小さな祈り 【前田利家】-天下統一 恋の乱- ✎
「してねぇよ!ちょっと言い合いになっただけで…」
陽菜は俺、前田利家の幼なじみで…今は恋仲の関係だ。
だが今朝些細な事で言い合いになり、謝る事もなく今に至る。
「だからそれが喧嘩でしょ」
秀吉の呆れ顔を無視して、俺は御屋形様の元へと向かう。
襖を活勢いよく開けると、甘味を口にしている御屋形様と陽菜がいた。
「犬、猿、揃ったか」
「はいっ!」
「はっ!」
御屋形様の呼び声に背筋が伸びる。
が、御屋形様の隣にいる陽菜が気になり、別の意味の緊張が走った。
陽菜も気まずい思いでいっぱいなのだろう。
御屋形様に茶を出したところで、そそくさと退出しようとしている。
「貴様も此処にいろ」
「えっ?私ですか?」
「それ以外誰がいる?」
陽菜は酷く緊張した顔で、俺の隣に腰を下ろした。
「今日呼び出したのは他でもない…貴様ら、今城下で流行りの甘味を買ってこい」
「えっ?」
秀吉が気の抜けた声を上げた。
「それが任務ですか?」
俺も驚きが隠せない。
「わかりました。美味しい甘味を買って参りますね」
陽菜はにこりと微笑み、秀吉へと視線を向けた。
「大変申し訳ございませんが、秀吉様に同行をお願い…」
陽菜が言いかけたところで、御屋形様が俺に視線を向けて言い放った。
「犬、貴様が同行しろ。猿には別の用事を言いつける」
「えっ?俺?」
「わんこくん残念だなぁ。俺も城下巡りしたかったけど、御屋形様の命とあらば仕方がないね」
ちらりと視線を陽菜に向けると、陽菜は引き攣った顔を隠せないでいる。
「さっさと出かけろ」
「はっはい!かしこまりました」
「承知しました」
俺と陽菜は渋々、御屋形様の部屋から退出をした。
城下まで来たのは良いが、さっきからずっと俺達の間には妙な空気が漂っていた。
「早く買って帰らなきゃね」
「おっおぅ…」
会話の一つも成立しない俺達の心の中はきっと『早く帰りたい』でいっぱいなのだと思う。
ほどなくして俺達は目的の菓子を手に入れ、清州城へと向った。
「…」
「…」
会話の無い時間は酷く長くて、俺達は居心地の悪さを感じていた。
「…犬千代、あのね」
「なっなんだ?」
突然陽菜に名を呼ばれ、声がひっくり返る。
陽菜が次の言葉を発しようとしたその時、突然雷鳴が響き渡り、雨が降り出してきた。
「ちっ…濡れるぞ」
俺は咄嗟に陽菜の体を引き寄せ、庇うようにして近くの軒下へと走った。
「濡れてないか?」
「私は大丈夫。犬千代が庇ってくれたから」
そう言いながら陽菜は手ぬぐいを取り出し、濡れた俺の着物を拭く。
「犬千代、屈んで。頭が拭けない」
「おぅ」
屈んで陽菜と同じ目線になった時、俺は口喧嘩をしていた事を思い出した。
俺は一瞬気まずそうな顔をしたのだろう。
陽菜も気づいたようで、黙って俺の髪を拭いている。
「…」
「…」
また重い沈黙が二人を襲う。
「…くしゅん」
だがそれを破るかのように、陽菜がくしゃみをした。
「やっぱお前体濡らしたんじゃねぇか」
「えっ?大丈夫だよ」
「嘘つけ」
俺は陽菜の肩を抱き寄せた。
「これでちょっとはあったかいだろ」
「うっ…うん」
陽菜の体から強ばっているのがわかる。
「雨止んだら担いで帰るからな」
「じっ自分で歩けるよ」
「馬鹿、あちこちにぬかるみが出来てる。足滑らせたら危ねぇだろう」
俺はまた、口喧嘩をしていた事を思い出した。
が、もうそんな事はもうどうでも良い。
俺は心の中で小さく祈った。
俺の想いを上手く言葉に出来るように。
俺の想いが陽菜へ届くようにと。
「お前の事…俺が守るんだって決めてんだ、ずっと前から。だから甘えろ」
驚いたように陽菜が俺の顔を見上げた。
「犬千代」
「なんだ?」
「ごめんね。有難う」
「俺も…悪かった」
「ふふっ」
「なんだよ?」
「何時もと一緒だなぁって。喧嘩しても、結局どちらからとなく謝って終わっちゃう」
「まぁな」
俺は陽菜を抱きしめる力を強くした。
「お前みたいなはねっかえりの相手出来るのは、俺しか居ないだろ」
「うん…」
陽菜も俺に体を預け、小さく頷いた。
「犬千代…」
「なんだ?」
「大好きだよ」
「俺も…お前に負けないくらい…」
雨がざっと強くなり、俺の声はかき消された。
だが陽菜に言葉は届いたのだろう。
陽菜は真っ赤な顔をして、背伸びをしながら俺の頬に口づけを落とした。
✎ ------------------------
動画の方は先にアップしてて
ふと「久しぶりにnoteに投稿しよう!」
と思ってSSは急きょ作成φ=φ_(:P 」∠)_
不器用な犬千代が…♡ カワ (๑´д`๑) ユス … ♡
そして秀吉さまと絡むのが好きです
この歌は結構好き(●´ω`●)
歌詞も歌声も優しくてほっこりします
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?