新宿少年アート

こんばんは!みなさんいかがお過ごしですか?前回の投稿から時間が空いてしまいましたが約束通りに本日は「新宿少年アート」について説明を試みたいと思います。かなり長くなってしまいましたが、お付き合いください。

概要

「新宿少年アート」は、1994年4月23日〜5月14日に東京・新宿の歌舞伎町一帯で行われました。中村政人さんなどが中心となって銀座の路上で開催した「ザ・ギンブラート」に続く、若手作家による自主企画展です。参加作家は公募で集まった約84組(※1)のほとんどが20代(※2)でした。路上やバス停、空き地、喫茶店などの様々な場所に作品が展示され、至る所でパフォーマンスが披露されました。

展覧会タイトルは、中村伸夫著『少年アート』から来ていているのでしょうか。この本は「一人の若者がロンドンぶらり旅で偶然出会った本格的な現代美術界冒険記」というような内容で、となると新宿・歌舞伎町バージョンをするということだったのでしょうか…真相はわかりません&余談ですが、中ザワヒデキ氏は『現代美術史日本篇1945-2014』で「私は『少年アート』に対するアンチとして『近代美術史テキスト』を書いたので」(下のリンクで読めます↓)と記述しています。

でもって例によって、先に断っておきますが、以下の内容はあくまで手元にある資料をもとにした情報で、実際にゲリラ的に参加した作家の方もいたそうなので完全に説明するのは難しい&もし欠けている情報をお持ちの方いらっしゃいましたら、コメントにて教えていただけますと幸いです◎

展覧会の目的

『新宿少年アートペーパー』(※3)で中村政人氏は新宿少年アートの目的として以下の様に述べています。

・流れ続けなければならない路上の法(注1)において少年のように寄り道をし立ち止まること。
・無菌を保とうとする美術館(注2)に注入するため活きのいい都市のウイルスを採取すること。

前年の「ザ・ギンブラート」では銀座の貸画廊を標的にした展覧会であったとすれば、「新宿少年アート」は道路交通法と美術館の利用規定に対するアプローチによって行われていると考えられます。重要なので注釈も以下に記載しておきましょう。

注1:道路交通法76条の中で道路における禁止行為等として下記の事項が記されている。
何人も、信号機又は道路標識等の効用を妨げるよな工作物又は物件を設置してはならない。
何人も、交通の妨害となるような方法で物件をみだりに路上においてはならない。
何人も、次の各号に掲げる行為は、してはならない。
●道路において、酒に酔って交通の妨害となる程度にふらつくこと。●道路において、交通の妨害となるような方法で寝そべり、すわり、しゃがみ、または立ちとどまっていること。●交通の頻繁な道路において、球技をし、ローラー・スケートをし、又はこれらに類する行為をすること。●石、ガラスびん、金属片その他路上の人若くは車両等を損傷する恐れのある物件を投げ、又は発射すること。

注2:東京都美術館の利用規定の中で「搬入作品の制限」という項目中には次のように記されている。
1、作品は完成されたものを搬入し、館内での制作は禁止します。
2、次に掲げるような作品は、館の管理運営上支障がありますので搬入しないようにしてください。
●天井から直接つり下げる作品。●不快音または高音を発する仕掛けのある作品。●悪臭を発しまたは腐敗のおそれのある素材を使用した作品。●裸火を使用する作品。●刃物などを素材に使用し人の危害をおよぼすおそれのある作品。●砂利、砂、土等を直接床面においたり、水・油または、釘等で床面および壁面を汚染・き損するような素材を使用した作品。●動物および危険物など。●観覧者にいちじるしく不快感を与えるなど公安・衛生法規にふれるおそれのある作品。

出品作家・作品リスト

『新宿少年アートペーパー』と「アーリー90's アートスクアッド」展(以下、「スクアッド」)で聞いた話などを踏まえて出品作家と作品リストをざっくりですが、わかる範囲で書いてみます。

1.会田誠《St. DNA Church》
2.浅野庚一《記号7(七角のシリーズ)》
3.在田一哲《採点ーよくかいたとほめてやりたい、80点》
4.飯田啓子《「宅急便」を宅配する。》
5.池松江美《ちり紙で友達を作る会》
6.伊藤敦《SHAKE IT》
7.イノウエGABO《君と僕》《安全+第一プロジェクト》
8.IMAHIKO《Portrait》
9.岩井成昭《サウンドアート》
10.岩田泰政《新宿の地面の固さを測る》
11.宇治野宗輝《花と蜜蜂》
12.宇田見ひとみ《きっとみつかるあなたのマイホーム》
13.江口美土里《やどかりの家》
14.大岩オスカール幸男《現代アートの出口》
15.オクダサトシ《アントノオ.イノキン》《増殖》
16.小沢剛《なすび画廊》《新宿少年ラヂオ》
17.蔭山ヅル、伊与田みかん、唐津卓郎《アートしりとり》
18.カナスギハジメ《Pleasure Zone》
19.金光拓也《バケツ専用ロッカー》
20.企画会議《ラジオ体操》
21.擬態美術協会《ギャラリーアオゾラ》
22.木村稔《Project for throw away》《Parking project》
23.草場美智子《ご自由にお取りください》
24.工藤裕一郎《首都イタリア》
25.小林正史《Invitation》
26.Sir VARMIN《Misjudge for 22 days》
27.坂口明美《ファンタスティック バーコード》
28.SAKURART《コックサッカーブルース》
29.さくらいとも《つけおき》
30.佐藤姿子、山田春美《Untitled》
31.謝琳《ヴィーナス》
32.謝琳&高山《Shinjuku Rice-Lovers Project》
33.JAPAN ART TODAY編集部《JAPAN ART TUDAY 新宿少年アート号》
34.申明銀《ハレルヤ》
35.鈴江泰仁《実験詩人鈴江泰仁に存在するアートなんちゃって展》
36.鈴木真吾《電飾カモフラージュ》
37.鈴木崇司《EKAKI》
38.鈴木亘彦《キクゾエ工務店》
39.スズキマサノリ《Vivid1号》
40.清野栄一《THE BIG NOWHERE TIMES》
41.瀬下雄高《種を蒔く》
42.勢村譲太《虫の巣》
43.その他《タラちゃんに捧げる”Children's Day”》
44.TAG BROS《TAGGING》
45.竹内スグル《YELLOW BONE》
46.竹内やすひろ《FINGERPRINT》《住所看板》
47.田中ルミ《VS》
48.トシユキキムラ、ニワマナブ《カルトBABY》
49.TOKOO[トックー]《Wool Man》《Tokoo》
50.TOKYOアーティスト図鑑《非日常の窓》
51.戸松ぱにゃ《ハードラブ》《マシーンドールショウ》
52.とよだふみ《ロイヤルパーク》
53.中村邦夫《ハエ》
54.中村政人《PL(椅子)》
55.中村律《標識ゼロ地点》《透明シール》
56.NAVE' NAVE'《POST PROJECT》
57.西垣裕美《BLUE BOX》
58.西本太郎《その時僕がそこ在たことの為に》
59.脳内帝国《脳内帝国vol.3》
60.長谷部憲三《離・着・陸》
61.八谷和彦《新宿少年テレビ》
62.BAKKARS&王選手《カラオケ紙芝居(春のよそおい)》
63.ハニートラップ《正義の味方ハニートラップ》
64.パルコ木下《バイオレンスペインティング(なぐりがき)》
65.ビシバシミキオ《今日、プラボーイはいますか?》《カブ記帳》
66.広野智一《川の流れの様な風の流れの外で》
67.福田美蘭《ポケットティッシュ》
68.舟久保文恵《ダンボールハウス》《自転車でGO》
69.古谷俊彦《新宿矢印計画》
70.まちあるきテクト《あるもんカフェ》
71.松蔭浩之《Go home》《Let's Sexercise》
72.松橋睦生《みんながぼくを見てる》
73.丸山昌智《__文化研究》(__は資料が欠損してわかりませんでした。)
74.宮地真人《ROLLING STONES》
75.村上隆《芸術相談》
76.村上タカシ《ワーゲンセール》《love project》《2丁目の人々》他
77.MOJO WORK《JUMP FOR FREEDOM》
78.もとみやかおる《Jete'eについて》
79.山口あきら《画廊》
80.山内貴子《HEART BOX》
81.湯沢栄《青空碁会》《新宿の時間》
82.横内司《犬小屋その可能性と中心》
83.吉村亜也子《ボーダーズ》
84.Life is Complete《Life is Complete》
(※4)

作品解説

この中で「スクアッド」に出品されていた作品を中心に作品解説を試みます。

1.会田誠St. DNA Church
DNAを擬人化した御本尊「デリナくん」の描かれたプラカードで架空の宗教団体「St. DNA Church」を布教する活動(のようなもの)。メイン会場にドローイングが展示してありました。

6.伊藤敦SHAKE IT

自転車用錠前で設置された作品は、人が触れたり降ったりすると内部の万歩計がカウントされる。上の写真は新宿アルタ前にて4月2日に撮影したもの。コロナ終息後に回収されるという噂が。

16.小沢剛《新宿少年ラヂオ》
初日と最終日にブルセラショップにてラヂオを配信しました。書き起こしテキストが「スクアッド」に展示されていました。ネットで読めるようにして欲しいです!(熱望!)

33.JAPAN ART TODAY

写真は私の持っているJATです。ご覧の通り、レントゲン藝術研究所で販売していました。JATはフロッピー・アート・マガジンで、それまで個人でのみ使用されていたフロッピー(今で言う所のUSBみたいな?)を初めてパッケージとして用い、中ザワヒデキ、原久子、吉田裕子の3名によって発行されたミニコミスタイルの美術雑誌です。(※5)
※一覧は以下のリンクからご覧いただけます。

36.鈴木真吾電飾カモフラージュ
「スクアッド」ではPINK、BLUE、YELLOWの3点が展示されており、うちYELLOWのみ2020 年再制作で他2点は当時の作品でした。

46.竹内やすひろ
《FINGERPRINT》は歌舞伎町路上に30×20cmサイズで作家自身の指紋押捺を押す(刷る)作品で、当時の色もそうだったと思いますが、「スクアッド」ではショッキングピンク?でした。結構かっこいいなと思いました。余談ですがiPhoneも2021年に指紋認証が復活するそうで。そして《住所看板》は「千代田区首相官邸前一番地」「千代田区永田町三丁目二番地」「千代田区皇居前広場一番地」が展示されていました。架空の住所看板なのに間違えてしまいそうなほどリアルでした。

61.八谷和彦《新宿少年テレビ》
カメラ、トランスミッタ、ビデオを持って4/23の新宿少年アートの実況放送と記録を行いました。YouTubeなどにあげてくれることを期待!(熱望!)

67.福田美蘭《ポケットティッシュ》
ティッシュを出す面に自身の作品をプリントし、コンセントや作品データなどを記載した紙を入れたポケットティッシュを見知らぬ人に手渡す。

84.Life is CompleteLife is Complete
出品作品をわかりやすく解説するツアー。クリティックである西原珉が押す乳母車にキュレーターの黒沢伸が乗り、アーティストの曽根裕が導くという形式。

注釈

(※1)美術手帖1994年7月号192頁、村田真著「新宿少年アート 街にくりだすアートたち」では85名、webサイトartscapeのArtwords、福住廉著「新宿少年アート」では84名と記載にばらつきがありますが、コレクティブな作家もいるのでここでは「約84組」としました。

(※2)美術手帖1994年7月号192頁、村田真著「新宿少年アート 街にくりだすアートたち」14行目。

(※3)『新宿少年アートペーパー』は展覧会開催後に制作された16頁の展覧会カタログ。編集は中村政人、小島友見子。テキストは名古屋覚、開発チエ、鷹見明彦、楠見清ら。

(※4)『新宿少年アートペーパー』参照。

(※5)石井香絵『中ザワヒデキの美術』(トムズボックス)参照。

参考文献

・村田真著「新宿少年アート 街にくりだすアートたち」美術手帖1994年7月号192頁

・福住廉著「新宿少年アート」artscape(最終閲覧日:2020年5月19日)
https://artscape.jp/artword/index.php/「新宿少年アート」

・中村政人、小島友見子 編『新宿少年アートペーパー』新宿少年アート実行委員会

・石井香絵著『中ザワヒデキの美術』トムズボックス、2008年

・中ザワヒデキ著『現代美術史日本篇1945-2014』アートダイバー、2014年

・中村ケンゴ著『20世紀末・日本の美術ーそれぞれの作家の視点から』アートダイバー、2015年

・美術手帖2019年6月号

余談など

長くなってしまいましたが、一応ここまでにしておきましょう。作品一つ一つについてじっくり検証したい気持ちでいっぱいですが、それはまた後日のお楽しみにしてください。次回は三上晴子さんについて色々書けたらなと思います。コロナが終息したら美術館に行きたいですね。それではまたお会いできるまでお元気で☺︎

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