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決意表明

Numberを購入した。
カタールW杯に選出された日本男子サッカーのフル代表メンバーはついに全員年下だ。
私がW杯というものを知ったのは、まだ日本が出場権を得たことのなかったドーハの悲劇だから、もう30年、隔世の感がある。

今大会で日本はクロアチアに敗北し目標だったベスト8以上を逃した。
試合直後の、次のW杯では主力となるであろう20代の選手たちのインタビューには頼もしさを感じた。

大会終了後の改めての彼らの言葉が綴られたのが今号のNumberだ。

大いに刺激を受け、糧となっていることがうかがえる。
W杯はサッカーの最高峰の舞台だ。
その舞台に立ったこと、そしてこれから。
いつかの夢ではなく、到達すべき未来として自分がなすべきことを言語化していた。
こうして言葉にし、人に説明すること、
『言語化』はサッカーの重要な能力の一つとされている。
彼らの言葉には非現実的ではない夢が溢れていた。

彼らの決意の傍らに、私もここでささやかな決意表明を。
2026W杯は現地へ応援しに行くことを誓います。

惨敗だったブラジル大会で初めてW杯を現地で体感して以来、私はスポーツというものの力を信じられるようになったのよ。
勝っても負けても関係なくても、サッカーが楽しい、それで一つになれる。あの時の世界との一体感ったらなかった。

人間できることなら人生で一度は経験したほうがいいと思うことの一つは、サッカーW杯の現地観戦だ、と自信を持って言い切れる。

またあの熱狂の渦の中へ行きたい。
熱狂の最前線で闘う日本代表を、肉眼で見て応援したい。

Numberを読んでその思いをさらに強くした。
彼らのように、世界の舞台に立ち、その舞台の頂点を極めるような大きな目標を持つことは残念ながら私にはないだろう。
大変な重圧、日々の研鑽、たゆまぬ努力、生まれ持っての才能…彼らはそれらを世界最高レベルで積み上げた先にそこに立っているのだから、
そのいずれもなしえない私にはそんな大きな目標を持てるはずもないとはわかっている。
だからこそ、応援したい。


今号のNumberを買った理由はもうひとつある、というか、こちらの方が購入への一押しは大きい。

佐藤裕介さんの記事だ。

サッカー日本代表と比べてしまうと圧倒的にマイナーな存在だが、私にとっては神のような人。
山の申し子と畏敬の念を抱いており、
この人ほどの情熱とモチベーションを持つ人に出会ったことがない。

佐藤さんは2019年のパタゴニア遠征で事故を起こし九死に一生を得た。
帰国後リハビリを経て、本調子には戻っていないがガイド業を再開したと聞き、
佐藤さんがガイド業を始めて間もない頃から何度かガイドをお願いしている私は、
いても立ってもいられずガイドを依頼した。
事故の怪我の後遺症で斜視があり、体力的にも技術的にもまだまだ以前のキレはないが、医学の常識から考えれば驚異的な回復だった。
歩き、登る姿を見て少しほっとした。
しかしそのまた後にどん底も経験したようだ。

完全復活、などと簡単に言えるほど、事故前の彼の実績は軽いものではない。
しかし、どん底を経て今彼は確実に始動したように見える。

常人の理解の範疇を超えた登山を成し遂げる彼を、私はずっと荒くれ者、アウトローの粗野な人間だと思っていたが、ガイドを受けて感じたことはその真反対だ。
とてつもなく安心感があり、丁寧で、精密な登り。
山での安全をもっとも担保するのは高い技術力だ。
あまりにリスクの高い山をやる彼を安全度外視と受け止めていたが、単に彼の高い技術力が私の想像の枠内に納まっていないだけだ、と、私は思い知らされた。記事でジャンボさんも同じように語っていて、クライマーと名乗るのもおこがましいレベルの私であるが、世界に誇るクライマーもそう思うほどやはり佐藤さんは突出しているのだと改めて思う。


摩利支天大滝を登る佐藤さん


登攀の入る山では入門とされるルートでさえ、彼と登れば見えてくる世界は違うのだ。


Numberでは、彼の今のやる気溢れる状態が少し不安定なのではないかと危惧される部分もある点についても述べられている。

登山やクライミング専門誌とはまた違う切り口で綴られたNumberでのクライマーの記事に、静かな、だけど大きなうねりのようなものが心に湧き上がるのを感じた。不安と、羨望と、期待が入り交じった感情。

山で事故が起こるたびに、
自己責任だ、好き好んで危険を冒してるんだからわざわざ救助隊の命まで危険にさらして捜索活動する必要などない、
税金を使うな、禁止にしろ、などという意見が出てくる。
山が好きな人間の端くれとして、これは悲しい。
自分たちの行動に対して安全管理をきちんと行うという前提のもとではあるが、
冒険を容認できる社会でないととんでもなくつまらない世界になる、そう思っている。
それは、山というフィールドに限らないと思う。

そして、思うのである。
私は佐藤さんを、そして佐藤さんのような山をやるすべての人たちを応援できる人間になりたい。

最前線に実際に立つ人間に比べれば、
それを応援するだけのことなどたやすいのかもしれない。
それでもここできちんと書かないと、逆に応援なんてのは簡単にやめられるので、書き残すことにした。

2026年の私が現地にいることを目指して。
そして、これから先もずっと山での冒険が見られるよう願って。

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