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春の名席体験会 鶴川の茶室「虚心亭」

桜がまさに満開を迎えた4月2日に町田市鶴川にあります茶室 虚心亭 にて春の名席体験会を開催いたしました。

「ほんのちょっと街道筋からそれた所に、今でも「かくれ里」の名にふさわしいような、ひっそりとした真空地帯があり、そういうところを、歩くのが私は好きなのである」

白洲正子「かくれ里」

鶴川は白洲正子さんの旧居である武相荘で知られるようになりましたが、田畑と開発された住宅地の続く町です。
白洲夫妻が空襲の危険を避けてこの鶴川に移住したのが昭和17年。戦争がいよいよ激しくなり始めた時代にあっても鶴川は静かな農村で、小田急線の駅まで畦道を延々と歩いてむかったそうです。
住宅街を一歩奥へ入ると昔ながらの里山の風景もまだ残っていて、虚心亭はまさに、白洲正子さんの『かくれ里』のような真空地帯に存在する茶室です。

1974年に神社の宮司を務める神官の方が地域の文化の向上のために資材を投じて建てた茶室ですが、2000年にお亡くなりになってからは使われることもなく、周囲に落ち葉が積み上がり、動物も入り込むなど荒れ果てていたところを20年余りの時を経てご親族のお力でで修復され2022年に新たなスタートを切りました。

広間「雪月花」の前庭 背後は裏山へと通じている

小高い丘の上の茶室は主屋にある「雪月花」「松上鶴」の二つの広間と離れの三畳台目中板の小間「圓庵」で構成されております。
山道に石を組んで作られた路地を登っていくと雑木林の中に忽然と茶室群が見え、風の音や鳥の声だけが聞こえる静寂の世界に入ります。

自然の中に囲まれた茶室で稀に見る環境の良さ

小間「圓庵」は深三畳台目、仕付棚中柱と中板という構成で、床の間は板床となっております。

お茶会当日は初めてご参加のお客様とご常連のお客様がほぼ同数でしたが、ご常連のお客様のお心配りにより、初めてのお客様もいろいろとお話しくださいました。
席を終えた後も敷地内を散歩しながら、今日出会ったばかりの茶友としてみなさま楽しそうにお話しされているご様子に、大変嬉しい思いでした。

道具は地方の工芸品を中心としたため、皆様の様々な旅のお話を伺うことができました。伊賀水指が大変重く、今回は置き水指にいたしましたが、過去の茶会で使用したときに運び出しでヨロヨロしてしまったことをご記憶の方もいました。また、この水指を「男の水指」とおっしゃった先生がおりましたので、点前の後男性のお客様に水指の運び体験をしていただきました。「確かに重い」とのことでした。。。


主菓子鶴屋吉信製「春景色」 干菓子諸江屋製「はなうさぎ」 末富製「京ふうせん」
花 藤の芽 都忘れ
伊賀の水指と根来茶器

新たなスタートを切ってまだ短い年数の茶室ですが、稀に見る環境の良さを生かし、これから地域の茶道交流の一端を担う場所として多くの茶人のかたに親しまれること心から願っております。