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Vacant eyes.

退勤疲れで倒れて眠っている間に夢を見た。この頃はどれだけ夢を見ても人間が出てこなくなったので心が穏やか極まりない。内容は何処かの森でひたすらに玉虫を捕まえるとかいう夢だった。確かに憧れではある。

シャワーを浴びながら坂本龍一のRiot In Lagos を聴いた。浴びる度に40度で沁みる傷が多くなる。蚊に食われた患部を掻き毟る癖が夏毎に発動する。沁みる部分が増える度に夏へと急加速している感覚を覚えているので、辟易するような所業も、季節を感じるクリックになっていることに気が付く。
何の断りも無しに遺伝子を盗みに来るなんて最高に気持ち悪いけど、最高にロックな生き物だな。蚊。

退勤後のロータリーで熱烈な宗教家に勧誘される中年男性を見てゲラゲラ笑っていた。信ずるものの内容よりも、信じているという自分自身に陶酔しているらしい勧誘人と、偶像崇拝に対して軽薄な態度を示す中年男性のコントラストが対照的で、見ていて気持ちが良かった。ベルリンの壁さながらに隔壁が設けられた世界観だと思っていたし、駅前を流す人間の多くはあの手の人間は見えていないと思っていたのに出会うこともあるのだなとつくづく思う。

外は雨が降っていて普通に涼しいのに、何となくの気持ちで冷房に手を伸ばしてしまう。4年くらい掃除していないエアコンはけたけたと音を立てている。掃除していない4年分のフィルターは如何なものなのか、退去する折に是非刮目したい。少なくとも今は開けたくない。絶対に地獄なので。きっと数年前に販売終了したわたパチみたいなホコリが出てくる気がする。

19の頃くらいから電車が怖くなった。問答無用で人を殺せる鉄の塊だから、怖い。一度飛び出せば60キロもあるタンパク質の遊体も一瞬で粉になってしまうのだから、恐ろしい。数十年のブロックも瞬き程の間に無に返せてしまうのだから、とんでもなく冷たい乗り物なんだと思っている。

振られた衝撃で相対的に喫煙量が増え、一瞬でも永遠とかいう無意味なロゴを信じた自分を呪った。重厚な時を過ごしていたと思っていたけど、振り返ると案外長いものでは無かったことに気付かされる。焼肉屋のレジで貰う安いガムみたいな、味の抜けの速さ。とんでもなくメルヘンチックに全てを捉えていたので、アホ臭い夢に振り回されていた相手方は散々な思いだったと思う。とても申し訳無いので、どうぞ幸せになって欲しい。
今年の春は私にとっては無かったようなもので、無賃労働で貯めた対人の情報も明日をもって無に返されてしまう。抜け殻の状態。何だかんだで、最終の朝が来る。


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