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二藍

富山県五箇山に伝わるこきりこ節。大化の改新の頃にはじまった、田楽の流れを汲む日本最古の民謡といわれます。

板ざさらと呼ばれる古楽器を手に、山鳥の羽をつけた綾藺笠(あやいがさ)を被り、直垂姿の男性が踊るパートはささら踊りと呼ばれます。腰を低くして重いささらを響かせながら踊るのは、結構体力がいります。
板ざさらは鳥獣戯画の蛙さんも使っていますね。
(その持ち方じゃ、筋肉痛になっちゃうよ!)

で、今回の話はささらではなく、踊り手の男性が着用する直垂(ひたたれ)です。
はじめて見た時には驚きました。
下の動画では見辛いかもしれませんが、オレンジ色の衣装が光の加減で水色のようにも見えるのです。

この謎は、踊りの先生からこの衣装をお預かりし、手元でじっくりと眺めた時に解けました。縦糸と緯糸の色が違うために、光の反射角度によってオレンジ、水色と色が変わって見えたわけです。

下の3枚は、角度を変えて同じ衣装を撮ったものです。
目の前にある織物は、動画で見られるようなオレンジ色なのですが、レンズ通すと文様の濃いオレンジの部分にフォーカスされるためか、水色が強調されて見えます。

不思議な織物だなあ、こきりこのオリジナルなんだろうか、などと思っていましたが、「有職の色彩図鑑」という本に解説が書かれていました!

 糸を染めてから織り上げる「先染め」の生地を「織物」と呼ぶ。平安時代、「織物」は過差(ぜいたく)とされ、たびたび禁令が出された。
‥‥
 織物の場合、縦糸(タテ糸)と緯糸(ヨコ糸)の色を変えて織ることが可能になる。これが「織色」である。この場合、いわゆる「玉虫色」現象が起き、光の当たり具合によって色彩が変化するため大変美麗で、平安時代に禁色とされたのも理解できる。

八條忠基『有職の色彩図鑑』淡交社

縦糸と緯糸の色の組み合わせを変えれば、それこそ無限のバリエーションの織色ができます。
この本の織色のサンプルを見ていて、これだろう、と思ったのが二藍(ふたあい)と呼ばれる織色。縦糸が紅、緯糸は縹の色糸で織られています。
二藍、という名前が不思議でしたが、もともと「藍」という言葉は染料の総称として使われていたのだそうです。紅花つまり「くれない」は中国の呉の国から伝わったことから「呉藍(くれのあい)」とも呼ばれました。藍と紅、2つの「あい」で染めることから「二藍」と呼ばれるようになりました。
織色の他に、藍と紅花で染めだした紫色のことも二藍と呼ぶそうです。

紅色は赤、という印象しかありませんでしたが、名前の中に藍を秘め、織や染めの中で藍色とかけあわされる。そんなふうに考えただけで、二藍のファンになってしまいそうです。

参照元


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