アパートの怪談

先日に紹介した昭和の映像を観ていて思い出したのですが、私は小学生まで都内のアパートに住んでおりました。そのアパートは見た目がボロボロで小学生の友人を招いたりするのが苦痛でした。特に当時は学校のクラスの班ごとに分かれて、班の中で順番に相手の家を班のみんなで訪問して遊ぶという決まりがありました。そういう時は、アパートの外壁があまりにもボロ過ぎるので、その分、家の中をきれいにしてゲームとか映画を一緒に観て楽しんでもらった記憶があります。

そのアパートは鉄筋造りで基礎が丈夫なので、今でも残っております。周りは一軒家ばかりで郊外とはいえ東京には変わりがないので、土地や家代も高く、さらに当時はバブルの頃だったので近所には3億円の家が建設されるなど、とても戸建てを買えるような状況ではありませんでした。そしてそのアパートの一番の特徴は、トイレと風呂が外にあったことです。つまり共同のトイレと風呂です。アパートの敷地内に大きめの共同風呂がありました。管理人さんが毎日ボイラーでお湯を沸かしていたのだと思います。

そしてトイレはボットン便所。そのアパートは2階建てで3棟ありました。私は2階に住んでおりました。たぶん小学生になると完全に一人でトイレに行っていたと思います。怖いのは夜でした。一人で家のドアから出て廊下を20メールほど歩き共同トイレに辿り着きます。ハエを取るガムテープの帯が天井からぶら下がった地点を通り抜け、3つある大用の個室に入るのですが、水洗ではなくボットンなので、その穴に落ちないように気をつけます。万が一落ちたら助からないだろうなぁと子供ながら毎日怖がっておりました。

そして風呂に行くときですが、当時仲の良かった悪友が同じアパートの下の階に住んでいたので、よく一緒に風呂に入っておりました。近所ではその子は評判が悪かったので一緒に遊んではいけない事になっていたのですが、実際には頻繁にみんなで遊んでおりました。そいつが夜にこっそり口笛を吹くのを合図に私は家から出て一緒に風呂に入っておりました。風呂の床を滑ったり風呂の中をバシャバシャ泳いだり、結構ふざけてましたね。大人の人が風呂の中にいない時はとても楽しかったです。

そして、ここからが恐怖体験なのですが、私は小さい頃から霊感というものはありませんでした。そちらの分野は好きだったのですが、不思議な体験というものは無かったのです。だが、この時は恐怖体験をしたと思っております。それは共同風呂の中でのことです。この日は悪友が一緒にいなかったので一人で風呂に行くことになりました。一人になるといつも感じていた事なのですが、浴室の壁がシミだらけだったのですが、そのシミが赤ん坊の顔が壁一面に貼りついているように見えていたのです。シミの模様がそう見えたのですね。

毎回、一人で風呂に行くときは嫌だなぁと思っておりました。そしてこの日は恐ろしいことがおきました。いつも通り洗面器とタオルを持ちながら風呂の表のドアを開けると、オギャーオギャーと赤ん坊が泣き叫ぶ声が聞こえました。私は、うわっと驚きました。まさか、赤ん坊の泣き声が風呂の中から?と恐怖しましたが、もしかして近くの家から聞こえているかもしれないと思い、風呂の周りを探ってみたのですが、やはり風呂の中から聞こえていました。

私は恐怖でいったん家に戻り、親に事情を話して一緒に来てほしいと頼んだのですが、何故かその時は親が一緒に見に来てくれませんでした。そして再び風呂に行くとやはり赤ん坊の声が聞こえました。心臓がバクバクし、私は怖すぎて中に入れませんでした。本当に赤ん坊が風呂の中にいるのか、幽霊の声なのか、電気をつけて確かめたい気持ちもあったのですが、電気のスイッチも中に入らないと届かなかったので、断念しました。

あれはいったい何だったのか。その日以降、同じ体験はありませんでした。捨て子が発見されたという知らせもありませんでしたし、同じ体験をしたという人の話もありませんでした。霊感のない自分が心霊体験をしたのだろうかと今でも不思議に思っております。まさに、伊藤三巳華さんの漫画「視えるんです」ならぬ「聞こえるんです」体験をしたのでした(笑)。

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