共感と同情

 桜木紫乃さんのエッセイから一つ。

文章の中から一部を切り取るのはあまりいいことではないのだが、長めに引用してみる。

「共感などすぐしなくてもいい。言い切るには理由がある。正直、共感は遅発性の感情だと思っている。ふと気づいたときに思い出してはしみじみするもの、というと伝わるだろうか。共感を想定して書くという傲慢は避けたい。

 他人の辛苦を見たり読んだりして、すぐに立ち現れる感情は同情だろう。共感と同情の区別くらいは、すっきりと出来る大人になりたいと思っている。」

 だが、私は小説家が描いた人物や文章になんとなく共感した気持ちになったと思う瞬間がある。それも読者としての一つの姿勢と思っていた。でもその思いはある意味同情なんだろうな。ある人物の生きざまを少し感じて自分を投影させてみたりするが、読書体験が終わり暫く経つと元の日常に戻っている。結局は速乾性の共感疑似体験に過ぎぬか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?