見出し画像

うちのギボのこと④ ある日のやさしさ

子供が生まれる前のことだったと記憶している。夫が泊まりがけで出張することになった。出張の前日、週末でいつものようにうちに来ていたシオモニ(義母)がそれを聞き、
「明日、一人で寝るんだろう。怖いか?」
と聞いてきた。
「ええ、怖いです」
私はふざけてそう言った。
「怖くて一人じゃ寝られません」
ただの冗談で、そのままお互い忘れるものだと思っていた。シオモニがその後「怖いと言ってるよ」などと夫に話していたが、やっぱりただの冗談だと思っていた。
驚く事になったのは翌日である。午後8時頃、来客など滅多にないのにチャイムが鳴ったので出てみると、シオモニだった。
「怖くて一人で寝れないだろう。私が泊まってくから」
私は目をパチクリさせて固まってしまった。冗談を真に受けて、わざわざ泊まりに来るとは。そもそも、いい歳をした大人が一人で寝られないなどと、本当に信じているのか。しかし、ふざけてしゃべったことで、こんなふうにシオモニの手を煩わせることになるとは。
シオモニは歯磨きなどの寝る準備をさっさと終えると、「もう寝る」と言う。(就寝がやたらに早いのである。)私は慌てて布団を敷いた。横になるシオモニ。
「あんたが怖くて一人じゃ寝られないというから、一緒に寝るんだよ。怖いんだろ?」
一瞬躊躇したのは罪悪感からのことだったが、正直に言った。
「いえ、怖くないです」
シオモニは驚いて半身を起こした。
「怖くない? 怖いって言ってただろう」
「冗談だったんです…」
「冗談だって? そうなのか、怖くないのか」
ちょっと考えたあとで言った。
「そんなら私はもう帰るよ。お父さん(義父)の(明朝の)ご飯も用意しないといけないし」
シオモニは怒る様子も見せず、来た時の服に着替えると、「まだバスはあるね」とさっさと帰って行ったのだった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?