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Playdead『INSIDE』感想

映画でも漫画でも、ホラー系の作品が苦手だ。きっかけをはっきりと覚えていて、子供の頃に観た『隣人13号』という映画の描写がトラウマ過ぎてそれ以来“それっぽい”匂いのする危うい作品には近づかないことを心がけて生きてきた。

怖くて今でも見れない。

ゲームに関しても、グラフィックで評判の良いホラー作品があると悩んで悩んで結局ゲーム実況で満足してしまうことが多い(実況者の明るい反応を聞きながらでないととても見れない作品もある)。そんな中、ホラー要素がまあ耐えられそうで前評判がとても高い作品があったので、重い腰を上げ、たまには自分でプレイしてみることにした。

『INSIDE』は、マリオから連綿と続く横スクロールアクション、つまりひたすら右に進むことだけを基本原理としたゲームで、グラフィックが美しい一方で謎解きや操作は難しくないため、雰囲気ゲーと呼ばれることもある。スタートボタンを押せばすぐにゲームが始まり、テキストや音声による解説は一切無ければ、操作方法の説明もない。それどころか作中ではっきり出てくる文字は片手で数えられるほどしかないという、制作者のストイックなこだわりを強く感じるゲーム。都度都度出てくる謎解き要素も、なんとなく試行錯誤していくうちに直感的に解決方法が分かるようになっており、ローディング画面も一切無し。プレイ中のストレスはほとんどない。正直ストーリー、デザイン、ギミックの全てが素晴らしい作品だったのだが、特に音響を含む画面デザイン・演出に関して述べたい。

まず、作品全体を通して日陰や雨天、室内、地下、水中とひたすらに薄暗い場面でほとんどが構成されているために、反対にそこで使われる照明はとても印象的で、必ず意味のあるものになっている。例えば太陽の光はどこか安心する効果があるのか、序盤は太陽の光の下に早く出たい、施設を抜けたいという思いを抱きながらプレイすることになった。一方で、主人公の少年を強く照らす光のもう1つは監視ロボットが浴びせる光であり、これに照らされてしまうと容赦なく捕まるという危険信号である。そして最後のシーンでも印象的なスポットライトが使われており、全体として、どのシーンを切り取っても映画のワンシーンのような、計算された画面レイアウトの美しさを感じられる。


また、色彩に関して、作中の作業員のような人が黄色いヘルメットや緑の作業着を身につけているのに対し、主人公だけが赤いトレーナーを着ており、タイトルロゴにも用いられている赤はこの作品にとって特別な意味を持つ色であることが察せられる。もちろん、この濃い赤は作中で人が死ぬ時の血の色でもある。これも、その他の意思のない人々の服をモノクロで描く、全体を暗いトーンで描くといったコントロールがなせる技だろう。そして音響に関して、このゲームをするまでは、音がここまで感情と直結するものだとは思っていなかった。少年の息遣いや心音が適切なタイミングで聴こえることによって自分自身の鼓動まで早くなったように錯覚したし、水中での映像と音声が忠実に再現されていることで実際に息苦しさを感じた。生理現象を掻き立てられるほどの不気味なリアルさは実際に体験してみないと分からない部分だったと言える。

プレイ後に色々なサイトで他の人の感想や考察を見てみたが、10人いれば10通りの解釈ができる奥行きのあるストーリーはプレイ後のムーブまで計算されているのかと思うほど。ユーザー、プレイヤー、キャラクターの感覚が曖昧になるハッピーでもバッドでもないラストに辿り着いた時の衝撃は、ゲームという総合芸術でしか味わえない深みがあり、良い作品に出会えた感謝をエンドロールで感じた。

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