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幻の燈台に向かって

週に一度、仕事が終わる一時間前にYさんとzoomカンファレンスをしている。

実際にお会いしたことがあるのは2回ほど。
集合研修に参加したときの講師がYさんで、なんとなくこの人ともう少しお話してみたいと思い、わたしからお声がけさせていただいた。

突き抜けて明るいように見えて、個として人と関わることを避けてるみたいな、なにか背負ってる変わった空気の人だな、というのがYさんの第一印象だった。

今となっては、Yさんの仕事の在り方に惚れ込んで、少しでもYさんに近づきたくて画面越しでお時間をいただいている。

Yさんとお話させていただくと、わたしの心は激しく揺さぶられる。
体温が上がる。たぶん1℃くらい。体内が発火して終盤には頭痛がするくらい。

ここ半年の己の仕事を恥じる気持ち。もっとできるようになりたいという気持ち。「こう在りたい」と昔は思えていた筈の、忘れかけていた自分の思いをYさんの口から聞いたときの感動。

この前のカンファレンスでわたしが「頑張ります」と言ったとき、Yさんから思いがけないことを言われた。

「頑張らないでね。頑張っちゃうと、これくらいの営業数字やろうって思い始めるでしょ。貴方にその考え方は、向いてない。少しでもその考え持ってるなら今すぐ捨てて。」

「貴方の案件カンファレンスって、自分のことを考えてる発言がひとつもない。これくらいの営業数字やるにはどうしたらいいですか?とか、相手にこう思わせるにはどうしたらいいですか?とか。そういうのがひとつもない。発言が全て目の前の相手のためのこと。」
「そんな貴方が、営業数字のこと考えて相手の前に座ってるの、おかしいでしょう。向いてない。」

「実際を見たことないけど、きっといい仕事するんだろうなって思うよ。だから、気がついたら、あ、目標達成してた、でいいの。貴方はそれが絶対にできる。」

「この仕事続けてたら、貴方の前に座った相手のだれかは死ぬよ。そういう案件に出会った時、自分の出した商品が使われた時、これは相手が選んだ選択だった、と思える仕事でなきゃ、これだけ相手のこと考える貴方のことだから、仕事続けていかれない。」

「数字のための相手じゃない、全ては相手のため。貴方はそれでいい。貴方が営業数字のために仕事やってたらぼく怒りますからね。ねえ、捨てれる?」

帰りの電車で人目もはばからずびしゃびしゃに泣いた。
配属先異動があってから、ずっと営業数字やらなきゃーって以前にも増して焦っていたから。

数字やらなきゃって思えば思うほど、目の前の相手に何を与えたいのか、自分が何の話をしているのか分からなくなっていった。どこ向いて仕事してるのか分からなくなっていった。

向いてない。捨てていいんだ。
Yさんに言われて目が覚めた。

然るべき時に、出会うべき人に出会うのだろう。意図せずとも、なにかに呼び寄せられるようなかたちで。たぶんYさんはわたしにとって、出会うべくして出会った人だったように思う。

明かりを灯していただいた。Yさんに、そして我々を引き寄せたなにかに。


上長との会話にて
「どうですか結婚してみて、何か変わりましたか。」
「特には。正直変わらないです。」
「あっさりしてますねえ」
「でもひとりの夜が無くなりました。夜に心の安寧があります。」
「ああ、それはいいことですね。結婚のいいことってきっとそういうことですよね。」

「夫婦円満の秘訣ってありますか。」
「そうですねえ、よく言われることですが……。恋人であるうちは両目をしっかり開いとく、夫婦になったら片目をつぶる、ですかねえ。」
「ふふ、あ、言っときますけどぼくはちゃんと幸せですからね。」

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