スパークル【真田幸村】-天下統一 恋の乱- ✎

説明し難い感情を胸に、俺は一人庭で鍛錬をしていた。

雑念を払うように己を奮い立たせる事数時間、気がつけば空は薄暗く、ぼんやりとした月明かりが俺を照らしていた。

「もうこんな時間か…夕餉を取るのも忘れていたな」

「幸村様?」

廊下が軋む音に振り向くと、そこには陽菜が立ち尽くしていた。

「夕餉の場にいらっしゃらないと思ったら、こんな時間まで鍛錬ですか?」

陽菜は呆れ顔をしながら庭へ降り、俺へ手ぬぐいを差出してきた。

「あ…いや…俺に近づくな」

「えっ?」

顔を曇らせた陽菜を見てさらに焦りが募る。

「その…なんだ…俺は…今、汗臭いからな」

陽菜はキョトンとした顔をし、次の瞬間コロコロと鈴の様な笑い声を上げた。

「ふふっ…鍛錬お疲れさまでした」

「お疲れさまはお前もだろう。その…明日は祝言だというのに今日も働き詰めで…」

「それでしたら信幸様も同じです。今部屋に伺ったら、まだ仕事をされていました」

兄上の名が出たところで、心臓が掴まれたかの様な痛みを感じた。

「今から信幸様にお夜食をお持ちするんです。幸村様も如何ですか?」

「かたじけない。ではお願いするとしよう」

「ふふっ…承知しました」

陽菜はいそいそと台所へと向かって行った。





「失礼します」

湯を浴び、着替えを済ませたところで陽菜の声が聞こえた。

「お夜食をお持ちしました」

「これは…」

皿には甘い香りのする、穴の空いた菓子が山盛りに積み重ねられていた。

「きなこどうなっつです。幸村様お好きですよね?」

「あぁ、陽菜の作るきなこどうなっつは天下一品だからな」

「嬉しいです」

陽菜は茶を注ぎながら、赤い顔をして微笑んだ。

「お夜食を召し上がりましたら、幸村様も早くお休みくださいね。明日は剣舞を披露してくださると、信幸様から聞きました」

「あぁ、明日は兄上と義姉上の門出だからな」

陽菜は少し困った顔をして「何時も通りに陽菜と呼んでください」と言った。

「しかしだな、兄上と婚儀を結べは俺にとっては…」

「家族ですから」

「………」

「明日は幸村様と家族になる日でもあります。私にはそれが嬉しいんです」

「陽菜!」

「!」

俺は思わず陽菜の手を握りしめた。

「俺は…」

俺は陽菜に感じていた感情の正体に、ようやく気づいた。

(そうだ…俺は陽菜が…陽菜が好きだ)

「幸村様?」

「いや…何でもない。呼び止めて悪かったな。明日の晴れ姿楽しみにしている」

「はい!」

頬を染め退室する陽菜の姿を、俺はただ黙って見送った。

伝える事の出来ない言葉を胸に秘めながら。










ꕀ꙳

私は思いつきやフィーリングで行動する事が多々あります。

この動画もSSも、ふと思いつきで作りました。

私の中で幸村さまは『恋に不器用な人』

そして『誠実な人』

そんなイメージを形にしてみました。

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