2022/10/6 天皇杯準決勝 京都サンガF.C vs サンフレッチェ広島 信念という足枷
今回は珍しくサッカーの試合分析ではありません。
自分が試合を見て考えさせられることがあったので、どうせなら文章に残した方がいいと思いnoteに書きました。
2022年10月6日 天皇杯 準決勝
京都サンガF.C 対 サンフレッチェ広島
プロアマ問わず日本中のサッカーチームが真の日本一を決める大会の準決勝カードはまさにその名にふさわしい激闘となった。
お互い引かぬ戦いの中、前半40分にPKにより広島が先制し、そのまま後半も逃げ切るかと思われたが、後半34分、途中出場のイスマイラの同点弾により京都が追いつく。
その後もお互い引かず延長に突入し、延長前半5分、広島はベン・カリファが値千金の勝ち越し弾を奪う。
その後も一進一退の攻防が繰り広げられたが、死闘の末、広島がリードして終了の笛を迎えた。
誰もが手に汗握る激闘。
その試合をテレビを見ながら、自分の中で一つの感情が湧き出てきた。
それは、
つまらない。
試合を見ながら尋常じゃない程、退屈に感じていた。
その理由は自分ですぐに理解できた。
自分はそれなりにサッカーを研究してきた自負がある。大学時代一番勉強してきたものは何か問われると迷いなくサッカーと答えるだろう。それほど打ち込んできた。
その中で、サッカーの本質というものを探究し続け、自分が見つけた答えとは「スペース」である。
サッカーのように、ゴールが向かい合い、その向かい合ったゴールをめがけてお互い双方向に攻撃しあうゴール型球技は複数ある。その中でサッカーが一番有しているもの。それはスペース(競技人員の量に対するピッチの広さ)である。これにはバスケットボールもラグビーもハンドボールも勝てないだろう。
このスペースをいかに有効活用するのか、それがサッカーというゲームをクリアする方法になる。
このような広大なスペースは11人では守り切れない。必ず手の届かない場所が生まれる。11人でも守り切れるような範囲に相手を押し込めば話は違うが、基本的には必ずスペースが生まれる構造である。
逆に言えば、攻撃側がピッチを存分に使って守備側が手の届かない場所を作れば必ず試合を支配でき、ゴールの機会は生まれるのだ。
じゃあ何をもってそのスペースを支配するのか、その手段こそが「ボール」と「ポジション」である。いいポジションをとってボールを動かすことによって相手を動かし、動いた相手の届かないところにポジションをとることでゴールまでの道筋を創る。そうやってサッカーというゲームを支配するのだ。
よって自分が出した結論、それはボールを保持するポゼッションサッカーこそが本質であり真理である。というものだ。
そのポゼッションサッカーを実現するためには、選手のポジショニングとボールの循環によるスペースの創出が不可避である。そこをどのように設計、実現するかが、サッカーそのものの原理を探究する道につながるのである。
よって自分がサッカーを研究する際に参考にしてきたのが、敬愛するペップ・グアルディオラ率いるマンチェスターシティを筆頭にした、ポゼッションを軸としたチームである。彼らはポジション移動とボール循環を通してスペースを創出し、幾度も相手ゴールに迫る。そのサッカーを見本として研究に没頭してきたのだ。
その上で今回の京都と広島のスタイルはどうだったのか。
分析の結果(サッカーの試合を分析するのがとてつもなく久しぶりなので自分の分析眼が落ちているのかもしれないが)、DFラインで回しながら前線が飛び出すと相手の裏をめがけてロングボールを放り込み、そのこぼれ球を拾うというものであった。広島の勝因は3バックの空中戦の強さとボランチの水準だったと考える。と同時に前進するためのスペースを創出する動きがほとんど見られなかった。
自分が真理だと思っていたことを一切せず、試合を進めていく。よってこの試合は見どころがない、つまらないという感想が出たのである。
この放送は広島全土で放送されていた為、翌日いろんな人と感想を語っていた。
まずはサッカー部に所属し、クラブチームにも通っている生粋のサンフレッチェサポーターである中学生。話した時の自分の第一声はもちろん「昨日の試合、面白くなかったね」だった。自分の発言に対し彼は、「いやいや面白かったですよ!先生のチームのサッカーのほうが面白くないって!」
やや逆ギレ気味で突っかかってきた。自分は笑って受け流しながら
(まだまだサッカーを理解してないな)
とだけ思い、その場を後にした。
次に先輩教員と話した。実はこの先輩教員、現サガン鳥栖所属のGK朴一圭選手と大学時代を共にし、朴選手と共に大学でレギュラーを張っていて今も食事に行くほどの仲の方なのである。
自分の第一声はもちろん「昨日の天皇杯見ましたか?面白くなかったですね」だった。
先輩教員は延長戦しか見てなかったそうだが笑いながら、「そうかな、昨日の試合はわからないが、イルギュがサンフレはいいチームだと言ってたがな、よく走るし」と言った。
自分は最初意味が分からなかった。
日本の中において最高レベルである、J1に所属しているプロサッカー選手が、あの蹴っ飛ばすサッカーをいいサッカーだと?
なぜそう言うのかわからず、理解するのに必死だった。
そこから夜までずっと考え続けて一つ疑問が浮かんだ。
いいサッカーってなんだ?
この疑問にも自分なりに出した結論がある。それは観ている人を楽しませるサッカーだ。スポーツは観ている人に勇気を与える力を持っている。そのためにスポーツはあるのだ。
じゃあ昨日のサッカーは人を楽しませられなかったのか? いや、違う。 間違いなく広島と京都の人々を熱狂させたに違いない、現に先ほど話をした中学生がそうだ。
じゃあ自分はなぜそれをつまらない思ったのだろうか。
自分が今まで研究し、信じてきたサッカーはもちろんある。
ただそれが足枷となり、その他を無意識にさげすんでいないだろうか。
自分は今小学校サッカー部の指導をしている。部員は8人。少年サッカーをするのに必要最低限の人数である。レベルはとてつもなく低い。ゴールキックをミスキックして相手にコーナーキックを献上してしまうレベルである。
そんなレベルであれば、ポゼッションをするより、できるだけ遠くにボールを蹴っ飛ばして、相手のミスを誘いワンチャンス狙うほうが勝つための手段としては現実的である。
しかし、もちろんそこでも自分の信念に従ってポゼッションサッカーをしている。自分がそんなレベルの子たちでもポゼッションを志向するのには理由が二つある。
一つは、先ほど言ったように、それが真理だと信じているから。それを続けた結果、今は花が咲かずとも将来必ず助けになると信じているからである。
前線の選手は今は足が速いから相手をぶっちぎれるかもしれない。でも成長するにつれ、足の速さは大体同じになってくる。そうするといままで通じていたものが通じなくなる。そうなったときにそれを打破する手段を持ち合わせられないのだ。
ポゼッションをすることで、いやでも全員がボールを触るようになる。すると判断をしなければいけない、この状況に応じて判断をする習慣こそがサッカーで重要なのである。それを小学生年代からやることで間違いなく未来に役立つものとなる。
もう一つは、人間教育のためである。
ボールを蹴っ飛ばすサッカーは確かに勝てる確率は上がるかもしれない。ただ、選手が何も考えなくなるのだ。後ろの選手はボールが来たら単純に蹴っ飛ばすだけでいい。前の選手はボールめがけて走ればいい。そうなると選手に主体性がなくなる。
更にはポゼッションをする際はボール保持者だけが頭を使って考えればいいわけではない。ボールを持ってない人もボールを受けるためにサポートしてあげなければならない。ボールを受けられなくてもサポートのために自分が動くことで他の味方がフリーになるかもしれない。
ポゼッションをするには全員が助け合い、力を合わせなければならないのだ。それを通して、全員で力を合わせること、助け合うことの尊さを知るのである。
そのために自分は、いくら下手なチームでもポゼッションサッカーを志向している。
その結果、試合は散々なものになる。ゴールキックを奪われ失点、失点、失点。とてつもなく不甲斐ない失点が重なる。それは成長のための代償だ。仕方がない。勝敗よりも大事なものがある。
ただ保護者からすればそうはいかない。
不甲斐ない失点が続き、ボコボコにされるわが子を黙って見ていられない。その矛先はもちろん監督に向かう。
「なんであんなやられるのにまだショートパスなの」、「足が速いのがいるんだから蹴っ飛ばせばいいじゃないか」、「子供がかわいそう」…
心が折れそうにもなる。
もちろん感情的になる保護者はほぼいない、そこは感謝している。むしろ穏やかに諭してくる保護者の方が多い。
「俺戦術を考えたんだけどね、大きく蹴るってのはどうかな?」
今までの自分からすると、
(サッカーの本質をわかってないな)
と思い、適当に受け流してきた。受け入れてこなかった。
ただ、受け入れないことは本当に正しい選択だったのだろうか?
いいサッカー、自分の信念を考えるあまり邪魔になっていなかっただろうか、可能性を狭めていなかっただろうか。子供のためと言いながら、勝利という一番経験させてあげなければいけないものを与えていなかったのではないだろうか。
自問自答を繰り返した。
考えた結果、今は結論が出ている。
信念は曲げない。それを失ったら何もかも失う気がするから。自分が膨大な時間を費やしてたどり着いた信じる道なのだ。手放してたまるものか。
でも前とは違う。それを障壁にはしない。すべてを受け入れると、必ず世界が広がる。
信念は必要である。ただし足枷にはするな。
この教訓をあの試合から学んだ。
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