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ひげそりのこと 1.

自分の金で初めて髭剃り機を買った時のことを忘れない。

当時僕は広島県にある会社に就職したばかりで、一人暮らしをスタートさせて間もなかった。

就職した会社は家電メーカーだったが、その会社では髭剃り機は製造しておらず、市内の原爆ドームのすぐ近くにあった広島に本社があるB電気という家電量販店まで買いに出かけた。

僕は二十歳になっていたが、もともと髭が薄いタイプで、生えても産毛のような細い毛だったので自分ではあまり気にしなかったのだが、会社員になって給料ももらい始めたので、何か「大人らしい買い物」をしたくなったのだ。

髭剃りコーナーの販売員に「はじめて買うんですが」と伝えると、店員は「あなたは髭が薄いから普通の電動シェーバーでは剃れない。ドイツのフィリップス社製のシェーバーなら辛うじて剃ることができる」と言った。

そして、僕に「手を出せ」と言うと僕の手の甲の産毛にいきなりブラウンの髭剃り機を当てて剃り始めた。しかし、一本も剃ることができなかった。
「では、こちらで」と言って持ち替えたフィリップス社製の髭剃り機を手の甲に当てて同じように剃り始めると、あっという間に手の甲の産毛はなくなってしまった。

全くコシのない短い毛がこんなにきれいに剃れるんであれば、もう少し硬い僕の髭なんかは事も無げに剃れるだろう。

僕は最高機種から3つくらい下のモデルの箱を持ってレジに並んだ。

あれから三十年。僕はフィリシェーブ(フィリップス社製の髭剃りの商標名)を愛用し続けている。
替え刃を交換したことはない。歯よりも先にモーターがダメになる。それでも、三十年間で3台しか買っていないのでかなり優れたプロダクトだと思う。

と言う話を最近15歳年下の友人に話したところ、「僕もフィリシェーブ党なんですが、僕が初めて髭剃りを買った時にもそのセールストークでしたよ」と返された。フィリップス販売の常套句だったわけだ。

一体いつから使っているんだろう。

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