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ドット絵×ボードゲーム|『チャージアンドスパーク』アートワーク制作日誌

はじめに

こんにちは、JELLY JELLY GAMESのアートワーク担当・デザイナー斉藤穂です。
このたび、5月13日にJELLY JELLY GAMESから、ボードゲーム『チャージアンドスパーク』が発売されました。

『チャージアンドスパーク』では、ボードゲーム界隈ではあまり見かけないドット絵を主軸に置いたアートワークを採用しています。

用語解説【アートワーク】
印刷物で、本文以外のさし絵・図版など。(デジタル大辞泉から引用)
とくにボードゲームにおいては、ゲームデザインと区別して、見た目のデザインをアートワークと呼ぶ。

デジタル大辞泉 > アートワークの意味・解説

ドット絵ライクなボードゲームを作りたいと思っている人、ドット絵が好きな人、ボードゲーム『チャージアンドスパーク』を面白そうと思ってくれた人、遊んで面白いと感じてくれた人、インターネットの海に流され気づけばここへ辿り着いていた人。

そんな人々へ、ドット絵でボードゲームを作るとこういうことが起こったよ、ということを届けるためにnoteを書きました。あと商品PR


『チャージアンドスパーク』との出会い

ある秋の日に事務所へ出勤した際、社長とゲーム開発部のメンバーからぬるっと会話に誘われた。

雑談かな? と思ったら、かなりぼんやりとした未発表ゲームのアートワーク制作依頼だった。「こういうゲームを考えてるんだけど、どう?」みたいな感じだったと記憶している。とりあえず遊んでみて、とても楽しかった。

ゲーム開発部が制作した草案時点のコンポーネントは、ネオン管のようなアートワーク。

用語解説【コンポーネント】
ボードゲームにおけるコマやタイル、ゲームボードなどの総称。
視覚や触覚でプレイヤーを楽しませるほかに、ゲームをスムーズにプレイさせるという役割を持つ。

草案時点のコンポーネント これはこれで極めたら光の表現がキレイで面白そう

アートワークの方向性について話し合いながら、このままだとダサい仕上がりになってしまうかも? という懸念があった。

充電して、スパーク。相手のコマを止めたり、自分のコマを進めたり……

開発部がこのゲームのアイデアの基礎としていたのは、彼らの小学校で流行っていた手遊びだった。チャージ、攻撃、バリアをリズムよく、対戦する2人が同時に出す特殊なじゃんけんのような手遊びだ。
そこから発展したこのゲーム全体の動きを楽しみながら、ぼんやりと自分が好きなサイバー系のドット絵を思い浮かべていた。

かつて遊んだあの頃を彷彿とさせつつ、新たなゲーム性を提案する、ノスタルジックだけど、新しい雰囲気……

このゲームのアートワーク、ドット絵にしたら面白いんじゃないか?

このアイデアを触媒に、制作を開始した。


世界観のレファレンスを探す、アイデアを広げる、ラフを作る

相談されたその日に世界観のラフを描き始めた。

最初の打ち合わせ時に例として出した『VA-11 Hall-A ヴァルハラ』というゲームのアートワークがイメージと合いそうと好評だったため、『チャージアンドスパーク』の世界観を近未来に設定。

人間が滅亡してて、アンドロイドが世を収め、ロボットが跋扈している世紀末……そんなSF的な荒野を頭に浮かべた。

カード裏面のフロッピーディスクのような模様はこの時点から決めていた。この部分はInscryptionというゲームを参考にした。

『チャージアンドスパーク』は近未来のボードゲームという設定。
近未来では旧時代の文化である「ディスクシステム」を使ってゲームを進行する、というストーリーからカードの裏面はフロッピーディスク模様にしよう!と考えていた

ラフその1
ラフその2

ゲームに登場するウサギ型ロボットもこの時点で大体のデザインが完成している。

構想の原点はスタンガンである。
スパーク(電流が流れる)する機械→スタンガン。

スタンガンの形を眺めながら「なんかウサギに似てるな」と思い、スタンガンの電極を伸ばしウサギの耳に見立てたロボットにしてみた。

ウサギ型ロボットを決めた時、じゃあエネルギーはニンジンだなと決めた記憶もある。ここでニンジンバッテリーが爆誕。

電池の形をしたニンジンなのか、ニンジンの形をした電池なのか、その謎はいまだに解明されていない。


ドット絵を描く……イラレで!

大体の設定が決まったところで、早速ドットを打つことにした。
最初に使ったソフトはAseprite。趣味で個人的に導入していたソフトだ。

これを使ってまずウサギロボットのイラストを描いてみた。

ドット絵用に開発されたソフトだけあって、機能も充実していて非常に使いやすい。そしてウサギ型ロボットのイラストが完成した。

が、ここで問題が2つ。書き出し形式が少なかったことと、解像度の指定がややこしいことだ。

ボードゲームというものは、印刷物である。PCを使って制作をするけれど、最終的には印刷して、データではなく物質となって完成する。

つまりボードゲームのアートワークを制作する際、我々制作陣は解像度という概念から逃れることはできない。

で、ドット絵である。

Asepriteでは当然のことながら、印刷物を制作することは想定されていない。つまり制作した画像を印刷に適した解像度に変換したり、CMYKカラーに変換したりという作業はできないし、それをこなすには他のDTP向けのソフトを経由しなければならないのだ。

こういうソフト間の行き来、特に、互換性がないソフトを行ったり来たりするであろう作業はトラブルが起こりやすい。そして原因究明も難しい。

というところまで想像して、私は一つの道を選んだ。

イラレでドットを打とう。

イラレとはAdobeが提供しているIllustratorというアプリケーションのことである。


イラレでのドット打ち作業

ということでIllustrator(イラレ)でアートワーク制作を開始した。

基本となるドットサイズの正方形を決めたら、あとはこの正方形をひたすらに並べていく。ひたすらに。

Asepriteとの一番の違いは、塗りつぶし機能が使えないことである。

イラレにおけるドットは、一つ一つが独立した正方形のオブジェクトとして処理される。

↑一つ一つが正方形。伝わりますか?

色や形など、変更が必要な場合はドット(正方形のオブジェクト)一つ一つを消したり、色を変えたりしなければいけない。

これがなかなか手間がかかる作業で、かなり後悔する瞬間もあった。

が、結果として満足のいく出来になったし、手間がかかった分愛着も湧いたので良しとしよう、と思っている。


コンポーネント初稿:世界観をわかってもらう

出来上がった初稿。
カード裏面と主要カード数枚、タイルのイメージを提出した。

初稿カードその1
初稿カードその2
初稿タイル

ありがたいことに初稿段階から社内では好評で、アートワークの基本は変えずに発売まで漕ぎ着けた。発売Ver.との大きな違いは、各タイルのサイズである。

初稿時点ではプレイヤーコマもバッテリータイルも、かなり大きめのサイズで想定されていた。

これは発売サイズがひと回り大きいものを想定していたことと、世界観を理解してもらうための2点が要因である。

あと初稿では自分のゲームへの理解度が低く、ライフタイルとバトルボードというゲームに必要なパーツを失念していた。致命的!

草案をプレイさせてもらったにも関わらず、こういうことは起こる。
人間の脳はあまり当てにならない。


コンポーネント第2稿:腰を据えての制作開始

初稿が好感触で、ゲーム開発部と社長両者からGoサインが出た。

ドット絵ボードゲーム制作のスタートラインに立った瞬間である。

とりあえず、プレイできる状態にしようという目標のもと、必要なカードやタイルを制作。できた第2稿が以下である。

第2稿カードその1
第2稿カードその2
第2稿タイル

初稿の頃には存在していなかった「リカバー」、「トラップ」などのカードが追加、チップもだいぶスリムになった。発売版に比べるとまだ大きいが、プレイヤーコマは第2稿時点でサイズやイラストがほぼ確定している。

プレイヤーコマであるウサギのロボットのタイルもサイズ変更とともにデザインが変わった。横幅を短くし目を大きく見せるデフォルメに変えて、よりキュートさが強調されるようになった。

ライフタイルが追加された。
タイル系は全て、裏返すと割れる=失うというギミックになっている。

タイル各種。画像左が所持している状態で、失った場合は裏返して画像右へと変化する。

ライフタイルが最もわかりやすく喪失を表せているように思う。

ここまで前回からの修正・変更・追加部分を書き出してきたが、変わっていない部分もある。カード裏面だ。

フロッピーディスクをイメージしたカード裏面は、初稿から完成稿まで一度も変更なしで進んでいった。全体のアートワークの柱というべき存在である。

ちなみに、この時点でもまだバトルボードが制作されていない。
「バトルボードが必要」という情報が完全に抜け落ちたまま制作を進めてしまっている。まずい。


コンポーネント第3稿:バトルボードの登場

第3稿でようやくバトルボードがお目見えである。
遅い。そしてかなりシンプル。

第3稿カードその1
第3稿カードその2
バトルボード案

前回からの変更点はカード「ムーブ」の色が緑→ピンクになったことと、「カウンター」のイラストである。

「ムーブ」の色変更は、特別な意味を持つカードだからもっと見やすくして欲しいという開発部の要望から。

「カウンター」はテストプレイ時に「バリア」との違いがややこしいことが判明、もっとわかりやすくしようという意見から変更となった。


パッケージのコンセプト決め

次にパッケージについて。
一番最初に私が想定していたデザインは、灰色のディスクプレイヤーっぽいイラストにピンク文字でロゴが入っているものである。

パッケージ 一番最初のすがた

ゲーム自体がフロッピーディスク(もどき)を使ってロボットを操作するというコンセプトだったから、パッケージがディスクプレイヤーだったら収まりがいいなと思っていた。

が、いざデザインしてみるとあまりにも無骨というか、正体不明感が強く出てしまうと感じた。

ただでさえ「ドット絵」というボードゲームではなかなか見かけないアートワークに挑戦している中、このパッケージでは手に取ってもらえる機会を失ってしまうのではないか。

もちろんそれでも興味を持ってくれる人はいるだろうけれど、かなり「マニア向け」になってしまうだろうと感じた。

ということで別案を2つ考えた。

パッケージ案2種

1つ目は左側の「小型ゲーム機」っぽいパッケージ。

ドット絵というアートワークを強調したくてレトロゲーム機風にしてみた。が、「小型ゲーム機」は直接世界観に関わらないので、これは結構捨て気味の案だった。

2つ目が、最終的にパッケージ案として採用された「ゲームボーイ専用ソフトの箱」っぽいパッケージ、である。

二人対戦の文言や箱絵とロゴのバランスで「ゲームボーイ専用ソフトの箱」っぽさを演出してみたら、これが思いのほかしっくりときた。

これで行きたい!と個人的には決め打ちをしながら提出し、狙い通り「ゲームボーイ専用ソフトの箱」っぽい案が好評だったため、この方向性で決定。

ただイラスト部分が何を表現しているかわかりにくいという声が多かったため、イラストは描き直しとなった。


パッケージをつめる

全体的なコンセプトは固まったパッケージ。
次の作業はメインイラストの変更とロゴの制作である。

パッケージ全体案初稿 左にあるのは提案時点で置いていた旧メインイラスト

ロゴはドットフォントを前面に押し出したデザイン。シンプルで世界観にあってはいるが、少し無骨な感じもある。

この時点から絶対に置きたいと思っていたのは「BOARD GAME」というロゴ。これがかなり、レトロゲームの箱感を盛り上げてくれている。

パッケージ第2稿

パッケージ第2稿。ロゴが大きくなり、左側の白帯部分が追加された。

初稿時点でちょっと居心地悪そうだった「JELLY JELLY GAMES」ロゴが良い収まり方になった。

周辺が固まってきたことで、ゲームロゴこれでいく?どうする?という検討が本格化。あーだこーだの話し合いの結果、ロゴ自体はドット絵に捉われすぎない形でもいいのでは?という結論に落ち着き再検討となる。

合わせて浮上したのが「メインイラストの天地がわかりにくい」問題だ。

このパッケージ案を初めて見た社員から、ロボットの天地がわからないかもという意見をもらった。

言われてひっくり返してみると、なるほど確かに、頭の上に丸いサイレンが載った二足歩行のロボットにも見える。

左(正)がウサギロボットだが、右(誤)も頭にサイレンがついた2足ロボに見える

ゲームの第一印象を左右するパッケージでこれは良くない、ということで背景を書き込んで奥行きを出し、イラストの上下をわかりやすくすることに決めた。

パッケージ第3稿
パッケージ裏初稿

パッケージ第3稿。ここでパッケージ裏面が出現している。

今までノンテーマだったメインイラストの背景を夜の街に変更。そしていくつかのロゴ案を提出。

メインイラストに関してはわかりやすくなったとの声が多く、これで確定。ロゴは見やすくレトロ感がある、という決め手から左上のものに決まった。

ということでこの時点でパッケージ案がほぼほぼ確定。
合わせて動いていたゲームボードと説明書も、ほぼ同じタイミングで基本のレイアウトは決定した。

パッケージ表面(ほぼ)完成稿
パッケージ裏面(ほぼ)完成稿
蓋を開けると、ウサギロボットがビーム攻撃をバリアで跳ね返しあっている遊びを追加した。


カードとタイルもつめる

パッケージとともに、カードとタイルも修正を重ねていた。

実際にプレイしてみて気になったところ、わかりにくかった部分を吸い上げ、反映していく。

カード(ほぼ)完成稿その1
カード(ほぼ)完成稿その2
タイル(ほぼ)完成稿

修正を重ねたほぼ最終稿が上の画像である。
カードはCOST欄を左側に移動させ、フレーバーテキストも開発部に再考を重ねてもらった。

プレイヤーコマに「1P」「2P」の吹き出しを追加。
ロボットの上下がわかりにくい問題への解決策である。


入稿データの完成

そして2023年1月12日、(おそらく)入稿データが完成した。

今まさに入稿データを上司へ送った所だ。職場とは思えないほど椅子にだらけて座りながらこれを書いている。

ほろにがカフェオレだと思い込んで淹れたホットドリンクはココアだった。それくらいの疲労度である。

最初に「最後のデータ」を送ったのは1月5日。一週間も前のことだ。

それから細かな修正や葛藤、制作中に忘れてしまっていた落とし物を拾い上げて、ようやく入稿データ完成となった。めでた〜い

入稿データ制作時はいつだって精神が摩耗する。
ここが最後の砦だ、という意識が常にある。それと同時に、早く楽になりたい、早く完成品を見たいという気持ちも迫り上がってくる。
慎重さが求められる中ではやる心をなんとか制御しなければならない期間である。

ともあれ、悲喜交々あった制作もこれにて一旦終了。

あとは印刷所とのやりとりが中心となっていく。
担当も変更となるので、私の制作日誌はここまでとさせていただこう。


おわりに

以上が、チャージアンドスパークのアートワーク制作の軌跡である。

順調にいけば、この記事が公開される頃には皆様の手元に「チャージアンドスパーク」が届いていることだろう。届いていますか?

まだ買ってないよという人は、ぜひ買ってほしい。2人で遊べる、キュートでチャーミングなゲームだ。アートワークを眺めるのも楽しいと思う。

ゲームを楽しみながら、アートワークにも興味を持ってもらえたらこれ幸いである。ここまでのお付き合い、本当にありがとうございました。

それではまた、どこかのボードゲームで。


チャージアンドスパーク アートワーク担当
斉藤穂


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