中で最も「誰しもが発揮できる、小さなリーダーシップの第一歩となり得る」からです。

他の3つとの違いは、「自分だけでも成立する」ことです。

「1.目標を掲げる」はチームの目標ですから、当然自分以外の要素が絡んできます。

「2.先頭を走る」もそもそも自分以外がいるからこそ「先頭」という概念が生まれますよね。

「4.伝える」も相手があっての話です。

ですが、「決める」ことだけは一人でも成立します。自分の任された仕事の範囲は「自分で決める」

もちろん適切な権限移譲は必要なのですが、この「決める」という行為をすることこそがリーダーシップの第一歩です。

「決めるのは上司の仕事だから」

こんなセリフはよく耳にします。ですが、この考え方はリーダー=上司という前提の元に成り立っています。

著者の考え方は違います。全員がリーダーです。一人一人のリーダーシップは小さいかもしれませんが、全員が発揮することで総量が大きくなるのです。

今まさに進行中のトヨタ自動車の人事制度改革もまさに、プロ人材が現場に近いところで判断する、一人一人に決断するリーダーシップを求めるものです。

意思決定の形は確実に中央集権から分散型に変わろうとしています。

それを為すためには権限移譲や組織体制といったハードの部分も重要ですが、最前線のメンバーに決める力が無いと始まりません。

決める力が無いままに権限だけ与えられたメンバーはただの迷子になってしまいます。

どうすれば「小さなリーダーシップ」は育つのか

リーダーシップは誰もが発揮できるものというのが著者の考えですので、もちろんリーダーシップの育て方についても言及されています。

中でも私がもっとも共感した部分は、「ポジションをとる」ことでリーダーは育つというところです。

「ポジションをとる」という言葉はあまり聞きなれない方もいらっしゃるかと思いますが、要は「自分の意見をはっきりと主張する」ということです。更に少し言い換えれば、「つまり、貴方の結論は何なのか」ということです。

上でも「決める力」の重要性について書きましたが、この「ポジションをとる」行為を何度も繰り返すことで「決める」ということができるようになります。

人材輩出企業と言われるリクルートも「貴方はどうしたいのか?」と問われることは有名ですね。

私も、この問いは後輩によく使います。こうやって小さな意思決定を積み重ねていくことで「決める力」が育つと考えているからです。経験学習ってやつですかね。

ちなみに、この問いを使うときは経験学習モデルに沿って、その決断の後には結果を振り返り、概念化し、また次の決断につなげるというサイクルを丁寧にフォローすることが重要です。

ひとつ、ポジションをとる時に注意すべき点があると思っています。

それは、心理的安全性を担保することです。

心理的安全性という言葉は、昨今よく聞かれるようになり、一部では「一緒にいて安心できる」みたいな意味での誤った使い方も見られます。

心理的安全性の意味は、平たく言えば「どれだけ攻めた際どい発言をしても、後ろから刺されたりしない」ということです。

日本人は議論が苦手とよく言われます。意見に対する反駁と、人格否定の区別がつかない人が多いことが理由の一つとして考えられています。

自分が思った通りの意見を言ったら、陰口を言われたり後ろ指をさされたりするような組織で、「ポジションをとる」ことは容易ではありません。

「自分の意見を言え」的なゆるやかな脅迫を見かけることもちょくちょくありますが、あくまで「心理的安全性の担保→自由にポジションをとらせる」という流れでないと、プレッシャーだけ与えてしまって良い方向には転びません。

では心理的安全性をどうやって担保するか、という話にまで言及すると記事が長くなりすぎるので、それに関してはまた別の機会に(久々に書いて疲れた・・・)

まとめ

長々書きましたが、要するに言いたかったのは

リーダーシップを発揮するには自分で「決める」ことが大事で、「決める」のは別に「リーダーっぽい立場にいる人」の特権ではないんやで。

ということです。

自分の仕事のことぐらい自分で決めてみましょう(もちろん案件の重大さにもよります)

それで結果はともかく「決めたこと」そのものを叩かれるような組織であれば、先は長くないと言えるでしょう。

タイトルが「採用基準」だったので、もう少し細かい採用基準の設計の話かと思いきや、完全にリーダーシップの話でした。


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