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ニワトリが進化すると唐揚げになるらしい

「卵が進化すると何になると思う?」

「ひよこ!」

「ひよこが進化すると何になると思う?」

「ニワトリ!!」

「ニワトリが進化すると何になると思う?」

「唐揚げ!!!」


私はそっと本を置き、半分飲んだアイスティーにガムシロップを入れた。
たった今飛び込んできた情報を頭で処理するには、あまりにも糖分が足りない。
無論、本を読んでいる場合でもない。

声の主は、20代後半の母親と5歳ほどの男の子。
2人によるなんとも可愛らしく可笑しい会話は、
私と店主のおじさんにだけ届いたようだ。

おじさんはコップを拭きながら私と目を合わせふっと微笑んだ。


カフェを巡る


金曜の昼下がり。
私は、趣味のカフェ巡りで見つけたおしゃれなカフェにいた。

今日は、大学もバイトもない。
なぜかこういう日に限って、早起きできるし目覚めも良い。

さて、今日は天気も良いし、趣味の日にしよう。
通学定期を使って電車に乗り、
いつもは通過するだけの駅で下車。
駅に降りると、二股の道が現れた。
左右の道のどちらを進むかを決め、
あとはその道をあてもなく歩き続ける。

気が赴くままに、時間と体力が許す限り歩く。
これが私のカフェ巡りのスタイル。
時間と体力に余裕がある大学生の特権だ。
ん〜なんとも贅沢。

歩き続けることで
無数にある未知の世界を、
1つずつ馴染みの世界に変えていく。
私だけが持つ白地図が、少しずつ彩られていく感覚。

知らない街の知らない道って、なぜこんなにもワクワクするのだろう?
修学旅行前日の夜や贈り物の蓋を開ける時のそれとはまた違う。
まるでトトロへと続く道を進むメイちゃんの如く、ひたすら直進する。

私のカフェ巡りの本当の楽しみは、
「素敵なカフェで寛ぐこと」ではなく、
「カフェまでの道のりや街を知ること」なのだ。
カフェ紹介雑誌に載っていない所に、
新たな魅力を見出すことがカフェ巡りの醍醐味だと思う。

もちろん、それぞれのカフェが持つ素敵な空間や
自慢のドリンクを満喫することも最高だけど。

ところで、甘みを増したアイスティーよ。
君はあまりに美味しすぎる。
せっかく最近、「甘いものが少しシンドいかもしれない」と思えるようになったというのに。

「甘いものがシンドくなってきた。」
「カルビは1枚でいい。」

こう言えるようになったら、大人の階段を登っている証拠なんでしょう?
大人の仲間入りをした気がしていたが、私はまだまだ子どもだったようだ。
だってさっき入れたばかりのシロップに、悩む間もなく手を伸ばしてしまっている。


さて、水分と糖分が補充され、頭の準備が整ったようだ。
ちょっとさっきの親子の会話を思い出してみようかな。


進化と成長


「卵が進化すると何になると思う?」

「ひよこ!」

「ひよこが進化すると何になると思う?」

「ニワトリ!!」

「ニワトリが進化すると何になると思う?」

「唐揚げ!!!」

「ニワトリが進化すると唐揚げになる」という、天才少年による提言に気を取られてしまいそうになるが、私はその前に気になった。

母親の『進化』という表現。

面白い。そして、優しい。

恐らくこれは、子どもに分かりやすいようにという配慮から来た表現だろう。
確かに「成長」よりも『進化』の方が子どもにはピンと来そうだ。

よく見たら子どもの着ている服には、ポケモンがプリントされていた。
さすがお母さん、よく息子さんのことを分かっていらっしゃる。

だが、ここで私は疑問が湧いてきた。

「ってか、そもそも進化ってどういうことを指すんだろう?」
「成長と進化って何となく違いそうなのはわかるけど、どう違うんだ?」
「本当はひよこが進化するって使い方はおかしくないのかな?」
「もしかしたらあのお母さんは生物学専攻で、進化と成長について詳しくて、その違いを分かった上で話していたかもしれない。」

急に自分の『進化』の定義に自信が持てなくなった。


調べよう。

スマホを出して調べてみた。
🔍『進化 広辞苑』

進歩し発展すること。 ⇔退化。
2 生物が世代を経るにつれて次第に変化し、元の種との差異を増大して多用な種を生じてゆくこと。
3 生物における進化の観念を社会に適用した発展の観念。

広辞苑(岩波書店)

なるほどね。
進化って進歩して更に発展しないといけないんだ。

へー。

ただ、ここでまた気になった。
「発展ってどういう意味?」
🔍『発展 広辞苑』

1.物事の勢いなどが伸び広がって盛んになること。物事が、より進んだ段階に移っていくこと。「経済が—する」「大事件に—する」
2.色事遊蕩 (ゆうとう) において、積極的に活動すること。「だいぶご—のようですね」→発達用法

デジタル大辞泉(小学館)

おいおい、出典が広辞苑じゃないじゃないか。
まあ、意味は変わんないのかもしれないけど。
ただ、ここでまたまた気になった。
「ってか本当にさっきの『進化』って広辞苑にああやって載ってるのかな?」

最近、何でもかんでもネットで検索できて超便利な世界になった。
私も普段その恩恵を受けまくっている。
ただ、なぜだかこの時の私は、そんな自分に嫌気が差した。急に。
頭を使わず、全てコンピュータ任せで、与えられた情報をそのまま受け入れる自分を、
子どもに合わせて柔軟に言葉を選び伝えていたあの母親と比較してしまったのかもしれない。

こうなったら止められない。
近くにある図書館を調べて(残念ながらこれはスマホで調べた)、
さっきよりも更に甘くなったアイスティーを飲み干し、
店主のおじさんにお礼を言って(もちろんお金も払って)、
私は図書館へ直行した。


あなたは広辞苑を実際に手に取ったことはあるだろうか。
私はこの時、人生で初めての広辞苑を手に取った。
思っていたよりも分厚いし重かった。
この実感が「この本は信用できるな」と思わせてくれる。

さて、広辞苑くん。
君がその中に蓄えている『進化』の意味を教えて頂戴!

しん-か【進化】(evolution)
①進歩し発展すること。↔︎退化
②[生]生物個体群の形質が、世代を経るにつれて遺伝的に変異し、元の種との差異が増大してゆくこと。退化を含む。
③[社]生物における進化の観念を社会に適用した発展の観念。社会は同質のものから異質のものへ、未分化のものから分化したものへ一方向的に進むとする。Hスペンサーが提唱。

広辞苑(岩波書店)

おー。ネットで調べたのとだいたい同じだね。
そりゃそうか。そりゃそうなのかもしれない。
でもネットで見たものとちょっと違うところもあるね。

例えば、②③は最初に[生][社]と入っている。
それぞれ生物学と社会学を表しており、どういった視点から見たときの意味なのかが理解できる。
②の最後には「退化を含む」と書いてある。これは②のような現象が正の方向に働いたら『進化』で、負の方向に働くと『退化』であるという、表裏一体の関係であることを示している。①でも「↔︎退化」と示されているが、②でもその関係を窺うことができる。
③なんて、ネットだったらHスペンサーさんのことを知る由もなかった。スペンサーさんが可哀想だ。

わざわざ広辞苑を引きに行った感想は、
「普段はネットで事足りるんや」だった笑
確かに、広辞苑を引いてみて得た新しい情報や、ただ調べ物をしただけなのに感じる妙な満足感はあったけれど、正直毎回引いた方が良いとは思えない。


さてさて、だいぶ脱線してしまった。
私の悪い癖だ。
突発的な感情に行動が支配されてしまう。

「行動力があるね〜」
と言ってくれる人もいるが、もうすぐ社会人になる身としては、
「もう少し計画性を持たないととんでもない失敗をしでかすぞ」と危機感を持っている。


話を戻そう。
さっきのカフェで聞いた親子の会話について考えているんだった。

で、1つ目の引っ掛かり『進化』の表現については片付けた。

次はもちろん『ニワトリが進化すると唐揚げになる』という天才少年により提言された斬新な新理論。
これについて考えよう。



考える、考える。

『ニワトリが先か、卵が先か』という言葉を
耳にしたことがある。

鶏が先か、卵が先か」(にわとりがさきか、たまごがさきか)という因果性ジレンマは、平たく言えば「ニワトリタマゴのどちらが先にできたのか」という問題である。昔の哲学者にとってこの疑問は、生命とこの世界全体がどのように始まったのかという疑問に行き着くものだった。

Wikipedia

この話にはおそらく終わりがない。
考えれば考えるほど、訳がわからなくなってくる。


しかし、
あの天才5歳児の「ニワトリの進化は唐揚げ論」は、
この議論に決着をつけるのではなかろうか。

そんな突拍子もない思いつきから、
私は頭の中で謎理論の可能性をぐるぐると考え始めたのだった…

********************

(ここからは自分でも何を考えているのかが分かっていません。真剣に読まないことを強くお勧めします。)
→次の***まで飛ばしてください


◉解説


まずはおさらい。
「ニワトリが先か、卵が先か論争」で述べられる仮定は、下記2つ。
・『卵からニワトリが生まれる。』
・『ニワトリから卵が生まれる。』

ここに新たに
・『ニワトリの進化は唐揚げ』
という仮定が加わる。

我々が目指すのは、
これらの仮定から、ニワトリと卵の関係性を確定させること。

新しい仮定により、
唐揚げにはニワトリが必須であるということから
ニワトリは唐揚げよりも先である・・・①
という関係性が確定する。

次に、唐揚げと卵の関係性を考える。

突然ですが、ここで質問です。
みなさんは美味しい唐揚げを作る秘訣をご存知ですか?

実は、下味にマヨネーズを使うとジューシーさが増します。

ネットで「唐揚げ 作り方」で検索すると、
様々なレシピを見ることができますが、
上から2つのレシピ(最後に掲載)に共通するポイントは、
下味にマヨネーズを使うことです。

話を戻しましょう。
私たちは今、唐揚げとマヨネーズの関係性を考えていました。

唐揚げとマヨネーズの関係性はどうなるでしょう?
美味しい唐揚げを作るためには、マヨネーズが必要です。
そしてさらに、マヨネーズには卵が必要ですよね。
つまり、
唐揚げにはマヨネーズが必要で、マヨネーズには卵が必要ということから、
卵は唐揚げより先である・・・②
と考えることができます!

①,②より
卵、ニワトリ、唐揚げの関係性は
『ニワトリも卵も唐揚げより先である』・・・③

③から、ニワトリと卵の関係性を考える。


って…あれ…?
ちょっと待てよ。

ここまでで明らかになったのは、
『ニワトリも卵も唐揚げよりは先である』ということだけで
結局、ニワトリと卵のどちらが先かの話に進展はない…?

ただ唐揚げを経由して、また「ニワトリが先か、卵が先か論争」に戻ってきただけ…?


えーっと…


********************

っとまあ、ここまでダラダラと書き連ねてきたが、残念ながら5歳児の革命的理論を持ってしても、この議論に決着はつけられそうにない。

少なくとも私の頭では、新理論の確立には至らなかった。


意味もない謎理論に長々と付き合わせてしまい、本当にごめんなさい。

お詫びにおいしい唐揚げの作り方を載せておくので、
ぜひマヨネーズを使った最高の唐揚げを作って、
お腹いっぱいになって、
ぐっすり眠り、
この話は忘れてください。


ニワトリが進化すると唐揚げになるらしい


先日、無事に就活を終えた。

就活にあたって、
最近の学生はほぼみんなが自己分析をすると聞いた。

就職先を選ぶ上で、
自分はどんなことに幸せを感じるのか、どんなことは嫌なのか、
という自分の価値観を知ることは非常に大事だ。

私もそれに倣い、自分がどんな人間なのかを考えてみた。

すると、自分の中にあるとんでもない矛盾を発見した。

過去の経験とその時の心情を思い起こすことで、
私にとっての幸せは、
「自分の欲に従って生きること」だと定義された。
私にとって「こんなことをしてみたい」「こんな人間になりたい」という
内から湧き上がる欲望を認め、その実現のために努力をすることが重要だと知った。それが実現されることは、さほど重要ではない。

一方で、
私のウィークポイントは、
「新しいことへのチャレンジに臆病であること」だと気づいた。
自分がやったことがあることだけを好み、新しいことには手を出さない。
なぜなら、失敗・上手くできないことが嫌いだからだ。
15年以上同じスポーツだけを続けたり、昔の友達とずっとつるんだり、他人に勧められた本や映画などを観なかったり、、、
本当は、「別のスポーツも楽しそうだな、スポーツだけでなく音楽も楽しそうだな」と羨んだり、新たなコミュニティに入って友達を作ってみたかったり、新たな趣味を作ったりしてみたいのに。

今まで経験したことのないものに憧れ、
それをやってみたいという欲望が湧き上がり、
その欲望に従うべきなのに、
新たなものへの恐怖心が邪魔をする。

本当に自分がめんどくさい。

恐怖心を払拭し(無視するくらいが丁度良い)、
自分の欲望にYESを言うためには、
小さな成功体験を積み重ねるしかない。

レストランで水のおかわりが欲しかったら、勇気を出して頼んでみる。
「このアニメ面白いから絶対見た方が良い」と友達に勧められたら、見るか迷う前に見始める。
「電車で座席を譲った方が良いかな」と思ったら、絶対に席を立つ。

水がもらえなくても良いし、アニメが面白くなくても良いし、譲った人が座らなくても良い。

自分が「こうしたい」と思ったことを、行動に移すことが重要なのだ。



カフェで出会った少年は、
「ニワトリが進化したら唐揚げになる」と思ったから

「唐揚げ!!!」

と言った。

「こんなこと言ったらおかしいと思われるかな」
「こう言ったら面白いかな」
なんて多分考えてない。

思うがままに生きている。

私も、思うがままに生きたい。



今日は唐揚げを買って帰ろうかな。



おまけ

⭐️おいしい唐揚げの作り方

↑クラシルver.

https://www.nichireifoods.co.jp/media/28675/

↑ニチレイver.


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