話題の!ブラックホールについて

最も重い星の最後
超新星爆発を起こすような重い星の中でも、太陽の20倍を超えるような非常に重い星の場合、超新星爆発を起こしたあとに残される中心核は自らの重力に耐えられず、さらにどんどんつぶれていきます。こうして極限までつぶれた非常に密度の大きい天体が、ブラックホールと呼ばれます。アインシュタインが提唱した一般相対性理論によれば光も重力の影響を受けるので、非常に重力の強いブラックホールからは光さえも出てくることができません。このため、「黒い穴」のように見えるだろうということで、ブラックホールという名前がつけられました。

最初のブラックホール候補、はくちょう座X-1の発見
理論的にはその存在が予測されていたブラックホールですが、その名の通り光さえも出てこないために、ブラックホールを観測するのは簡単ではありません。1970年、アメリカの科学者たちは強力なX線を放射する天体を突きとめるため、X線天文衛星「ウフル」を打ち上げました。「ウフル」は強いX線を出す天体を数百個発見しましたが、そのほとんどは中性子星でした。ところが、はくちょう座X-1と名づけられた天体の位置には、太陽のおよそ30倍の重さの大きな熱い青い星があったのです。しかもこの星は、太陽の10倍の大きさの見えない天体に引っぱられていました。この見えない天体こそが、観測で初めてブラックホールの候補とされた天体です。現在では観測が進み、十数個のブラックホール候補天体が見つかっています。


なぜ今までブラックホールの姿を見られなかったのでしょうか。ブラックホールはとても小さいので、例えるならば地球から見て月の表面に置いてあるオレンジを撮影するようなものになります。今までの手法で最高の解像度で地球から月の表面を撮影したとしても、1ピクセルの大きさを実際の尺度に直せば、オレンジ150万個ぶんの大きさになってしまうほどの粗さでしか撮影できません。もし月の表面に置かれたオレンジ1つを撮影しようと思うなら、地球サイズの望遠鏡が必要になってしまいます。

そこで世界中に電波望遠鏡を設置し、正確に同時に測定することで巨大な仮想望遠鏡を作成するというプロジェクトがスタートしました。これにより、地上の観測装置としては最高の300万の視力を達成することができます。とはいえ観測データをそのまま見るだけでブラックホール が可視化できるわけではなく、観測データを画像化することによって初めて画像を得ることができます。その画像化の手法として日本チームが取り入れたのがスパースモデリングです。

スパースモデリングとブラックホール撮影との関係
スパースモデリングとは、観測データが説明変数よりも少ない場合であったとしても、説明変数の多くが本質的な情報を少ししか持たないという仮定を置くことで答えを求めることができるという考え方になります。

ブラックホールの観測に用いられた電波干渉計による観測では、天体画像の画素数に比べ、観測データが少なくなってしまうという問題があります。下図は電波干渉計で観測された波のイメージです。観測されたデータが2つの望遠鏡を結んだ線のようになってしまうので、一部分しか観測できずにデータが少なくなってしまうイメージが掴めるかと思います。

この観測データ不足の問題のため、データを画像化する際に不足部分が生じてしまいます。そこで本質的な情報を持った部分の解を抽出することで、問題を解くことができるLASSOという手法が初めに採用されました。その後もさまざまな手法が開発されましたが、基本となるのは多くの画素値がゼロであり、周囲の画素の値が近いことを仮定して問題を解くというスパースモデリングの発想に基づいた考え方です。

スパースモデリングの応用例
ここまではスパースモデリングがブラックホール撮影にどのように用いられたかについて書いてきましたが、スパースモデリングは決してブラックホール撮影のみならず、多岐にわたる分野での応用が可能です。

例えば、医療現場に必須とも言える検査の手法であるMRI撮像が挙げられます。MRIは検査に有用なものではありますが、安静にしておかなければならない時間が長いという問題点があります。そこでMRIに撮像時間を短縮するという試みが行われていますが、その中でスパースモデリングを利用した手法が期待されています。データを間引くことで撮影時間を短縮したとしても、スパースモデリングを利用することで診断に十分な鮮明さを担保することができるのです。下図は既存手法(上段)とスパースモデリングで再構成した画像(下段)の比較ですが、スパースモデリング を用いた画像再構成のほうが撮像の高速化倍率を高くした時により鮮明な画像を作成できていることがわかります(図下部の数値が高速化の倍率を示します)。

画像のみならず、レコメンデーションの分野においても活用は可能です。レコメンデーションにおいて一般的に用いられる手法に協調フィルタリングというものがあります。これは例えばECサイトにおいて、個々のユーザーごとにそれぞれのアイテムを購入したかどうかの情報を用いて類似度を測定し、その類似度を用いてどの商品を推薦するか決定します。

ところが実際のデータではユーザー同士がある同じ分野に興味があったとしても、ユーザー同士では互いに同じものを買っていなかったりすることが多くなります。例えばスポーツに興味があるユーザーが複数いたとしても、それぞれ購入するものはスポーツ用品だったり、スポーツに関する雑誌だったり、はたまたスポーツで負傷した時に使うテーピングだったりするということです。

このような場合は類似度が非常に低くなってしまい、何もリコメンドできないということが発生します。つまり意味のあるデータが少ない、スカスカな状態ですが、このような時にもスパースモデリング が効果を発揮します。スパースモデリングを用いれば、ユーザー同士購入したことのない商品であったとしても、同じ軸でまとめてしまって、その軸に基づいてレコメンデーションしよう、ということができます。スパースモデリングを用いて重要な部分を抽出することができているわけです。


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