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署名を始めた人に聞いてみよう。声をあげた瞬間のこと。 [第4回 五十嵐悠真さん]

このインタビューでは、今までChange.orgで「キャンペーン」と呼ばれる署名活動を立ち上げたことがある方に、署名活動を始めた頃の気持ちやエピソードをお話しいただきます。

第4回目は 現役大学生で、キャンペーン「入学しない大学には入学金を払わなくていいようにしてください!」を立ち上げた五十嵐 悠真(いがらし ゆうま)さんにお話を伺います。キャンペーンに集まった3.7万を超える署名簿は、6月3日(木)に文部科学省副大臣宛に提出されます。

「自分たちが経験した苦しみは、次の世代に引き継いではいけない」という強い気持ちに背中を押され、活動を続ける五十嵐さん。キャンペーンに対する思いを詳しく伺いました。

□五十嵐 悠真さん プロフィール  
1999年2月生まれ。日本大学文理学部教育学科4年。オンライン署名「入学しない大学には入学するを払わなくていいようにしてください!」発信者。教員の長時間労働是正を求める裁判(田中まさお裁判)の支援事務局。地元(江東区)のレモンラーメンが大好き。Instagramのストーリーはほとんどがレモンラーメン。


ーー五十嵐さんが立ち上げたキャンペーンの内容を教えてください。

入学しない大学には入学金を払わなくてもいいようにしてください!」というオンライン署名を立ち上げました。内容と要求はタイトルの通りなんですが、現在、国公立大学への入学を志望している場合、第一志望の合格発表よりも先に第二志望・第三志望の入学金の締め切り日が来てしまう場合がほとんどです。

そうなった場合「もし第一志望に受からなかったらどうしよう」という不安から、入学するかわからない学校に30万円近い入学金を払ってしまうことになり、もし第一志望に受かっていたら、結果的に入学しない大学に払った入学金がまるまる無駄になってしまうというのが現状です。そうなると滑り止めの大学に支払うほどの経済的な余裕がない人・家庭にとっては選択肢を大きく狭められることになります。あるいは経済的に支払える家庭であったとしても、様々な事情で「支払って欲しい」と親に言えない家庭だってあります。このように学生の将来の選択肢を狭めてしまっているともいえる現状を変え、一律で3月末まで入学金の延ばし、入学する一校のみに入学金を払うようにして欲しいと求めたキャンペーンです。

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ずっとこの問題はあったのに、ずっとみんなが無視して来たから今もこうして困っている人がいるんだと気づいた。


ーー五十嵐さんが最初にこの問題に違和感を感じたきっかけを教えてください。

5ヶ月前に(2020年12月中旬)友達とラーメンを食べていた時、その子がふと「これから自分の妹が大学受験をするんだけど、うちの家庭では入学しないかもしれない大学に入学金を払って欲しいと言い出せないのでとても苦しんでいる」という話をしてくれました。その友達の妹はとても追い詰められ精神的に支障をきたしている、ということを知りました。

僕はそれを聞いた時、構造的に大きく問題があると感じると同時に「そういえば自分の世代にも同じことがあったな」と思い出したんです。そこで、自分が高校生の時も大学生になった今までも、ずっとこの問題はあったのに、ずっとみんなが無視して来たから今もこうやって困っている人がいるんだと気づきました。このまま無視し続けると下の世代も変わらず苦しむことになると思い、現状を変えたいと思ったのがきっかけです。

ーー自分の世代にもあったなあというのは、具体的にどんなことがあったんですか?

僕が高校生の時の知り合いで、AO入試での合格を目指す人がいたんですが、その理由が、これから待ち受けるセンター試験や、滑り止めのための入学金納入などを支払う余裕がなく、安く済むからという理由だけでAO入試を受けるということでした。つまり、経済的な事情によってそもそも一般受験という選択から諦める必要があったということです。

ーー声を上げるツールとしてオンライン署名を選んだきっかけは何だったんですか?

少し話が前後するんですが、チェンジ・ドット・オーグでオンライン署名を立ち上げるのは今回が初めてではないんです。今年の1月に教員のサービス残業を労働として認めてください!というオンライン署名を立ち上げたことがあります。

賛同数は今回の入学金ほどは伸びなかったですが、実はさっき話した「下の世代に残したくない」という気持ちは、そのキャンペーンで紹介している埼玉の長時間労働訴訟の原告がおっしゃっていた言葉なんです。これから先生になる人のことを想って裁判を起こしている人が「この問題は自分の代で終わらせたい」そんな気持ちで取り組んでおられる姿に感銘を受けて、僕もその時にちょうど入学金の話を聞いて、同じような気持ちが自分の中でも強くなって来たんです。

長時間労働訴訟のキャンペーンを立ち上げた1月以来、オンライン署名というものが声をあげるための選択肢として有効だなという気持ちはあったのですが、この入学金の問題に関しては、オンライン署名という形でやるべきかどうかはメンバーと話し合いました。

なぜなら、もし数が集まらなかったら、むしろ誰もこの問題に関心がないように見えてしまって逆にマイナスプロモーションみたいになってしまう。あまり目立たせず、請願書を出したり、議員さんに陳情するだけでいいのではないか・・など、メンバーともよく話し合いをしました。

でも「集まらなかったらその時考えよう。集まるかもしれないんだから、一回やってみよう!」と決断しました。賛同が集まらなくて注目されなかったら、誰にも気づかれずにそっと終わらせられるし、集まればラッキーくらいの感覚で、とにかく思い切ってやろう!という結論に至りました。

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「入学」金なのに、入学しない。この仕組みに巻き込まれて負担が増えている学生は全然悪くないんです。

ーーどうしてオンライン署名を通して賛同数を集めたいと思ったんですか?

ただ請願を持っていくよりも、インパクトがあるのではないかなと思ったのがひとつです。もうひとつは、この問題に関しては僕の中で「自分の代にも同じことがあったな」という感覚が先に来ているので、僕のように同じようにおかしいと感じている人がいるはずなのにも関わらず、多くの人が何もしないまま今日までずっと来てしまった問題なのではないかと思ったんです。じゃあシンプルに、おかしいと思っている人と「一緒におかしい!って言おうよ」という流れでした。

ーー「入学金納入時期延長を求める 学生有志の会」は11名まで集まったと伺いました。(現在は13名)最初はたったおひとりから始められたかと思いますが、その時のお気持ちは覚えておられますか?

最初にこの問題に気づいた時、心の中でイライラしたのを覚えています。なんで入学しない大学に入学金払わないといけないんだろう?「入学」金なのに、入学しない。この仕組みに巻き込まれて負担が増えている学生は全然悪くない。「もうこれバグじゃん!」って思いましたね(笑)

ーー今は立派なアクティビストの五十嵐さんですが、その前はこんな風にみんなを巻き込むような活動はしておられたんですか?

これまでもシンポジウムやオンラインイベントを開催した経験はありました。僕は普段から自分の知っている人が理不尽な思いをしたりすることに対してすごくモヤモヤする性格で、例えば髪が長いというだけで学校に来るなと言われたり、教室に入れてもらえなかったり。そいいった自分のモヤモヤやイライラをイベントを通して提起することはありました。なのでオンライン署名が全く初めての声をあげる経験、というわけでないんです。

あっち側、こっち側という世界ではなく、どう「私たち」になれるのかを考えたい

ーー出る杭は打たれるという風潮がまだまだ強く残る日本社会ですが、声をあげたことで受けた否定的な声やバッシングを受けた時のお気持ちや、気持ちの切り替えはどのようにされておられたか伺えますか?

僕たちの活動のポリシーのひとつに、この問題に関心があるほんの一部の人たちだけの活動、という風にしたくないということがあります。なので、日大の入学式が武道館で行われた日に、この問題についてビラ配りをしたんです。この問題がツイッターのタイムラインにすら流れてこない人たちにも広く知ってもらいたくて。

ビラまき

その時に、一人の学生がビラを受け取ってくれたんです。すると、その学生が一緒にいた集団の人たちから、いかにも学生ノリみたいな感じで「何もらってんだよ〜」とからかわれていた光景を目にしました。あと、個人的に一番しんどいなあと思ったのは、ビラを配る僕たちを見た通りかかりの男性に「なんだ、サヨクか」と言われたことがありました。それを聞いた時「そっか、そういう風に見られるんだ。」と思い、僕は右とか左とか、そういうつもりでやっていなかったのでそんな風に右とか左という形で決めつけられることはすごくショックでしたね。

ーーそれは辛いですね。胸が痛くなりました。どんな風に気持ちを切り替えたんですか?

正直今も引きずってます。でも僕の中でそれって大事なことで。その人は実際に僕たちのことを"サヨク"だと思った。変なビラ配ってるなあと思った人もいたと思います。「おかしい」と思うことに声をあげてビラを配っているだけで、あっち側、こっち側というそういう世界になってしまうのが今の現実で。その時、ビラを配っているだけなのに、僕自身もその相手が「あっち側」にいるような、とても遠い存在に感じてしまったんです。でも、その人も同じような経験をしたかもしれないし、もしかするとその人の友達にも苦しい経験をしたことがある人がいるかもしれない。

何かきっかけがあれば「あっち側」「こっち側」とかではなく、同じ「私たち」になれるかもしれない人たち。あっち側こっち側みたいに世界を見ている人と、どうすれば僕が感じたような、自分の知っている人の苦しみやしんどさを共有できるのかなということを考えました。スッキリと気持ちの切り替えはできなかったけど、自分の中の一生の課題として、そんな風に敵意を感じる人たちと、どう「私たち」になれるのか、これからも考えたいと思います。

ーーおかしいと思うことに声を上げることは、決して「あっち側・こっち側」と世界を区切ることではないですもんね。

ーー4月28日の記者会見の際におっしゃっていた、キャンペーンを立ち上げた当初五十嵐さんのお母さんが「あ、そっか。これって変だって言ってもいいんだね」とおっしゃられていたというエピソードが印象的でした。その言葉は五十嵐さんにとってどういう意味のある言葉でしたか?

まず前提として、おかしいと思った僕を肯定してくれるとても大きな意味のある言葉だったと思います。何かに疑問を持った時、「いやおかしくないでしょ、そういうもんなんだよ。みんなそうやってやって来たんだよ」と親から言われてしまう人もいると思うんです。「確かにそれはおかしいね」と言って、僕の問題意識を尊重してくれた母親であったことはとても恵まれていることだと思っています。

一部の権力者や、国会議員とつながりを持っている誰かがやるとかそういうことじゃなくて、誰でもできる方法で声をあげることが大事。


ーー賛同者が少ない段階で、支えになったエピソードや、自分がやっていることは間違いじゃないんだと思えたエピソードとかってありますか?

おかしいと思うことを共有できる友達がいることは本当にありがたいことだと感じると同時に、学校とか居酒屋とか「これっておかしいよね」とカジュアルに話すことって日常で結構あると思うんです。ただ、それだけじゃなくてそれこそ糸井(五十嵐さんが一緒に活動しているメンバーの一人。五十嵐さんと4月28日の記者会見に一緒に登壇しておられた方)とかもそうですけど、糸井みたいに「一緒にやろうよ!」「変えようよ」「こういう人たちなら一緒にやってくれるかもよ」と具体的に行動に移せるように立ち上がってくれる存在がいることは、とても支えになっています。

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ーー特定の議員の連絡先を手に入れて請願を出すですとか粛々と進めていくこともできた中で、オンライン署名活動をすることに、どういう意味があったと思いますか?

これは、僕たちの活動の方針にもなっているものなんですが、誰かとコネクションを持っている一部の人たちだけが何かを変えるアクションができるのではなく、誰でもできる方法でやりたいと思っているんです。例え大学に行ってなくても、そして僕のように東京に住んでなくても。今もこの活動をしながら「こうして200円の交通費だけで省庁で記者会見をしたりできるのも、東京に住んでいる大学生だからこそできる活動だな」と痛感しています。一部の権力者や、国会議員とつながりを持っている誰かとかそういうことじゃなくて、誰でもできる方法が大事。チェンジ・ドット・オーグって、Googleアカウントとタイピングさえできれば誰でもできる。これってすごいことじゃないかと思っていて、まさにそういう手段を使って、いろんな人に見える形でやりたかったんです。

自分の友達がしんどい思いをしていたら、「まぁまぁ」と諭すのではなく、「なんとかしようよ!」と言える存在でいたい

ーー5ヶ月前からこの活動を始められたと思いますが、東京以外に住んでいる仲間はどうやって見つけたんですか?

先ほど話した去年の12月にラーメンを食べながら友達の妹の話を聞いた日、食べ終わって携帯を触っていた時、一緒に動いてくれそうな団体に所属している知り合いに早速LINEをしました。でもタイミング的にうまくいかなかったりして、そんな時に一緒に学生団体を立ち上げた糸井に連絡をしました。事情を話すと、過去に別のキャンペーンを立ち上げた人を紹介してもらえて、少しずつ繋がっていったんです。「どうしたら変えられるかあ」といろんな人に話しているうちに五人くらい集まりました。

あとは、キャンペーンを立ち上げた4月中旬に、人数が足りないので仲間を募集します。助けてください!という主旨のオンラインイベントを立ち上げたんです。そしたらまた新たに仲間ができて、今の体制に近づいて行った形です。

ーー素晴らしいご縁ですね。このキャンペーンは、過去に同じ経験をしたことがある大人たちに向けても賛同を呼びかけているのが印象的です。入学しない大学に払う30万円って、大人にとってももちろんですが現在学生の五十嵐さんたちからすると莫大な金額ですよね。

例えば子どもの学費が1,000万円でも「いいよ払ってあげるよ」という環境の家庭もあると思いますし、お金の価値をどう見るかは一概に言えないところもあります。実際僕の家庭も学費の捻出にそこまで困っているわけではありません。でも、仮に週20時間、時給1,000円頑張ってバイトして、月に8万稼げるとします。そこから携帯代、定期代、コンタクト代、教科書代など、そういった固定費でバイト代の半分が持っていかれる。友達との付き合いを削ったり、仮にまったく遊ばないとしても、その生活を7ヶ月続けてやっと28万円、それと同等の金額が、入学しないかもしれない学校に学費を払うだけで一瞬で消えるんです。入学金を払ってやっと学費を払う権利を得るわけなので、そこからまた学費も捻出しないといけない。車の免許だって親に出してもらえない学生もいるので、30万円という金額は、多くの学生にとって簡単に作れる金額ではありません。

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ーーそうですね。五十嵐さんは、こういった活動をしている中で、いつかご自分が就職活動する時への不安はありますか?

僕は進学しようとしているので、直近で就活する予定はないのですが、進学した後に就職するかもしれません。僕は、こういった活動をしていることって結構わかりやすいフィルターになっていると思っていて。おかしいと思うことにはおかしいと言いたいし、自分の友達がしんどい思いをしていたら「まぁまぁ」と諭すのではなく、「なんとかしようよ!」と言える存在でいたいので、その結果としてメディアに出ることもあります。それが希望の就職先の目に止まってもしそれが原因で落とされても、多分僕はその会社でうまくいかないと思うんですよね。むしろ僕のことを調べてくれて「合わない」って判断されてもらったなら全然いいです。僕の存在をどんどん見てもらえるのはいいことです。

ーー最後に、「おかしいと思っていることがあるけど、自分には声をあげる勇気が出ない」「オンラインで嫌なことを言われたらどうしよう」など、なかなか第一歩を踏み出せない人も多くおられます。そういった皆さんに何かメッセージはありますか?

自分の想いに共感してくれる人や、一緒にやろうよって言ってくれる人って思ったよりもいると思うんです。その人個人が感じていた苦しみや疑問を、「自分もそうだった!」って同じように悩んでいた人もきっといます。あと自分の中で心強かったのは、チェンジの遠藤さんや松崎さんみたいに、応援してくれる大人がいたということです。もうだめだ!と思ったらチェンジさんにメールをしたらいいですよ(笑)

ーーあはは(笑)ありがとうございます。どんな問題も誰かがおかしいと思うことから始まるし、こうして裾の尾が広がっていくことは大切ですよね。

※五十嵐さんら入学金納入時期延長を求める 学生有志の会は、6月3日(木)に文部科学省副大臣宛に、署名簿を提出されます。Change.orgに寄せられた五十嵐さんからのメッセージはこちらです。

5月31日時点の37153筆を提出用に印刷しました。すごい重さです。あらためて、たくさんの人が困ってきた問題であることを感じました。活動の中で出会ってきた人たちの話から知った、周辺的な問題も知りました。より多くの人が進学を諦めなくていいようにしたいので、署名の提出だけでなく、より具体的な「政策提言」として各政党に提出をします。おかしいと思うことに、「おかしい」って言ってきます!ご協力、応援してくれる方々、いつもありがとうございます。