ひらめきはカオスから生まれる

カオスがなぜ重要か

・人文主義者たちが教会の書庫をあさって古典をかき集める一方、教会は聖職者がアリストテレスの教えに接することを厳しく禁じた。しかし、黒死病とともにすべてが変わる。

・死に行く病人のかたわらに座り、慰めをあたえ、最後の儀式を執り行ったのは聖職者である。その結果、聖職者はほかのだれよりも無防備に病菌にさらされていた、そして次々と倒れていった。

・聖職者や敬虔な人々が次々と死んでいく現実を前に、やがては自分も病に倒れると覚悟した富裕者たちは、遺言書から教会の名を削り、代わりに子孫のためという名目で高度な研究施設に遺産を寄贈するようになった。そして黒死病がヨーロッパを襲った1348年、プラハ大学が創設される。1350年にはフィレンツェ大学が設立され、1348年から72年にかけてはケンブリッジ大学で新たに四つの学寮が、オックスフォード大学で二つの学寮が開設された。ウィーン、クラクフ、ハイデルベルクなどにも大学が誕生する。こうして新たな大学で、人々は高度な教育を受け、人文主義者たちの教えにも接するようになった。

・ペスト感染による聖職者たちの激減は、私の言う「余白」を社会のなかに生み出した。

・大学で教育を受けたアラタナ聖職者たちは、古代の思想家、芸術家、技術者、建築家などへの崇敬の念を教会に持ち込んだ。人文主義者と教会内部における彼らの存在は、その後の数世紀におよぶ連鎖作用を生み出し、ルネッサンスの先駆けとなるのである。

・本は、伝統的に人間の手で書き写されるものだった。ヨーロッパ中で何千人もの修道士が、日に2〜3ページの割合で、何冊の書物を何日もかけて丹念に書き取っていく。ペスト以前は人手がふんだんにあったため、筆者がいちばん安価で実践的な本づくりの方法だったのである。しかし、黒死病は多くの修道士の命を召し上げた。その結果は?安価な労働力の喪失である。

・ヨーロッパ中で多くの人が亡くなったため、もはや着る者のいない衣類が大量に発生し、服を燃やすたき火の煙がいたるところで高く立ち上った。しかし、人々はじきに服地をぐつぐつと煮てとれた繊維で「紙」をつくるようになった。その結果、人件費は高くて人手は少なくなったが、紙はたちまち安くて豊富になったのである。

・カオスはまず「余白」をつくり出す。そして、それが「異分子」の入り込む余地となる。そこから、思いもよらぬ結果が生まれる。私はそんな不思議な現象を「計画されたセレンディピティ」と呼んでいる。

・私たちも、人生に創造性と革新性を呼び込もうとするなら、少しばかりの「カオス」が不可欠だ。それなのに私たちは、管理が行き届いているほうが効率的だと信じ込まされている(つまり、計画的な人間のほうがすぐれた人間だと思い込んでいる)。

・「既存の物理学会の目には、アインシュタインはいわば部外者、特許局で働きながら専門誌に目を通すような、道楽半分の素人研究者と映ったことだろう。また、本人にとっても、学会に対する無用な期待はいっさいなかったし、失うものはなにもなかった。教えを請うべき師もいないが、恩義に報いる相手もいない。彼には恐れるものがなかった。革新的になれる身の上だったのである」

・アインシュタインが偉大な発見にいたる瞬間には、一つの共通点があることに気付くだろう。「特殊相対性理論」がひらめいたのは、眠りに落ちる間際だった。そして「一般相対性理論」を思いついたのは、特許局の椅子の背もたれに体をあずけたときだった。いずれも、物理学の難問には集中していないときだったのである。

・驚いたことに、レイクル博士の発見によれば、まったく異なる二つの状態の間で、脳の活動量にはほとんど差がないことがわかった。意図して何かに神経を集中しているときと、心を自由にさまよわせているときとの差異は、わずか5%以下にすぎない。

・人が白昼夢にふけっているとき、脳が持つ潜在能力のどれくらいを使っているのだろうか?答えは80〜95%である。ぼんやりしているときでさえ、あなたの脳みそはほとんど全力で機能しているのである!

・「人間は、デフォルト・モード・ネットワークで未来を思い描きます。そこは、自分の内なる環境を見渡す場、頭の中になにがあるかを調べる場です。私たちはそこで予測をし、行動を計画しているのです。」

・要するに、脳は、驚くべきデフォルト・モード・ネットワークの活動を通じて、毎日とりこんでいる膨大な量の情報を結びつけている。それは、情報の取捨選択をおこなうだけではない。異なるデータや情報の橋渡しをし、それらをつなぎあわせ、世界の把握を促す。

・「そのアイディアは、どこからやって来たのか見当もつきません。でも、とにかくやって来たのです……完璧な姿で。列車の中で、突然、基本的な構想が頭に浮かびました。本当の自分をまだ知らない男の子が、魔法使いの学校に通う……。ハリーにはじまり、次にはすべての登場人物と場面が、一気に頭の中に流れ込んできたのです。」

・セレンディピティは、人間の側で準備できる条件をすべて抜かりなく整えた環境でこそ、不意に起こるものである。

・私たちの大半は、だれもが活発に語り合うのがいいミーティングだと考えがちだろう。会議室に沈黙が訪れることを、みんなはどこかで恐れている。だから、参加者たちに向かって何かの問いを投げかけたときも、1〜2秒待っただけですぐにだれかを指名したりする。しかしリーサは、なにか質問をしたあと、参加者の頭の中でアイディアがしっかりとかたちになるよう、もう少し長く待つことにしている。声には出さず、ゆっくりと20まで数えるという。

・驚くことに、この方法でいいアイディアがたくさん出てくるのである。「うそのようですが、私が18〜19まで数えたところで、誰かが意見を口にするということが頻繁に起こります」。

・同じように、こんなテクニックも試してほしい。話し合いをはじめる前に、その日のテーマについて、全員に一分間ほど黙って考えてもらうのである。そうすることで、思いがけないアイディアが出てくる。

フルパワーで脳みそを働かせたあとは、のんびりボケッと休憩する。すると、思いがけないアイディアが湧き出てくる…というのは実感の持てる話。ぼく自身もブログ記事のアイデアは、そんな感じで出てくることが頻繁にあります。

役立つ会議テクニックまで収録された良著です。また別の記事でピックアップしてみようと思います。

ひらめきはカオスから生まれる[Kindle版]
posted with ヨメレバ
オリ ブラフマン;ジューダ ポラック 日経BP社 2014-03-19

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