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祖父のはなし。

今日はおよそ1ヶ月ぶりに、祖父と祖母を交えて夜ご飯を食べた。

わたしが母と弟2人と暮らす家と、祖父祖母の家は近い。徒歩3分くらい。

だから2人とも毎日家へやってくる。

「洗濯物早く取り込んどきなね」「いちご、冷蔵庫に入れとくね」「お小遣い足りてるのかね」

そんな言葉をかける。

わたしはいつも、そっけない返事しかできない。思春期の頃、そういう、祖父と祖母の言葉がうっとうしいと感じてしまうことがあって、それを今でもちょっぴり引きずっている。あんまりそういう自分は好きではないんだけど、なぜだろうか。素直になれない。

毎日会えてしまうから、なんとなく、素っ気ない返事をしていた。

コロナが流行りだしてから、2人の感染リスクを鑑みて、母から会わないようにと忠告された。

祖父と祖母は家へ来なくなった。素直でないわたしは、あんまり自分から電話をしたり、メールをしたりすることはなかった。

さすがに1ヶ月どこにも行かなかったのでもういいだろう、ということで、今日ご飯を一緒に食べることになった。

祖父はめちゃくちゃうれしそうだった。

でもわたしは見逃せなかった。

今日の夕飯はかき揚げで、めんつゆを入れたポットがあった。 

それを祖父が掴んだ。

その手が小刻みに震えていたのだ。

危なっかしくて思わず、「私が注ぐよ」と、祖父からポットを取った。

見ていられなくて取った。

いつポットの持ち手を握れなくなったのだろう。

私の知っている祖父は、もっと強くて強がりで、わたしの代わりに固いペットボトルのキャップを開けてくれる祖父だったのに。

中学生の弟は背がニョキニョキ伸びる。ずっと一緒に住んでいても、2,3日に一回は「また伸びた?」と思うほど伸びている。1ヶ月経てば3センチくらい伸びたんじゃないかと思う。

それと同じように、祖父の時間も進んでいるのだろうか。

1ヶ月で弟の背は3センチ伸びる。祖父は1ヶ月分老いる。

またしばらく会えない日々が続く。

人生って切ない。

でも私は忘れないと思う。ちょっと震える手で日本酒を注いでもらったこと。

祖父は「みおちゃんは飲兵衛だなぁ」と喜んでいた。なんだかちょっと泣きそうになった。

いつも素っ気なくてごめんなさい。多分祖父が死ぬまで私はずっと素直にはなれないと思う。

でもまたごはんを一緒に食べたいと思った。


おわり

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