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残響 / 創作

網戸を残して開いた窓のほんの僅かな隙間から、本日何度目かの郵便バイクの音が聴こえて、耳殻を震わせる。常日頃早起きだった私はそのルーティンを割いて昼過ぎに起きた。理由なんてものは特になかった。

特定の人間を好きになることもそう特別な理由は無かった。気が付けば感情が先行していて、何故好きなのかということを後から探し始めたくらいである。休日の昼過ぎに呑気に目を覚ます感覚に倣って、きっかけなど本当にどうでも良かった。

午前12時という街中、停滞空間、公園のブランコという数々の因子が様々な感情を誘発して、告白という形を作ってしまったのは三月の始めだった。
決まって人が寝静まる深夜に、互いの親に黙って抜け出すことがある種日常と化していて、よく知らない街のこれまたよく知らない道を、噛み締めるように歩いたのを忘れもしない。

歩くスピードを隣の君に合わせて、帰りたくないとなれば歩幅を弛めて歩いた。

告白の返事を二ヶ月ほど待って生活を送っていた。君にはまだ相手が居たし、私は待つことが何より嫌いだったのだけれど、その辛さは深夜に会うという関係性が相殺していたように思う。

これまで、時が経つのも忘れて数時間話し明かしていたというのにも関わらず、最後に会う時間はほんの2時間限りで済んだ。その内容から考えれば2時間も要らなかったほどである。はっきりしない君の口から出た割かしはっきりしている否定の返事は、会って30分ほどで済んだ。
年単位に及ぶ下積みはほんの2時間で終わりにできるのだから、これ以上に悲しいことなんて何処を探しても見つからない。完全に都市スタイルに乗っ取れない惨めなこの街に似て、私自身もまた惨めであったことを忘れもしないし、これから消化しなければいけない好意があるというのがどうにも寂しかった。寂しさに暮れる私とは対照的に、次の道に何処と無く進み始めている君がなんか嬉しそうで、君がなんか楽しそうで、私は嫌だった。

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