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世界最速の植物ムジナモ

江戸川の土堤内の田間に一つの用水池があつた。この用水池は、今はその跡方もなくなつている。この用水池の周囲にヤナギの木が繁つていて、その小池を掩うていた。私はそこのヤナギの木に倚りかかつて、その枝を折りつつ、ふと下の水面に眼を投げた刹那、異形な物が水中に浮遊しているではないか。
「はて、何であろうか」と、早速これを掬い採つて見たら、一向に見慣れぬ一つの水草であつたので、匆々東京に戻つて、すぐ様、大学の植物学教室(当時のいわゆる青長屋)に持ち行き、同室の人々にこの珍物を見せたところ、みな「これは?」と驚いてしまつた。

青空文庫『牧野富太郎 ムジナモ発見物語り

牧野富太郎植物博士が、日本で初めてムジナモを発見した時の記述です。
根を持たず、水面に漂う食虫植物。
虫を捕らえるために葉を閉じるスピードは、植物の動きのなかでも、スティリディウムという植物と一二を争います。

ムジナモは、長らく野生絶滅状態に陥っていましたが、関係者の努力により、埼玉県羽生市の宝蔵寺沼で自生するようになりました。
羽生市の他、牧野博士がムジナモを発見した東京都江戸川区でも保存会が活動しており、今年で10周年を迎えるそうです。
※記事上の画像は、保存会の了解をいただいて使わせていただきました。

そして、今年2023年前期のNHK朝の連続ドラマ小説らんまんは、牧野博士が主人公だそうです。

私は、小学生の時に「すきとおる草ムジナモ」という本を読み、ムジナモのことを知りました。
今もなお、関係者が守るための努力を続けているムジナモ。
ムジナモが自然の中で生きていけるよう、たくさんの人たちが関心を持ってくださればと思います。

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