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病棟実習話

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病棟実習で起こったあれこれをまとめています
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2020年5月の記事一覧

【続】消化器内科病棟でもブルガリアンジョークはジョークじゃなかった

いわゆるお酒にまつわるブルガリア人のジョークですね。 ブルガリアには旧ソ連時代の建物を取り壊す資金がなく、いたるところに廃墟や廃工場があります。 廃墟化された酒造工場に、エタノールが放置されている事もあるようで、こっそり忍び込んではエタノールを飲んで、アルコール依存症になる人が後を絶たないなんて話もあるほど。 消化器内科という分野は、臓器として細かく分けると、食道、胃、小腸、肝臓、胆嚢、大腸と、幅広い臓器に関する疾患を診る診療科です。 それなのに、うちの病院に入院して

ブルガリアでは溺れた人は助けない

酒は薬 ブルガリアでは酒は薬であることを何度か紹介してきました。 アルコール事情 WHOによると ブルガリア人の2.3%がアルコール依存症で 6.9%がアルコール使用障害のようです。 また State of Health in the EU Bulgaria Country Health Profile 2017には ブルガリアにおける 2014年の1人当たりの飲酒量は12L以上で EU平均のなんと6倍と報じられています。 這い上がれない医療システム ブルガリア

聴診はカサカサ音との戦い

ブルガリアの医学部では、2年後期から一般内科・外科の病棟実習が始まります。 まずは患者の疾患に関する簡単な概要や、問診と身体所見を取り方を指導医から学びます。 この時期に、実習のグループメンバーで競い合っていたのは誰が1番正確に聴診ができるかどうか。 医学の知識を踏まえてディスカッションする事は難しいけれど、心音を聞き分ける事ができれば、心雑音がある、なしで指導医に報告できるし(本当は聴診はもっと奥が深いが...)、何より自分で選んだ選りすぐりの聴診器で聴診するなんて、

10年経っても思い出す電線泥棒の話

これは私が4年半の病棟実習で、重症度や社会的背景が最もえぐいと思った患者の話です。 病棟実習が始まって1年経ったある日の外科実習のこと。 その日はやけに指導医がそわそわしていて、右も左もまだ分からない学生の私たちでさえ、ただならぬ雰囲気を感じていました。 『処置を見せたいからついてこい。』 指導医の後ろについて足早に処置室に向かいました。開け放たれた処置室のドアから処置台に横たわっている患者が見えた瞬間、なぜ指導医が患者の詳細を話さなかったのか理解しました。 処置室