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漫画感想【青のオーケストラ1巻/阿久井 真】


 音が聞こえる。

 メロディが聞こえてくる。

 びりびりと、音の振動すら聞こえてくるようだ。



 青のオーケストラを見たのは、どこかの漫画サイトだった。
 なぜ自分はあのとき漫画サイトを見ていたのだろうかと不思議に思う。
 何か新しいものを探していたのかもしれないし、時間潰しをしていたときだったのかもしれない。サイトを見ていた理由はあまり覚えてないのだ。

 代わりに出会ったときの感情はしっかりと覚えている。青い表紙、ヴァイオリンを弾いている男の子のイラスト。たったそれだけだ。目を奪われた。


 絵が自分好みだったのも読もうと思った理由の一つなのだろう。それから片目が隠れている。
 前髪で片目が隠れているキャラをメカクレと言うらしいのだが、メカクレはミステリアスに見えるのだ。決してメカクレがすごく好きなわけではない。表紙の絵のキャラクターにどことなく翳がありそうな、とても魅力的なキャラクターに見えたのだ。
 ヴァイオリンと青色の表紙に惹かれて一巻のみ無料ということで読んでみた。


 結論から言うと面白かった。ものすごい面白くて、自分に合った作品だった。
 そして後悔した。
 なぜもっと早く知ろうとしなかったのか、と。
 早く知りたかった。もっと早く出会っていたかった。
 だがまとめて読み、物語にどっぷりと浸かる、そんなささやかな幸福が確かにあった。


 以下、裏サンデーの公式から引用

とある理由でヴァイオリンを弾くのを辞めた、元・天才少年、青野 一(あおのはじめ)。
将来の進路を漠然と考えていた中学3年の秋、一人の少女と高校のオーケストラ部と出会い、止まっていた彼の時間が動き出す——

 あらすじを書くのが苦手なので、引用させてもらった。
 これを見ている方は、青のオーケストラを見たことある人だと思うので、詳しくは書かない。また興味のある人がこの記事を閲覧している場合もあるだろうから、詳しく書けない。出来るだけまっさらな状態で読んで欲しいからだ。

ここから下は、すこしだけ本編に触れてある。





 一巻は中学時代が主であり、高校のオーケストラ部を見に行ったところで終わるのだが、二巻への引き込み方が良かった。
 青野が過去のコンクールで優勝していたり、演奏が上手い描写はある。青野の音に思わず耳を澄ませる人々の姿は描かれている。しかし青野の実力を垣間見る描写は一巻にはない。
 二巻を開いて、初めて奏者である青野の実力が見えてくるのだ。

 一巻の、ああ好きだなと思える場面はもちろんメインである、演奏シーンだ。

 部活動紹介の場面で、オーケストラ部が出てくるのだが、その演奏の描写が恐ろしいほど力強い。本当に音が聞こえてくるような、勢いのある絵、力のある音、表現力がすごい。読み進めているときからこの作者は絵が上手いと思っていたのだが、メインである演奏シーンはぞくぞくとするものだった。

 そして自分が一番好きな場面は終盤あたりだ。
 一巻ラストの体験入部の場面で推薦入学で入った佐伯直という少年と弾くことになる。

 渡された楽譜はアントニオ・ヴィヴァルディ「四季」より春。譜面に目を通しながら懐かしむ青野に佐伯は「君なら弾けるでしょ?」と言う。
 曲の最初の音を合わせようとするが、一瞬佐伯の音に飲まれて──

 悔しいが、この終わりが次の巻へと手が伸びた瞬間だった。

 佐伯が音を出しているシーンは迫力があり、そくぞくとする。青野の佐伯の音に飲まれている表情がとてもなく好きなのだ。高揚する。

 

 私はクラシックが好きだ。ジャズも好きだが、クラシックが好きだ。
 高尚だと言われそうだし、周りでクラシックを好んで聴いているものはいないのでほとんどクラシックが好きだと口に出したことはない。
  だからなおさら、青のオーケストラに惹かれやすかったのもあっただろう。だがそれ以上に引き込まれる絵がいい。よくありそうなストーリーだが少年マンガらしい熱い展開がいい。
 どちらかというと根暗で、不安定だけどまっすぐな青野の成長ぶりを見るのが楽しいのだ。

 音を聞け。音楽を楽しめ。



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