初めての苦い味
…それまでじぶんで選んで始めたことを直ぐに辞めたことはなかった
ある日、カウンター脇で「もう今日はいい、」と呆れと諦めの表情と溜息混じりの言葉を前に謝ることしかできないじぶんがいた。
店をでて直ぐ涙がすうっーとつたった。
うれしいときとくやしいとき。
わたしが歩きながら泣くとき。
だから、よっぽどくやしかったんだろう。
目が回りそうないそがしさだった。
そんな中でできないじぶんをまじまじと実感した。穴に落ちたような、できることならだれの目にもとまらない穴に落ちたかったような気持ちだった。
大きな挫折
はじめてだったのかもしれない
「体調がすぐれないので辞めさせてください。」
嘘ではなかった。煙のなかで働くのはむいていなかったようで息苦しさもあった。
「…理由が理由だから仕方ないけど、辞めるときは本当は1か月前に言わなきゃいけないんだよ。今月末までは働いてね。」
知らなかった。すぐに逃げたかった。でも、責任を感じたので2週間働いた。
その間は終わりがみえたからかひたすらこころを無にしてやるべきことをこなした。
「……今日最後なんですか?」
はじめて一緒になったバイトのひとに話しかけられたときなんのことかしばらくわからなかった。
それくらいわたしは目の前のことをこなすのに必死だった。
「お疲れさま、ばたばたしてて厳しくあたったときもあって悪かった。今日見ててミスもないし、テーブルの片付けとかもすぐやってて前よりやる気があるような気がして、、
…もうすこし働いてみる気はない?」
閉め作業も終わりかけたときぼそりとつぶやかれた声は弱くて優しかった。
人手不足なことはすぐにわかったが、わたしのこころには迷いは全くなかった。
後悔なく辞める為にここまでがんばってきたのだから。
「いままでありがとうございました。」
…
ちょっとまってて、、
「せっかくこの店で働いてくれたのだから、この味を知ってほしくて…
どうぞ」
わるいひとじゃなかったんだな。
帰り道安堵の気持ちにつつまれた瞬間、頬には流れるものがあった。
口に残った味は苦くてすこし甘かった。