四十の手習い
ここ数年悩んでいた。
冬山をやるものとして、スキーをやるべきか否か。
山の世界が広がりそうだが
いかんせん、これまでの人生で一度もやったことがない。1㎜も。
ただでさえ中年を迎え体力も瞬発力も下降線、
新しいことを始めるのも覚えるのもましてやものにするとなると、若いときのようにはてんで行かない中、
ゼロから始めることに躊躇しかなかった。
私は四国生まれ、夫は九州生まれ、
ふたりともTHE 温暖育ちで、
幼い頃はスキーどころか雪さえほとんど経験したことがない。
スキーレベルゼロ、
いや、この年まで経験値無しというのは、もはやスキーレベルマイナスから始まると言っても過言ではない。
数年レベルでのゲレンデ通いの覚悟が必要だ。
加えてスキー用具揃えるのもわりと莫大な初期投資を要する。
ゲレンデ通いに機材購入、こりゃひと財産吹っ飛ぶぞ…
悩みに悩んでいた。
そんな私たちもついに重い腰を上げ、
とりあえず体験だけでもと、手を出してしまったのである!
もうね、スノーシューで山に行くとね、
限界感じてたんです。前に進まん。
スノーシュー使っても沈むわ崩れるわでヒーコラヒーコラ、どうしたもんかと疲労困憊の横を
スキーヤーがその尋常でない浮力を武器に颯爽とあっという間に稜線に出ていって、
かと思えば秒で滑って下山していくのを見せつけられるとね、
あーこりゃやらんとダメだ、と観念したわけだ。
いい年なので、蓄えはそこそこにあるわけだし、
教わるならしっかりちゃんと。
我が家は『教育には投資が必要だ』という価値観が夫婦で共有されているので、
しっかりお金を払ってちゃんとした人にきちんと教わりましょうと
福島県のグランデコで開催されているスキースクールにとりあえず申し込んでみた。
スキーセットはフルレンタルだ。
この1回のスキーで絶望的なら、二度とやらなきゃいい、そう思ってお試しスクール受講である。
スキースクールではレベル別に講師が付くのだが、幸いなことにこの日それなりに受講者がいる中、
レベル1は私達夫婦のみで図らずしもプライベートレッスンとなった。
キッズと一緒のレッスンで、すいすい滑り出すキッズたちについていけず講習を妨げ足を引っ張りまくる中年夫婦という地獄絵図にならないことにまずは安堵した。
お二人だけなので、ということで、
全くの初心者は通常キッズパークでの練習から始めるらしいのだが、まあ滑ってみましょう、と、ゴンドラ山頂駅から初級コース滑走距離3500mを滑って降りてくる、というレッスンに切り替えてくださることになった。
ふとサイレンの音がして目をやると三角巾で片腕を固定された人がスノーモービルでレスキューされてきていた。
おぉ…
今日は無事に帰って来れないかもしれない、という一抹の不安を抱えつつゴンドラに乗り込んだ。
ゴンドラはぐんぐん上がっていき、標高1390mの山頂駅に到達した。いよいよである。
人生で初めてスキーブーツを履き、板を装着した。
す、滑る!
当たり前である、そういう道具だ。
それにしても初めてだったのでこうもよく滑るものだとは、、、想像よりずっと滑るのである、NO摩擦。
あー終わった。こんな滑るものコントロールできる気がしない。
これから3500mもこれで傾斜のある場所を滑り降りるなんて。
不安は顔に出ていたのか、先生は「いざとなったら板を担いで歩いておりますから」と笑顔で話す。
それなら得意だ。
しかしそれではなんのためのスクールか。
こうして2時間のスクールが始まり、初めてのボーゲンでの滑走が始まった。
客観的に見れば非常に緩い傾斜であるが、NO摩擦ゆえにそれなりにスピードが出てさっぱり身体がついていかない。おいおい、みんななんで怖くないんだ。
おそらく他人から見ればどうしようもなくちんたら滑ってるのだが、本人の体感は超高速でぶっ込んでるのでどうしようもない。もちろん全力で板をハの字にしている。
先生は我慢強くこの滑りにお付き合いいただいている。というか先生はさっきから私の滑りを後ろ向きで滑りながら先導して教えてくれてるがなんという空前絶後の妙技か。神の境地か。
命からがら、先生に支えてもらいながらどうにかコースの半分ほど滑り降りたところで休憩。
足運び、ボーゲンでのターン、転倒のしかた、など一通り教わった。
異常に疲れた。
年をとってから全く新しいことを始めるとはこうも疲れるのか。
生来運動神経がことごとく切れているのではないかというほど運動という運動がすべからく苦手な私が、趣味としてどうにかやれたのが登山である。
歩ければなんとかなる。
もちろん登山だって超人的体力と技術を以てなされるものもあるが、私がやるのはそんなエクストリームではなくレジャーの範囲内。相当数の頻度で経験を重ねていくうちにある程度の体力も技術も自然についてくるレベルでやっている。
ところがどっこい、スキーは身体の使い方がまるで違う。
運動神経がぽんこつなので、とにかく頭で理解して制御する私は、ボーゲンで滑る、とという事象に頭をフル回転させた。疲労困憊だ。
あと半分か…
それでも1時間も懇切丁寧に付き添ってもらうと、こんなへなちょこでも最初よりは慣れる。あんなに恐ろしかったが、少し足幅を狭めて加速してみようか、などという気が起きてくるのだから、スクール様々だ。
コース後半は傾斜がさらに緩くなり、習ったことの復習に最適な林道コースから始まった。
ボーゲンではあるが、スムーズになりターンも落ち着いてできる。
ちょっと気持ちよくなってくる。ボーゲンだが。
このあたりで天候は徐々に吹雪いてきたが、なるほど少し滑れるようになると楽しくなってきたのだ。
全力ボーゲンでも。
最後に中央のゲレンデに合流し、ほんの少し傾斜がついたが、その頃には自分ひとりで何とかできるようになっていた。
あーゴンドラ乗り場に戻ってきた、怪我することなく!
きっちり2時間使った初めてのスキースクールは無事終了した。
「いろいろ考えながら滑っているのが伝わってきました。大丈夫ですよ。」との言葉をいただいた。
ありがとうございます。
先生のおかげでスキーは続けてやってみようという楽しみになりました。
こうしてスキーデビューは夫婦満足のものとなり、午後も同じコースを2本滑って帰った。
ちゃんと教えてもらうって大事だ。
あれから毎週末スキー場に行き、
雪質や人の多さに翻弄されながらスキーの練習を重ねている。
スキーセットは目黒にあるNORDというショップでシーズンレンタルをした。今シーズンはこれを車に残置して隙あらばスキーだ。
既に猪苗代や菅平、白馬など行ってみたが、雪質の違い、というのもなんとなくわかるようになってきた。
雪質のいいところは外国人だらけ、ということもわかってきた。
スキーをやるうえで日本に生まれたことは幸運なのかもしれない。
先日はグランデコでスキースクール2回目も受講、パラレルターンの基本も教わってきた。(ごん降りの雨だった、寒かった)
YouTubeでパラレルのやり方の動画を見るなど自学もしている。
まだまだ中級コースに行くこともできない下手くそだが、山に行くためにスキーを始めたのである。
ここは夢はでっかく、目標は高く!
アラスカでオーロラとBCスキー!を目標にしてがんばってみようと思う。
さしあたって今シーズンは、
白馬岩岳のハーバーテラスにあるシティーベーカリーで優雅にカフェタイムを過ごしたあと中級コースを滑り降りてくるのが目標。
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