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桜井画門『THE POOL』精読②

※ページ表記は「good!アフタヌーン 2024年4号」に従い、( )内にKindleの位置No.を追記した。


37ページ(位置No.38)
1コマ目 小屋の中で向き合う警備部シエラチームのメンバーと生存者たち。責任者らしき男性が事情を説明する。小屋内部は狭く、物が乱雑に置かれている。シエラチームと生存者はそれぞれ入口付近、入口奥の壁に立っており、責任者とチーフが一歩前に出ている。二人の間の床には円形のハッチのようなものがあり、その位置はコマの中心でもある。その円形に視線が行くことで両陣営の距離感が自ずと把握される。かれらはそれぞれの陣営に固まり、打ち解けてはいない様子。
2コマ目 チーフの顔のアップ。廃坑道にて“フォフサイト”がまだ採れるかを調査に来たという説明。“フォフサイト”の詳細は不明。何らかの鉱物資源か?
3コマ目 責任者の顔のアップ。調査チームのメンバーが5人いたことが判明する。また彼の視線は2コマ目のチーフが正面を向いていたのとは異なり、右下方に向けられている。
4コマ目 回想場面。坑道内にて作業する調査チーム。責任者、前話冒頭で救助を求めた金髪の男性、怪物に攫われた坊主頭の男性が見える。
5コマ目 責任者と金髪の男性。前者は腰から上が描かれ、後者は顔のみ。手書きの文字による絶叫。

38ページ(位置No.39)
1コマ目 大ゴマ。坑道を捉えた縦構図。前ページ5コマ目の二人の後頭部が映り込む。絶叫が部下の一人だというセリフ。
2〜3コマ目 2コマ目、小屋内部。ポリタンクに腰掛けている黒髪の男性が説明を引き継ぐ。最も近くにいたため、事態を目撃している。3コマ目、顔のアップ、絶叫の主は死亡していたとの報告。
4コマ目 回想。黒髪の男性の主観と思われるショット。暗闇の中の手と足。「足とかよくわからなくなった部分が散らばってて……」というフキダシがコマの中心に配置され、まるでフキダシから手足が生えているかのように見える。暗闇と恐ろしい光景(バラバラ死体)による直視しがたさがフキダシによって表現されている。

39ページ(位置No.40)
1コマ目 大ゴマ。現在時の男性の顔のアップ。怯える表情。思い出すのもおそろしいというような。
2コマ目 回想。坑道内の男性のミディアムショット。
3コマ目 2コマ目の逆構図。男性の背中からナメて坑道奥に黒いシルエット。頭部は見えないが、天井近くにあると思われるほど長身。足と手を広げて直立不動の姿勢。

40ページ(位置No.41)
1コマ目 大ゴマ。前ページ3コマ目の怪物を正面から捉えている。引き続き頭部は暗闇に隠れて見えない。はっきりと人型をしているが、腹部が異様なほど細く、肋骨と骨盤が剥き出しになったようなシルエット。
2〜3コマ目 現在時、小屋内部。2コマ目、黒髪の男と責任者を俯瞰して捉えている。ふたたび責任者が怪物と遭遇後、機材も放置したまま現在いる管理小屋に逃げ込んだらと説明。3コマ目、仰角、天井を映したコマ。徒歩での帰還は自殺行為であることと無線が不通であることが説明される。

41ページ(位置No.42)
1コマ目 チーフの顔のクロースアップ。鼻根が描き込まれ、下唇を軽く噛み締めているかのように口角が下になっている。全体にトーンが貼られ、コマからはみ出す「それ以来ここに軟禁されてる」というフキダシと対照的。説明に違和感を抱いているかのよう。
2〜4コマ目 地下の生物に関する疑問を呈しようとしたリップとそれを制するチーフ。2コマ目、リップの表情は露骨な不信感を表している。3コマ目、リップに振り返るチーフ。「リップ」のフキダシが2コマ目のフキダシに重ねられている。4コマ目、無言のリップ。表情から多少の不満が読み取れる。
5コマ目 生存者に向き直り微笑しながら丁寧に質問するチーフ。背後に顔を背けているリップの姿。コマ上端に切断され表情そのものは見えないが、顎の向きが正面を向いているチーフと対照的。
6コマ目 責任者と金髪の男性。「?」のフキダシが責任者から。チーフの対応を意外に思ったか。
7コマ目 チーフのアップ。調査チームが坑道まで来た移動手段の現状を尋ねる。アップになったことで5コマ目よりもはっきりとした笑顔であることごわかる。1コマ目で描き込まれていた鼻根も省略されており、口角も上がっている。また頭を右に少し傾けていることも下手に出ている印象を与える。リップの反論を受け、より友好的な態度に出たか。

42ページ(位置No.43)
1コマ目 起動するモニター。「TIBERIUS COKE CORPORATION」という企業名と黒髪の少年のマスコットキャラクターが映る。この企業名はチーフらが所属する企業のものだろう。マスコットキャラクターのデザインは『Fallout』シリーズに登場するValut-boyを連想させる。「TIBERIUS」は古代ローマにおける男性名、ローマ帝国第2代皇帝ティベリウス・ユリウス・カエサルのことを指すのが一般的。「COKE」は燃料としてのコークスだろうが、『Fallout』シリーズに登場するヌカ・コーラともかけているのか。

Valut-boy
桜井画門『THE POOL』(「good!アフタヌーン 2024年4号」42頁)

2コマ目 端末を操作する金髪の男性とその隣でモニターを見上げるチーフ。他のメンバーは当初の位置からほぼ動かず。
3コマ目 モニターのアップ。坑道の3Dマップ。入口が2箇所あるだけだと判明。
4〜6コマ目 現在地と調査チームが使用した車両の位置の説明。金髪の男性がモニターを指差しながらチーフに説明する。6コマ目、チーフの横顔のクロースアップ。5コマ目から続く金髪の男性のフキダシがチーフの耳の位置に配置されている。脱出に最も必要な情報に意識が集中していることを視覚的に表現している。

同上


43ページ(位置No.44)
1コマ目 情報を整理するチーフの顔のアップ。コマに縁取られているため右目だけが見える。背景には簡略化した坑道の地図。現在地から車両のある反対側の入り口までのルートが示される。
2コマ目 他のメンバーに振り返るチーフ。ふたたび微笑。カメラは引き、全員がコマ内に映る。
3コマ目 帰還するプランを2種類提案するチーフ。

44ページ(位置No.45)
1〜2コマ目 今いる管理小屋にて救助を待つプランAの説明。1コマ目、小屋の外観。簡易な印象。2コマ目、救助が来る根拠とデメリットの提示。
3〜4コマ目 調査チームの車両で基地まで帰還するプランB。4コマ目、坑道を映すコマに危険生物との遭遇を危惧するチーフのフキダシ。
5コマ目 プランA、Bのどちらが最適か現時点では不明。相談がてら携帯食で栄養補給するように指示するチーフのフキダシ。「ペヤングソースやきそば」がコマの大半を占める。実在企業/商品の登場は前話のReebokに引き続き。
6コマ目 小屋の外に出ようとするチーフら。戸惑いながら立ち上がり声をかける金髪の男性。

45ページ(位置No.46)
1コマ目 チーフら警備部が搭乗していた船の存在を尋ねる金髪の男性。
2コマ目 船は帰還した旨を伝えるチーフ。この時点でも微笑を続けている。友好的な表情と丁寧な態度もこの情報を踏まえてのうえか。生存者からの信頼を最も損ねかねない情報はできるだけ開示しないしたたかさ?
3コマ目 生存者3人のコマ。金髪と黒髪の男性は顔に汗を浮かべ戸惑っているが、責任者の男性の表情は冷静。腰に手を当てていることが察知できる腕の位置も冷静さの現れか。
4コマ目 金髪の男性のクロースアップ。船が帰還したことの気落ちよりわざわざ確認に来てくれたことに驚いている様子。
5コマ目 閉じたドア。
このページに作者近況の柱コメント。「どうにか連載以外で、映画のように「一本作って次」って感じで漫画を描いていくことはできないものだろうか。」。

46ページ(位置No.47)
1〜3コマ目 1コマ目、小屋内部の俯瞰。黒髪の男性が立ち上がり責任者=監督に警備部の来訪による『アレ』の発覚/放置を懸念。2コマ目、前ページとはうってかわり監督の表情にも汗が浮かぶ。また1コマ目の黒髪の男性のフキダシが監督の頭部に重なり、『アレ』についての監督も同様の懸念を抱いていることを視覚的に表現する。3コマ目、2コマ目の半分ほどの大きさ。コマが小さくなることで監督の眼が強調される。視線は金髪の男性に向けられているだろうが、同時に読者にも真っ直ぐぶつかるように描かれている。
4コマ目 監督からの視線を避け、視線を左下に向ける金髪の男性。手書き文字による三点リーダーの小さく線の細いフキダシと監督の「だが」の太線のフキダシの対比。
5〜6コマ目 5コマ目、監督の足。6コマ目、監督の顔のクロースアップ。読者に向かって真っ直ぐな視線は3コマ目と同様だが、顔も正面から描かれることで3コマ目が抱かせた責任転嫁のような態度は払拭される。

桜井画門『THE POOL』(「good!アフタヌーン 2024年4号」46頁)


47ページ(位置No.48)
1コマ目 小屋の外に出た警備部シエラチーム。見開きで見ると46ページとの明暗が対照的。
2〜3コマ目 チーフの対応に不平を述べるリップ。
4コマ目 リップの意見を留保しつつ、考えに集中するチーフ。2コマ目のリップは振り返る動作の途中を描いたもので、顔の向きは読者から左上を向いているように見えるが、このコマのチーフは右下に視線を落としている。
5コマ目 危険生物の存在を否定するリップと意に返さないチーフ、リップの大声に文句を垂れるバイト。2コマ目のリップ、4コマ目のチーフ、5コマ目のバイトの頭部が左上から右下に真っ直ぐ直線的に視線が誘導されるように配置されている。

桜井画門『THE POOL』(「good!アフタヌーン 2024年4号」47頁)


48ページ(位置No.49)
1コマ目 地下の危険生物の存在に対する否定的な見解を具体的に述べるリップ。キャップには「ALASKA」というロゴ。ハーネスにハンティング用と思われるナイフ。また前ページの5コマ目にはナタを収納しているホルスターが確認できる。野生動物に関する知識があり、狙撃用のライフルを装備していることから野生動物管理に従事していたハンターだった可能性。映画ではジョー・カーナハン『ザ・グレイ 凍える太陽』冒頭のリーアム・ニーソンや『ウインド・リバー』のジェレミー・レナー、『ハンター』のウィレム・デフォーがそれに当たる(このなかで本来の意味で野生動物管理に従事しているといえるのはジェレミー・レナーくらいだが)。
2〜3コマ目 リップの訴えの欠点を指摘するバイトの後ろ姿。2コマ目、「地球では」というセリフからここが別の惑星であることが明確に判明。3コマ目、バイトに反論するリップ。カメラ位置は2コマ目と同様。
4コマ目 3コマ目の逆構図。「交尾もまだ」とバイトを見下すリップ。その言葉に反応してリップを振り返るバイト。振り返る動作によって3コマ目で成立していなこった視線の交差が実現している。リップのバイトに対する言葉はセクシャルハラスメントに相当。
5コマ目 バイトのクロースアップ。坑道の構造から野生動物の侵入を否定するバイト。「地下で何かが目覚めたと考えるほうが合理的だね」というセリフはSF的な設定を考えるとそこまで飛躍した結論ではないと思われる。地下に元々いた何かというのはタイトルにもかかっているか。

49ページ(位置No.50)
1コマ目 「大人げないぞ」とリップを批判するタイ。タイにのっかるバイトのデフォルメされた口。「大人げない」というセリフからバイトの年齢は体格に見合ってかなり若いと思われる。
2コマ目 バイトを「弱い動物」と言い放つタイ。タイを睨みつけるようなバイトの表情は1コマ目と比較すると詳細に描き込まれている。
3コマ目 バイトの肩ナメでタイを見上げるショット。バイトはタイの発言の問題点を指摘するが、タイは自身の発言を問題だとは思っていない様子。
4コマ目 「法務部に訴えるからな」と言うバイトと問題点が理解できず戸惑うタイ。バイトからしたら童貞と揶揄われるよりも弱いと言われることが気に障るようだ。コマはその様子を笑うリップの全身がほとんどを占める。リップの表情は簡略され、デフォルメされた口元が1コマ目のバイトとよく似ている。

50ページ(位置No.51)
1コマ目 リップの頭ナメでタイとバイトを映す。リップの揶揄の対象がバイトからタイに移る。「ビビってんだから」という揶揄に反応するタイ。
2コマ目 1コマ目からの切り返し。タイの頭ナメでリップのミディアム・ショット。1コマ目のタイと同じサイズ。タイを挑発するリップ。
3コマ目 挑発に反応したタイのセリフを受けてボルトアクションを操作するリップ。2コマ目からの連鎖は映画におけるアクションつなぎを彷彿とさせる。テンポの良いコマの連鎖とリップの「OK!」という返事、それとバイトのツッコミが笑いを誘う。リップの返事は『コマンドー』吹き替え版オマージュ(原語版は“Right?”に対して“Wrong!”と返答する)?

桜井画門『THE POOL』(「good!アフタヌーン 2024年4号」50頁)

吹き替え版

原語版

51ページ(位置No.52)
1コマ目 タイの横顔のクロースアップ。見開かれた眼が印象的。リップの巫山戯た態度の裏を見透かしたかのようなセリフ。
2コマ目 リップの怒りに満ちた眼元のクロースアップ。
3〜5コマ目 リップ、タイ、バイトの顔のアップが同サイズの縦長のコマで描かれる。一触即発の雰囲気。中央のタイの見下ろす視線が3人の身長差を示唆する。またリップのキャップのつば、バイトの顔の傾きが二人の身長差も表す。
6コマ目 向き合う3人の足元越しにチーフの後ろ姿。

52ページ(位置No.53)
1コマ目 「うるせえ…」と眉間に皺を寄せて苛立つ表情のチーフのクロースアップ。背景の3人はメキシカン・スタンドオフの構図。
2コマ目 チーフの声に反応する三人。メキシカン・スタンドオフの構図がより明確に。

メキシカン・スタンドオフの例(セルジオ・レオーネ『続・夕陽のガンマン』)
桜井画門『THE POOL』(「good!アフタヌーン 2024年4号」51頁)

3コマ目 2コマ目の逆構図。チーフも生存者の説明に疑問点があることがわかる。
4コマ目 チーフのバストショット。3コマ目のセリフを踏まえたうえで疑問点をスルーするように指示。

53ページ(位置No.54)
1〜3コマ目 1コマ目、チーフらが進入した入口の外観。「ザッザッ」という足音を表すと思われるオノマトペ。2コマ目、1コマ目より近い位置からの入口の外観。引き続き「ザッザッ」のオノマトペ。1〜2コマ目は入口に近づく存在の視点ショットと思われる。3コマ目、入口に近づく存在の脚。二本の足指のあいだに水かきが認められる。
4〜5コマ目 4コマ目、チーフの横顔。救助を待つプランAを提案するチーフ。5コマ目、フキダシのみのコマ。

54ページ(位置No.55)
1コマ目 大ゴマ。入口のドアに何かがぶつかる様子が描かれる。
2〜4コマ目 2コマ目、驚くチーフ。3コマ目、銃を構えるバイトとタイを側面から捉える。4コマ目、リップの正面バストショット。音の大きさから衝突した物体の重量を推察(「200ポンドはあるな」200ポンドは約90キロ)。ライフルの銃床を肩に当てているが、バイトやタイと違い銃口はドアに向けていないと思われる。ローレディポジションか?
5コマ目 ドアにぶつかる何か。

55ページ(位置No.56)
1コマ目 大ゴマ。衝突音の増加に加え吠え声も聞こえてくる。
2コマ目 リップの目元のクロースアップ。冷静にドア外の存在の数を推測。
3〜4コマ目 3コマ目、衝突によって膨らむドア。4コマ目、すぐ横を通過するネジを視線だけで追うバイト。弾き飛ばされたネジの軌道がコマ間を貫通するホワイトによる運動をあらわす線分によって視覚化されている。

桜井画門『THE POOL』(「good!アフタヌーン 2024年4号」55頁)

56ページ(位置No.57)
1コマ目 チーフの後頭部越しにバイトが見える。バイトの背後にタイ。バイトが銃口を少し下げているのに対し、タイは銃口をドアに向けたまま維持している。リップのライフルもかすかに見え、床に向けられている。チーフの「待つんだよね!? バイト!」と言うセリフ、「持つんだよね」の誤植だろうか。
2コマ目 バイトの横顔のアップ。ゲートは酸化が著しいと報告。外の間欠泉が酸性質だっただろうとの推察。
3コマ目 チーフの見開かれた目元のクロースアップ。こめかみの辺りにバイトの「(ゲートを)破られるね」というフキダシが重なり、対応の即決を迫られている印象。
4コマ目 管理小屋へ突入する視点ショット。小屋内の三人の視線とぶつかる。

57ページ(位置No.58)
1コマ目 小屋に突入してくる警備部シエラチーム。バイトに外の様子をモニターに映すよう指示するチーフ。監督が音の正体を聞く。
2コマ目 チーフのクロースアップ。監督に外から動物が襲来していることを手早く伝える。頭部の上に集中線が描かれ、視線と合わせて動作しながらの返答であることがわかる。
3コマ目 椅子に座りモニターを操作するバイト、その左隣にチーフ、コマの左に近づくような姿勢の金髪の男性。監督らしき人物の身体がコマの左端を覆っているため、遠近感による位置関係から金髪の男性の身体の傾きにモニターに近づこうとする動きが見出せる。
4コマ目 ゲート外の映像。無数の狼のような動物のシルエット。
5コマ目 映像を見るチーフの顔のアップ。カメラの故障でピントが合わないことがバイトと金髪の男性との会話から伝わる。
6コマ目 ゲートすぐ前にいる動物へのズーム。より狼らしきシルエットが確認できる。
7コマ目 監督の顔のアップ。「奴らか!」と6コマ目を受けてのリアクション。

58ページ(位置No.59)
1コマ目 監督に振り返るチーフ。「前にも?」というチーフの質問を受けて監督は「外を10匹・・くらいでうろついたり遠吠えしたりしてる」と答える。
2コマ目 監督の顔のアップ。「こんなことは初めてだ」と戸惑いの表情。
3コマ目 金髪の男性がチーフに耳打ちして野生動物の数を「23匹・・・です…正確には」と訂正する。この男性の信頼が監督からチーフに移りつつあることが示唆され、チーフもまたそのことを察知する。
4コマ目 チーフの横顔のクロースアップ。
5コマ目 監督の後頭部越しにチーフらとモニター。「なぜ急に入ってこようとしている!?」と焦る監督に対し、冷静に自分たちが入るところを目撃したからだと返答するチーフ。
6コマ目 チーフの後頭部(右側)。

59ページ(位置No.60)
1コマ目 チーフの返答に否定的な黒髪の男性。その反応に対して「何言ってんだ」のフキダシ。
2コマ目 リップの顔のアップ。1コマ目のセリフはリップのものだったと判明。「オオカミやリオカンの組織的な狩りは人間と遜色ないぜ?」とリップの野生動物に対する知識の豊富さについてここでも描写される。
3コマ目 モニター正面に立つチーフの背中。野生動物の襲来に対してなぜ森の獲物ではなく自分たちなのかというおそらくは監督の物言いに対し、はぐらかすリップ。この事態は46頁で言及された『アレ』が関連しているのか?
4コマ目 ふたたびチーフの背中。3コマ目よりズームアップし、肩から上だけが映る。コマが狭くなったことで「ガンガン」というオノマトペがより大きくなり、事態の切迫感が伝わる。

60ページ(位置No.61)
1コマ目 大ゴマ。振り返り微笑しながら「プランⒷにしませんか?」と提案するチーフ。
2コマ目 モニターに映すゲート外の様子。野生動物が集結しつつある。救助を待つ時間は無くなったと説明し、素早い出発を促すチーフ。
3コマ目 黒髪の男性の横顔。野生動物を射殺すればと尋ねる。
4コマ目 チーフの目元のクロースアップ。「無理です」端的かつ有無を言わせない態度で射殺案を否定する。

61ページ(位置No.62)
1〜2コマ目 チーフの背中越しに小屋内部を捉えたショット。銃による野生動物の駆除が想像以上な困難であることを丹念に説明するかのようにズームアップ的なコマの連鎖で2コマ目はチーフの後頭部にカメラが接近している。
3〜5コマ目 野生動物の群れの侵入後をシュミレートするかのようなコマ運び。3コマ目、建物内からゲートを描いたコマ。群れの侵入を許すと簡易的な建屋はすぐに破壊されるとの説明。4コマ目、チーフの手のアップ。トリガーにかからず真っ直ぐな人差し指。5コマ目、何も描かれていない白いコマにチーフのフキダシ。「でもそこで終わり」のセリフと白いコマが死の暗喩になる。

62ページ(位置No.63)
1コマ目 チーフのフルショット。背景の左に坑道の怪物、右にゲート外の群れが浮かび、チーフのセリフが板挟みの状況を説明する。
2〜4コマ目 2コマ目、黒髪の男性の怯える表情。3コマ目、監督の顔に出さないようにしているが焦りが見える表情。4コマ目、決断を迫るようなチーフの右眼クロースアップ。真っ直ぐ読者に向けられる視線は46頁における監督の視線と対比することができる。これらのコマの一連のチーフのセリフは、たとえば3コマ目の「23匹の群れ」と「坑道の一匹」と数を対比させたうえで、4コマ目の「戦うならどちらか」と選択を迫る。選択肢を与えたように装いながら答えを誘導するチーフの話術は前ページの野生動物の射殺の難しさを詳細に説明することによって「坑道の一匹」の危険性をぼかすところから始まっている。
5コマ目 監督の顔のクロースアップ。正面からのクロースアップによって監督が腹を括ったことがわかる。
6コマ目 チーフの右眼のクロースアップ。4コマ目よりさらに接近して描かれ、眼球のみがコマを占める。チーフの思惑どおりに進んだと判断してよいか。

63ページ(位置No.64)
1コマ目 小屋から飛び出し部下にも出発を促す監督。二人の部下は監督を追うように動作を始めている。一方、チーフら警備部シエラチームのメンバーはその様子を見守るくらいで小屋から出ようとする様子は見受けられない。
2コマ目 チーフの横顔。肩越しにバイトの顔。チーフはバイトに坑道の地図を表示するように指示する。その顔に汗が浮かび、切迫感が表れている。生存者を脱出に促したのはこのためか。
3コマ目 モニターに映る坑道の地図。チーフが表示されたエレベーターを指差す。
4コマ目 エレベーターの仕様を確認するバイト。地上に出るためではなく地下に降りるためだが、データはチーフに転送される。
5コマ目 エレベーターのデータを転送しつつ、生存者への疑念をチーフに伝えるバイト。産業スパイの可能性を告げる。
6コマ目 チーフの足元。バイトに同意するチーフ。
7コマ目 モニターを見上げているであろうチーフの横顔。バイトの疑念を受け、道中で探りを入れることを伝える。6コマ目からのコマ運びは46ページ5〜6コマ目における監督のそれと相似している。『アレ』を隠蔽しようとする調査チームの生存者たちと隠蔽の気配を感じ取りそれを明らかにしようとする警備部シエラチームとの駆け引きの開始がここで宣告される。

64ページ(位置No.65)
1コマ目 大ゴマ。小屋に振り返る金髪の男性のフルショット。チーフのセリフが絵に重なり、捜査の最初のターゲットが決められる。
2コマ目 チーフの目元のクロースアップ。金髪の男性が助けを呼んだことを正確に推測する。
3コマ目 小屋から出るチーフの足元。

65ページ(位置No.66)
1コマ目 大ゴマ。小屋から出るチーフが生存者に駆け寄る様子を坑道側から捉えたショット。バイトが後に続き、リップとタイは警護のため先んじて生存者に同行していたことがわかる。
2コマ目 チーフとバイトのバストショット。「このゲートは一時間持つと/うちのメカニックが言ってます」とのチーフの説明に「え/え!?」と背後でリアクションするバイト。二人の顔は軽くデフォルメされ、ギャグ的な雰囲気。嘘と責任転嫁をサラッと口にするチーフとわずかながら抵抗を示すバイトの関係は46頁の責任感を示しつつ独裁的でもある監督の態度と対比できるか。
3コマ目 チーフの説明を受けて安堵した様子の黒髪の男性と監督。前者に比べれば後者はあまり表情に出てはいない。

66ページ(位置No.67)
1〜4コマ目 坑道に降りていく一行。カメラは人間に先んじてズームアップするかのように坑道の闇の中に入っていく。このカメラワークは前話における小屋に入っていくチーフらを捉えた坑道内のカメラの後退運動と見事に対比される(「good!アフタヌーン 2024年3月号37頁を参照)。後退と前進が話を跨いで対比されることで、Ep.03における「坑道の一匹」との遭遇を予告するサスペンスとして機能する。

以下次号。


天井まで届くであろう「坑道の一匹」の垂直的な姿勢はEp.01の帰投するティリオン号、噴射する酸性の間欠泉に連なる垂直/上昇のモチーフとしてチーフらの生存を脅かすものとして機能する(「坑道の一匹」と人間との体格差は、警備部と調査チームを含めて最も長身のタイとの比較によってさらに明確になるだろう)。これに対比されるであろうエレベーターの垂直/降下がどのように作用するかは以降のエピソード次第。またEp.02ではこの「一匹」に対比される「群れ」の主題も浮上する。ゲートを破ろうとする野生動物の群れが人間と遜色無い組織性を持っているのに対し、チーフ率いる警備部シエラチームと監督が責任者である調査チームの生存者がひとつの「群れ」として組織化できるかがEp.03以降の主題になるだろう。この二つの「群れ」それぞれのリーダーもこのエピソードでは対比的に描かれる。監督は部下である金髪の男性を叱責しつつ、責任を追う旨の発言をするが具体的なビジョンや指示は出さない(「俺がなんとかする」というセリフは象徴的だ。無責任という印象を払拭しつつもそこに具体性はない)。チーフは部下三人の疑念や諍いを抑えつつ、部下の生存者に対する疑念を汲んだ上で指示を出す(メキシカン・スタンドオフに象徴される典型的な男らしさの対立は女性であるチーフによって解消される)。このような対比は60頁以降の展開にて「群れ」の主導権をめぐる駆け引きとして前景化し始める。野生動物の群れの襲来に際し、チーフは事実を説明しながら坑道からの脱出に生存者を誘導する。この誘導は、58頁における監督の野生動物の数の把握の不十分さと金髪の男性からの訂正の耳打ちによって、彼が監督からの心理的に離反しつつあることを察知したことによるものと思われる。Ep.03以降、この金額の男性をめぐる駆け引きが主にチーフと監督のあいだで行われるだろう。その駆け引きの結果、二つの陣営が一つの「群れ」として組織化できるか、組織化できたとして「坑道の一匹」を駆除できる「群れ」として機能できるかどうかが以降のエピソードをつらぬくサスペンスとなるだろう。

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