ロシア軍のウクライナ軍事侵攻に関するチェチェン連絡会議声明

(拡散希望)

 2月24日に始まったロシア軍のウクライナ軍事侵攻は、日を追うごとに悲惨さを増しています。ウクライナでは子どもや一般市民を含む大勢が戦争の犠牲となり、女性や子どもたちを中心とした多くの難民が、着の身着のままポーランドなどの隣国に逃れています。

 プーチン大統領が命じたこのロシア軍の軍事侵攻に対して、長年チェチェンにおける平和の回復と支援を行ってきたチェチェン連絡会議は、戦闘の即時停止とロシア軍のウクライナからの完全撤退を求めます。

 ここで私たちが関わってきたチェチェン戦争について、改めて振り返ります。1994年12月に始まったチェチェン戦争は、ロシア連邦からの独立を目指していたチェチェン共和国に対してロシア軍が突如軍事侵攻したことにより始まりました。しかしこの第1次チェチェン戦争は、人口わずか100万人あまりの小国チェチェンが、大国であるロシア軍を追い詰め、実質的な勝利のうちに停戦に持ち込むことができました。それは、チェチェン側が徹底抗戦したことと、その一方侵略したロシア軍側の士気が低い上に、徴兵されたばかりの若い新兵が戦場に送り込まれて無駄に大勢が死んでいったからです。そのためロシア兵士の母親を中心にロシア内でも反戦の声が強くなりました。

 しかし1999年9月に始まった第2次チェチェン戦争では、開戦前に当時のプーチン首相が計画的な謀略テロ事件を仕掛けました。それはモスクワで起きた死者300人とも言われる連続爆破テロ事件でした。この事件は後にロシアの情報機関であるFSBの自作自演の犯行であったことが、FSBの要員だったリトビネンコ氏の告発により明らかとなりました。しかし、彼はその後亡命先のロンドンにおいてロシア政府により暗殺されてしまいました。

 この自国民をも殺戮した偽りの爆破テロ事件により、プーチン首相はロシア内の世論を掌握し、停戦を無視して、チェチェンへの再度の軍事侵攻を強行しました。ロシア軍による激しい無差別空爆などによって、チェチェン側は徹底的に破壊され、人口100万人のうち20~25パーセントの市民が殺されたと言われています。

 そしてチェチェン側は全面敗北に追い込まれ、山岳地帯や国外に逃れたチェチェンの独立派の指導者たちは、マスハドフ大統領を初めすべてロシア軍により殺されてしまいました。この第2次チェチェン戦争によってプーチン大統領が誕生しました。チェチェンはその後プーチン大統領に忠誠を誓う傀儡政権のもとで、人権を無視した恐怖政治が続いてきました。

 この間ウクライナで起こっていることは、まさにこの悲惨なチェチェン戦争と同様のことです。プーチン大統領は様々な偽情報をまき散らしながら、ウクライナを蹂躙しています。住宅はもとより、病院や避難所に対してすら平気で爆弾を打ち込み、無差別攻撃という非人道的な戦争犯罪を強めています。国際社会はチェチェンでの悲劇を再び繰り返すような戦争犯罪を絶対に見逃してはなりません。

 今、日本を含む世界各国でウクライナへのロシア軍の侵攻に反対し、平和を求める声が大きくなっています。一方で日本の中では、ウクライナ側に降伏を求めたり、あるいはプーチン大統領のプロパガンダに結果的に加担してしまうような主張が一部に出るなど混乱していることに、私たちは大きな危惧を抱いています。以下、いくつかの点について私たちの考えを明らかにします。

1,ウクライナ側の降伏は、すでにウクライナ南部で行われているような住民のロシアへの強制連行など悲惨な事態をもたらし、ロシアへの属国化を進めることになりかねません。プーチン大統領が主張する「ウクライナの中立化と非軍事化」という要求は、自分の言いなりになる完全な属国化を意味します。だからこそ、ウクライナの人々は軍事侵攻に対して自分たちの存在を賭けて全力で抵抗しているのです。ウクライナの人々にとって全面降伏はあり得ない選択です。

2,プーチン大統領がウクライナ侵攻の目的として挙げている、ルガンスク、ドネツクの親ロシア派自治区をウクライナ側からの虐殺から守るという主張も真実ではありません。それは単なる口実に過ぎず、プーチン大統領は親ロシア派自治区の独立を一方的に承認しただけではなく、ルガンスク、ドネツク州全域の支配権を要求し、それをさらに拡大しようとしています。ロシアが2014年に武力で併合したクリミア半島と同様にウクライナを分断して自らのものにしようとしています。

3,プーチン大統領はウクライナの「非ナチ化」を掲げ、ゼレンスキー大統領などの「ネオナチ」勢力を排除することも侵攻の目的にあげています。しかし、ユダヤ系ウクライナ人であるゼレンスキー大統領が「ネオナチ」だという証拠はなく、一方的なレッテル貼りに過ぎません。ウクライナの一部に右翼的な勢力がいることは事実かもしれませんが、だからと言ってウクライナが「ネオナチ」に支配されているというのはまったくの陰謀論であり、でっち上げに過ぎません。むしろ、プーチン政権といわゆる反米機軸のヨーロッパ極右勢力との長年の結託、及びロシア系住民の保護という名の周辺国領土の簒奪は、まさに自らのナチス的本性を暴露しています。

4,NATOの東方拡大はロシアに対する脅威であり、ロシアは挑発され続けてきたというプーチン大統領の主張も、侵攻の正当性を認めるものではありません。ロシアはエリツィン時代から、周辺国の内政に干渉し、いわゆる未承認国家を量産してきました。その結果が、周辺国に危機感を醸成し、NATO加盟の機運を高めたのです。チェチェン戦争後も、ロシアは2008年にジョージア(グルジア)内の南オセチアとアブハジアの分離独立を狙って軍事侵攻し、さらに2014年のウクライナのクリミア半島への侵攻による一方的併合とルガンスク、ドネツクの親ロシア派自治区での戦闘など、一貫して周辺諸国への軍事侵攻を繰り返してきました。今回も昨年からウクライナ周辺に大量の軍隊を集結させ、軍事演習と言いながら圧力を加え続けてきたのはロシア側です。NATO東方不拡大のいわゆる約束論は、ロシア側が一方的に主張しているもので根拠薄弱です。

 私たちはイラクやアフガニスタンなどで米軍やNATOが行ってきた不当な軍事行動を決して認めるものではありません。しかしながら今回のロシア軍のウクライナ侵攻は、NATOからの挑発などの理由をつけても正当化できないものだと思います。NATO側は少なくてもロシア領内を攻撃することは絶対にできません。それは世界を破滅に導く核戦争に直結するからです。だからこそウクライナに対しても一貫して直接の軍事介入を拒否しているのです。侵攻したロシアも悪いが、挑発したNATOも悪いという指摘は、今回の軍事侵攻の責任をあいまいにするだけです。

5,ウクライナにおける事態を利用して、日本の中で自衛隊の増強や憲法9条の改悪をめざす動きがあります。私たちはそれを容認することはできません。しかしながら、ウクライナの人々が自らの生存と尊厳を守るための必死の抵抗を否定することはできません。日本における「自衛権」の問題などと安易に結び付けて論ずるべきではないと考えます。

6,今回の事態により、ウクライナの問題を超えて、日本においてナショナリズム・愛国主義の賛美につながるという危惧が一部から出ています。しかしウクライナの人々が掲げている「愛国主義」は決して閉ざされたものではなく、世界の人びとへ開かれたものではないでしょうか。ウクライナの国旗は、今や世界的に反戦と抵抗の象徴となっています。ゼレンスキー大統領を始めウクライナの人々は、すべてをオープンにして世界の平和を願う人々とともに抵抗を続けています。日本の「日の丸」「君が代」の強制などの問題と切り離して冷静に考えるべきです。

7,ロシアの中では反戦を願う市民やジャーナリストが厳しい弾圧にさらされています。プーチン大統領は一貫して言論・表現の自由を奪い続けてきました。チェチェン戦争の非道さと人権侵害を告発し続けてきたアンナ・ポリトフスカヤさんをはじめ、ロシアでは多くのジャーナリストなどがこれまで暗殺されてきました。ウクライナの平和を願うと同時に、私たちは民主主義の実現を目指すロシア人自身のさまざまな創意工夫や行動に連帯を表明します。この戦争に反対することは、非人道的で正義に反する軍事侵攻に加担させられ、使い捨てにされている、多くの若いロシア兵の命を救うためにも必要なことです。

 以上の視点を踏まえて、日本におけるウクライナ軍事侵攻に反対する声をさらに大きなものにしていきましょう。私たちは軍事同盟ではなく、世界の市民の連帯した力で平和を実現したいと考えます。世界の平和を求める人いと共に、この戦争を止めましょう。そしてウクライナの人々への支援を広げていきましょう。

ウクライナに平和を!

2022年3月23日

チェチェン連絡会議

代表:青山 正(市民平和基金代表)
メールアドレス peacenet@jca.apc.org

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