双月 ㈠【藤林弦夜】-天下統一 恋の乱- ✎

正式に伊達の忍になってからどのくらい経っただろう。

俺は目の前に差し出された報酬を目の前にして、ため息を一つついた。

「なんだ?不満か?」

何時も堅苦しい小十郎さんが俺のため息に反応して、顔を引きつらせる。

「不満つーかよ…美味い酒とか出てこないかなぁ…なんてな」

「何?」

立ち上がろうとする小十郎さんを、隣で黙っていた政宗が静かに制する。

「弦夜の望みは酒か?」

政宗が俺に真っ直ぐに向き合った。

「んー?なんか今日は俺の『誕生日』ってやつらしいから、美味いもんでも出てこないかなぁーなんてね」

「誕生日とはなんだ?」

小十郎さんが眉間に皺を寄せながら、さらに俺に問いかけてくる。

「俺もよく知らねぇよ。通りすがりの宣教師に聞いただけだからな。美味いもん食って良い日だって事しか理解出来なかったし」

「よく知らない事を押し付けるな」

「小十郎」

黙って俺達の話を聞いていた政宗が口を開いた。

「あれを弦夜に渡せ」

「あれでございますか?」

「そうだ」

小十郎さんは渋々席を外し、俺は政宗と二人きりになった。

「弦夜には確か双子の弟が居たな」

「良く憶えてんじゃん。まぁ…たまにしか会わねぇけどな」

「ならばその弟と飲むが良い」

部屋に戻った小十郎さんが俺の前に酒瓶をドンッと置いた。

「政宗様の秘蔵の酒だ」

「えっ?マジで?」

「あの廃寺で飲むには勿体無い酒だぞ。心して飲め」

「はいはい。じゃあもう一つの面倒くさい仕事も張り切って終わらせて、さっさと帰るとするか」

小十郎さんが背中越しに何が叫んでいたが、俺は無視して報酬を手に部屋を出た。





俺は定期連絡だと言い、双子の弟の朔夜を廃寺の近くにある庵に呼び出した。

俺は庭先を眺めながら、杯と酒を用意する。

薄暗くなった空には上弦の三日月が浮かんでいる。

杯に酒を満たすと、杯の中にぼんやりと月が映った。

「朔…早く来いよ。秘蔵の酒を全部飲んじまうぞ」

酒を煽ると、庭先に人の気配がした。

「おー朔夜。早くこっち来いよ。美味い酒を飲ませてやるからよ!」






朔夜編に続くꕀ꙳

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