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AirDrop京王井の頭戦

「AirDrop痴漢(略称:エアドロ痴漢)」


アップル社製品(ここでは主にiPhone)に搭載されている通信機能「AirDrop(エアードロップ)」を使用して、見知らぬ人にわいせつな動画や画像を送る事。


2年ほど前、女友達二人で後楽園の観覧車に乗る列に並んでいたら「うぉ!知らない人からエアドロ来た!!痴漢だ絶対!」と友人が嬉しそうに叫んだ。
送られてくる際「辞退」か「受け入れる」の2択で選べるのだが友人は迷わず「受け入れる」方をタップした。
すぐにエロい金髪のねーちゃんの画像が表示された。
が、私達のどちらが期待してたよりもエロくなくて少しガッカリした。

そしてすぐに、誰が送ってきたのか犯人探しが始まった。エアドロは割と近くに居ないと送れない為二人で辺りをキョロキョロ見渡した。

犯人は送り付けた相手が私達とは分からないにしても反応を見る為に向こうもキョロキョロ誰に送られたか探してるはず。

周りは基本観覧車の列に並ぶ人達で、初々しいカップルや部活帰り風の男子高校生グループで、知らない人にエロ画像を送りつけてくるような変態ちっくな風貌の人物は見当たらなかった。

「中途半端なエロ画像送ってきやがって」
友達は何故か少し御立腹であった。

これが特に面白くも痛くも痒くもない私の(友達のケータイにだが)初エアドロ痴漢体験であった。


その後、私も電車に乗っている時や人混みにいるときに何度か見知らぬ人からエアドロで画像が送られてくる事があったが、迷わず「辞退」をタップし事無きを得ていた。

今年の年明け、友人と下北沢で焼肉を食べる約束をしており渋谷から井の頭線に乗ろうとしていた。

休日の渋谷と言うこともあり、ホームも停車中の電車もかなり混み合っていた。満員電車が苦手な私は少しでも空いてる車両を探していたその時、エアドロが来た。
いつもなら迷わず「辞退」だが、このあと友達と会うこともあって、何か面白い写真でも送られてきたら話のネタになるなぁ。なんて思いながら、何となくスクショを撮って流れるように「受け入れ」た。

エロ画像が表示されるのを待っていると、いきなり小汚い肌色の動く小さい何かの映像が流れ出した。
一瞬ギョッとしたが、下に字幕がついておりすぐに理解した。

「豚は意識がある状態でまず尻尾を切られます。」

尻尾を切られている豚達の映像だった。
ビックリしてすぐに動画の画面を消した。

初めて痴漢にあった時と同じ胸の底がモヤモヤする感覚がした。豚が意識ある状態で尻尾を切られているからではない。

すぐに消してしまったが動画はきっとあれからもっと残酷な映像が流れるに違いない。
そんなショッキングな映像をいきなり送りつけてくるなんて!

そんなプチパニックの中、次発の急行吉祥寺行きの出発ベルが鳴ったので慌てて乗り込んだ。
扉が締まり列車が走り出した。

新しいタイプのエアドロ痴漢?だな、、
あんな映像送ってくるなんて狂気地味てて怖いなぁ、、
としばらくドキドキしていたら、まさかの追い打ちエアドロが来た。

ビックリし過ぎて反射的に「辞退」してしまった。

え、、待って??
同じ電車乗ってるじゃん。

何なの??今反射的に辞退タップしちゃったけど、またあのショッキング映像送り付けてこようとしてたわけ??

この密閉空間の半径数メートル内に私に豚が尻尾を切られてる動画を執拗に送り付けて来てる奴がいると思ったら怒りが湧いてきた。

私は最初に送られて来たときにスクショを撮ったのを思い出してすぐに見返した。


※この時期、永遠の0を読んでいて映画版の主題歌である「風の詩を聴かせて」にハマっていました。


なーーるーーほーーどーーー
そーゆう事ねーーーー

そういう考えは全然良いと思います。
リスペクトします。
でもさ、なにしてんの?


恐怖は完全に怒りへと変わった。


肉を食うよ。私はね。

今日も食いに行くんだもの。

、、何か文句あっか?

私はYouTubeのアプリを開いてある映像を探した。そして「共有」を押して「AirDrop」で「まだ動物たべ●んの?」さんを血眼で探した。
電車だし満員だしで沢山の人がどんどん表示されるが「まだ動物たべて●の?」さんは出てこない。

この空間にいるのは絶対。下北に着く前に捕まえなければ(エアドロを)。

私はケータイの画面をずっと見つめながら「ま●動物たべてんの?」さんが表示されるのを待ち構えていた。

そんな頑張りも虚しく列車は早くも下北に到着してしまった。

それもそのはず急行なので渋谷からは3分で下北沢に着く。
長らく戦っている気分ではあるが。

く、、ここまでか、、
ただでさえ3分遅刻しているのだから、、早く行かなくては、、

後ろ髪を引かれる思いで電車から降り、階段を降りていたら、、画面が光った。

来た!!!
向こうからエアドロが!!

まさか!下北で降りたのか!!!

私は焦る心を落ち着かせながら、向こうからのエアドロは一旦「受け入れ」てすぐにスクショし、素早く私が用意していた動画を表示し共有、そしてエアドロへ。
今なら奴の名前が表示されるはず!

電車の中と違って皆移動している為、沢山の人達が表示されてはすぐ消えてまた違う人が表示される。
階段から降りてきた人達皆が通る改札の前でウロウロしながらさっきよりも強く画面を見つめていた。



「まだ動物たべてんの●」


いた。


絶対、絶対に負けない。

私にあんな不穏な気持ちにさせたんだから。

この動画を受け取れ!これが私の答えだ!!



私は結果5分遅刻した。

                     〜fin〜


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