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理想の庭

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17〜18年近く前になるだろうか。
チェコのガラスボタンのことを本に書きたいと思い、いつものメンバーとチェコを旅することになった。
いつものメンバーと言うのは、当時チャルカを一緒にしていた藤山なおみと、フォトグラファーと、デザインナー。
私を含めて4名で東欧の国を一緒に旅し、好きをいっぱい詰め込んだ本にするのがチャルカのやり方。
今思えば贅沢なことをしていたものだ。

言葉にし切れない”好き”や”楽しい”を写真に収めてもらうのに、フォトグラファーの同行は必須。
写真を撮りたいと思うものに辿り着くまでのすったもんだや現地の人たちとの行き来も大事。
いや、これこそが核。
写真からはみ出るまわりを見て欲しくて、誌面のデザイナーもその場にいてもらわなければ。
そんなことを考えるものだから4名の旅になる。

2007年に『チャルカが旅したチェコのガラスボタンものがたり〜りんごの木の村で』と言う本を作った。
ガラスボタンをつくる人と工房を尋ねて行ったのは、チェコのヤブロネツ・ナド・ニソウ。
ドイツとポーランドとの国境近くで、ヤブロネツと言う名前がチェコ語のリンゴ(ヤブロン)に似ていることから、りんごの町と呼ばれている。
町のシンボルマークもりんごの木。

ヤブロネツ近くの小さな村の知人宅に泊めてもらい、4人は乗りなれない左ハンドルのレンタカーで、毎日村人に会いに、何かを探しに出かけた。
ボタンをプレスする職人宅で1日を過ごし、一緒に鳥にエサをやった。
ピクルスづくりの名人宅、夏のキッチン(屋外)で一緒にピクスルをつくった。2〜3日もすると子どもたちが手を振ってくれるようになった。
森にきのこ狩りに行こうとのお誘いを受け、バスケットを持ってきのこ狩り。
晩ご飯は、きのこがどっさりと入ったスープとオーブン料理。
早朝の散歩では鹿にも出会った。
お気に入りのりんごの木を見つけ、これを本に載せることにした。
取材は順調。

でも1つ、どうして出会いたい風景がまだ残っている。
それは私が理想と描く庭を4人で眺めて写真を撮ること。
車で走っていると左右に現れる庭、庭、庭。
「あれか?」「これか?」と聞かれるけどどれも違う、全然違う、なにかが違う。結局、この旅では出会えず、庭の写真はなしで本をつくった。

翌年の夏、友人の車でチェコのモラヴィア地方を旅したときのこと。
ワイン蔵を訪ね次の街へと向かう途中、なぜだかそわそわした。
ゆっくり走って、そこを右に曲がって、戻ってやっぱり左かもと、そわそわがドキドキに変わるのを感じながら。
やがて終わりかけの夏の花と、咲きはじめの秋の花が混在する庭が現れた。
立ち枯れのハーブが種をこぼし、ヒヨヒヨになった多年草がかろうじて枝を伸ばしていた。
車を降りてしばし庭に見惚れる。
人が関わっているハズなのに知らん顔をして、自分の姿をさらし且つ美しい。
枯れていても美しい。
これが私の「理想の庭」。
ずっとずっと心に留まる旅先の景色。
自分で写真を撮り、次の本に載せた。

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