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『匿名』柿原朋哉著

このnoteは柿原朋哉さんの執筆した『匿名』の感想になります。ネタバレありなので、お気をつけて。


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この世界に本名で自分のアカウントを持っている人はどのくらいいるのだろう。

私調べによると大体の人はニックネームであり、それも本名を捩ったものを付けている人が多いように思う。(かく言う私は、自分のニックネームに、本名は一文字も入っていないのだが。)

『匿名』は、正直なところ「柿原朋哉さんが書いたから」と言うよりも《ぶんけいさんが書いたから》買った本だった。

ご本人が本を執筆していると言った時からどんなものであろうと買おうと決めていた。
それは間違いなく《ぶんけいさん》が好きだからだ。

帯に書かれた著名な方々の感想を見て(めっちゃ絶賛されてるな)というのが初めての感想で、初の著書がこんなに褒められることある?という気持ちを抱いてしまった。

しかし読んでみたら理由が分かった。

┈┈┈┈┈以下ネタバレあり┈┈┈┈┈

「越智友香」は死のうとしていた。
そこに聴こえてきた《F》の歌声により、また生きることを決めた。

そして《F》のことを知りたいと思い、自分の本名を由来に《没落》というニックネームでTwitterアカウントを作る。

同じ《F》のファンと出会い《F》のことをもっと知るために、なんならそれを生きがいに生きていく「友香」。

決して姿を現すことなく、しかしアーティストとして人気を得ている《F》。

敏腕なマネージャーと出会い、どんどん自分の活躍する幅を広げていき、《F》として生きる20代の女の子。

過去にあったことも、「町田史歌」からも逃げるようにただただ歌に向き合う。

話を読み進めるうちに段々と(そうなのかもしれない)ということが起こり始めていくので、驚き!というよりも(やっぱり!)という感じがするけども、それでも面白い。

既定路線が分かっていながらも面白いと思って読み進められるのは「柿原朋哉さん」の文才だと思う。

例えば、最近は結構若者向けの「回りくどい言い回し」や「比喩表現の多い」本が多かったりするけど、本書はそれがちょうどいい。

何がちょうどいいのかはよく分からないけど、心地よいペースと「あ、それ分かるわぁ」という共感指数が高い比喩が用いられている。

そして不思議なことに「友香」にしろ《F》にしろ、何故か心当たりのある存在が、現実に居るのだ。
だからこそ、遠いどこかの話ではなく、身近なものとして感じられてしまう。

自分がオタクをしている時、私は「友香」と同じようにニックネームを使うし、実際に自分が好きなアーティストは顔出しをして歌う時は仮面を付けていたりする。
素性も、性別すら公表されていない。

だからこそ、既視感があると思ってしまうのだ。

本書は2人の目線から話が進んでいくのだが、言わばファン目線の話、アーティスト目線の話が味わえる面白さもある。

それはきっと「柿原朋哉さん自身」であり《ぶんけいさん自身》でもあるから書けるものだと思う。

そして読み終えてみて分かるタイトルの面白さ。

『匿名』

今までずっと《ぶんけいさん》として見てきた。今もずっと《ぶんけいさん》として見ているしなんなら《ぶんちゃん》と呼んでいる。

でもこの本を書いたのは「柿原朋哉さん」なのだ。

柿原さん自身が《ぶんけい》という匿名を使い、踊ってみたを通して色んな活動を始め、そしてパオパオチャンネルというYouTubeチャンネルを開設し、私は《ちゃんばぁ》としてそのチャンネルに出会い、色んなファンの人たちと楽しい日々を過ごした。

きっと、この世界ほとんどのみんなが《匿名》で繋がっているのだ。

私は舐めていた。
この文章の冒頭にも書いたように《ぶんけいさんが書いた本》だから買おうと思った。

しかしこの本に詰め込まれているのは「柿原朋哉さん」の世界だった。

《匿名》ではなく「本名」の彼が書いた世界だった。

まだ私が《ぶんけいさん》しか知らなかった頃、この人の頭の中を知りたいと思った。
どんな思考回路でどんな生活をしていればあんな動画が撮れたり、テロップを入れられるのだろうと。
自分自身が映像クリエイターや作家になりたかったからこそ、とても知りたかったのだ。

しかしこの本を通して「柿原朋哉さん」を知った今、まだまだこの人には恐ろしい才能が詰まっているのだと思った。
それはきっと、どれだけ彼のことを知ったとしても足らないのだと思うし、満足はしないと思う。

勿論今まで様々な才能を色んなSNSを通して見てきたけど、本書を通してこの先どんな活動をしていくのか、という楽しみが増えたのだ。

その楽しみは《ぶんけいさん》に対してもそうだし、「柿原朋哉さん」に対してもだ。

《匿名》であるからこそ出会えた《ぶんけいさん》が「本名」である「柿原朋哉」として書いた本書は、きっと《「彼ら」》にしか書けないものだろう。

私は自分の本名が好きだ。
同じ名前の人は沢山いるけど、28年間生きてきて同じ漢字を使う人にはまだ1人しか会ったことがない。

でも私はかれこれ小学1年生が中学を卒業する長さ分《ちゃんばぁ》として生きてきた。

そしてSNSにいる自分が1番自分で居られるから、なんなら私にとっては《ちゃんばぁ》が本名のようなものになってきた。

だからこそ《F》の言葉が沁みる。

もっときちんと「本名」として向き合って生きてみようと。

そしてこの本を通してまた自分のやりたいことをやってみようと思えた。

昔、私の背中を押してくれたのは《ぶんけいさん》だった。

今、私の一歩を踏み出す勇気をくれたのは「柿原朋哉さん」だ。

次の著書が出るまで、私は「越智友香」のように進むことが出来るのだろうか。

《F》のように向き合おうと思えるのだろうか。

不安はあるけど、立ち止まった時はまたこの本を手に取ろう。

時間は待ってくれはしないのだから。

《ちゃんばぁ》/「」

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