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桜井画門『THE POOL』精読①

※ページ表記は「good!アフタヌーン 2024年3号」に従い、( )内にKindleの位置No.を追記した。

表紙
赤い髪のベリーショートの女性がアサルトライフルを構えている姿を正面から描いている。右肩に所属を証明しているのかロゴの書かれたワッペンが貼り付けられている。ちなみにこの表紙イラストの構図は桜井画門がX(旧Twitter)に2015年10月31日に投稿されたイラストと酷似している。桜井はこのイラストをアイコンに使用している。

「good!アフタヌーン 2024年3号」表紙
桜井画門X(旧Twitter)のアカウントより。2015年10月31日に投稿されたイラスト。


3ページ(位置No.4)
カラーページ。黒地に白文字で「20年前/地球の軌道上に突如/安定したワームホールが出現した。」(/は改行を表す)と説明される。クリストファー・ノーラン『インターステラー』を彷彿とさせる設定。

4ページ(位置No.5)
1コマ目 トンネル内を走る二人の人物。手描きの文字による呼吸音。カメラはローアングルで画面は右に傾き、画面奥の暗闇と左手前の後ろを走る人物が履いているReebokのスニーカーがコマ内の配置とサイズで対比され、奥行と疾走感を生み出している。手前を走る人物の作業用つなぎの背面に表紙の女性のワッペンと同じデザインのロゴが印刷されている。またトンネルという空間は3ページで説明された「ワームホール」という設定と通じる。
2コマ目 コマほとんどを覆うのは手前を走る白人と思われる男性。金髪、黒い眉、無精髭が見える。コマの左側に背後を走る坊主頭の男性。左頬にタトゥーが確認できる。後者の吹き出しのセリフと同じ服装からこの二人は同じ現場で働く先輩後輩の関係だとわかる。
3コマ目 発炎筒を握る右手のアップ。手描き文字の呼吸音。1コマ目のスニーカー(の裏側)と2コマ目の金髪の男性の表情と吹き出し、そして発炎筒はどれも左側に配置されている。上から下へ視線を誘導することを目的としていると思われる。
4コマ目 階段。前方を走る金髪の男性の視点ショット。画面奥の階段に向かって集中線が描かれ、疾走感と奥行の強調。

5ページ(位置No.6)
1コマ目 前方を走っていた金髪の男性が階段を上る姿が背面から描かれる。右手には4ページ3コマ目に描かれていた発炎筒。ガタンというオノマトペは大きく描かれ、線は直線的。前ページで描き込まれていた集中線がこのコマには見られず、見開きによって運動とそれの中断が対比によって強調される。また4ページ4コマ目から視線を上げるとこのコマへ連結されることを考えると、読者の視線の運動と劇中の人物の運動が一致しているといえる。
2コマ目 音に反応し振り返る男性の横顔のクロースアップ。恐怖のためか顔に汗が滲んでいる。セリフの吹き出し、オノマトペ、背景にあるはずの階段が描かれていない。サスペンスとしてのコマ=時間。
3コマ目 後ろを走っていた坊主頭の男性が階段の下部で這いつくばっている。とっさに転倒を防ぐために右手は手摺を掴み、左手を踏段についている。左手の甲に十字架と三つの斑点のタトゥー。男性の頭部と肩を掴む長いかぎ爪。腕は細長く指も二本しかない。暗闇に隠れ腕の持ち主の全体像は不明。

6ページ(位置No.7)
1コマ目 かぎ爪に捕らわれた男性の大ゴマ。表情は恐怖というより困惑。まだ事態を把握できていないかのように思える。左かぎ爪が額と喉元に食い込んで血が流れている。顔のタトゥーがより詳細に描かれ、首元には茎まで彫り込まれた薔薇の花のタトゥーも確認できる。
2〜3コマ目 左手を伸ばす金髪の男性。右手は手摺を掴んでいる。集中線がふたたび描かれる。「手を!!」の吹き出しがコマの間をまたぐ。3コマ目は握られた両者の手のアップ。十字架のタトゥーの詳細がわかる。斑点に見えたものは逆三角形。「グッ」のオノマトペ。手の輪郭の線にはブレがあり、強く握られたことを示す。

7ページ(位置No.8)
1コマ目 大ゴマ。トンネル奥部に引き摺り込まれる坊主頭の男性。画面手前には後輩の手を握っていたはずの金髪の男性の背中がコマ下部のほとんどを覆う。画面中央にはさっきまで後輩の手を掴んでいた手が空を掴むでいる。暗闇に引き摺り込まれる坊主頭の男性はほとんど宙に浮いているかのよう。トンネルの奥は真っ暗闇でかぎ爪の持ち主の姿は視認できない。「グンッ」のオノマトペは巨大でコマ全体を横断するほど。もっとも大きい「グ」の文字はコマを飛び出し、「ン」の字は「ニ」と読めるほど並行に並んでいる。また5ページ3コマ目でわずかに確認できた細長い腕部も暗闇で見えず、あらためてかぎ爪の持ち主の異様さが想像される。
2コマ目 呆然とする金髪の男性の顔。脂汗が滲んでいる。
3コマ目 震える手とトンネルの暗闇。縦構図。手描き文字で暗闇に引き摺り込まれた男性の叫び声。トンネル天井の湾曲をなぞるように吹き出しが配置され、コマの中央に向かうに従って吹き出しのサイズが縮小している。
4〜5コマ目 「すまない…」と謝罪する男性。視線はトンネルの奥から右側に移っている。視線の先には階段の行き先を告げるピクトグラム。プロペラの絵と「VENT」の文字から階段の先は通風口に続いているとわかる。

8ページ(位置No.9)
1〜3コマ目 梯子を昇る男性の姿。3コマ目で外部につながるであろう開口部と思しき横長の穴が確認できる。
4〜6コマ目 開口部に視線を合わせる男性のクロースアップ。開口部から差し込む光線が男性の目元に当たる。5コマ目で男性の視点ショット。飛行機と思しきシルエット。6コマ目。4コマ目からさらにクロースアップされた目元。飛び出しているかのように見開かれた眼と手描きの呼吸音の大きさが男性の興奮を表す。

9ページ(位置No.10)
1〜4コマ目 発炎筒を開口部から外部に突き出す様子が描かれる。4コマ目、閉じられた瞼のクロースアップ、「助けて」の吹き出しが切実さを示し、予告の段階で予想されていたリドリー・スコット『エイリアン』またはマリオ・バーヴァ『バンパイアの惑星』のトラップとしての救難信号とは異なる印象を与える。

10ページ(位置No.11)
1〜4コマ目 1コマ目の突き出された発炎筒と手のアップから徐々にカメラが上昇し遠のいていく空撮を思わせるコマの連鎖。桜井画門にはこのようなカメラワークがよく見られる(『亜人』FILE:42のラストなど。なおこのページは単行本にて追加されたものである)。2コマ目、屋根に「D」の字がみえる。3コマ目まで描かれていた煙は4コマ目で見えなくなる。

桜井画門『亜人』FILE:42


11ページ(位置No.12)
1コマ目 コマからはみ出す「カンッ」のオノマトペ。とくに「カ」の字が巨大に描かれる。「ン」の字が7ページ1コマ目と同様「ニ」のように見える。この音に反応した金髪の男性が音がした梯子の下部を見下ろす。見開かれた眼。
2コマ目 通気口のプロペラの位置から俯瞰した縦構図(プロペラは描かれず)。梯子の下を見る男性の後頭部、梯子、四角い通気口に縁取られた暗闇。坊主頭の男性が引き摺り込まれたトンネルと類似。
3〜5コマ目 梯子の最上部にいる男性に急激に接近するカメラワーク。集中線がコマを経るごとに濃く、強く、増えていく。「カン」のオノマトペは計五つ。5コマ目、瞳のクロースアップ。集中線は四方から瞳を取り囲むように描かれている。「カン」のオノマトペはコマからはみ出す。

12〜13ページ(位置No.13〜14)
見開きカラーページ。作者名、作品タイトル、エピソードタイトル(あるいは編集者によるアオリ)がみえる。「Danger Outside./Danger Inside./They Are Coming!」という言葉は今後の展開を予告したものと思われる。またこの見開きは2024年1月3日に桜井が自身のX(旧Twitter)アカウントに投稿した『THE POOL』の連載を予告するポストに添付されたイラストを採用したものだが、人物の配置や背景に変更が確認できる。赤色の髪の女性の隣に額に傷のある老齢の男性が描かれいるが、配置やサイズから予想すると表紙を飾った女性に準ずる活躍が用意されているのかもしれない。

桜井画門『THE POOL』Ep.1(「good!アフタヌーン 2024年3号」)より
桜井画門X(旧Twitter)アカウントより


14ページ(位置No.15)
1コマ目 丸窓とエンジン音らしきオノマトペ。「ようやく休暇だぜ」の吹き出し。窓から見える景色から飛行機の内部と思われる。
2〜3コマ目 金髪の男性。比較的若く容姿も洗練されている。おそらく白人。1コマ目の吹き出しはこの人物だと発言の内容からわかる。「基地」という語がこの人物の所属を匂わせる。左肩のロゴ付きワッペンは表紙の女性、トンネルを走る男性のつなぎと同様のデザイン。3コマ目、黒髪の人物、男性、ヘッドセットを装着している。金髪の男性よりも若く少年のように見える。反抗的な態度。睨めあげるような視線はそのまま二人の体格差を表現している。2コマ目と3コマ目は向き合うように配置され、1コマ目から描かれている「ゴオオオ…」のオノマトペが二人が同一空間に居ることを示す。
4コマ目 カメラは金髪の男性の背後に。内部の様子が詳しく描かれる。金髪の男性は肩にライフルを乗せている。黒髪の少年の全身が肩なめで示される。かなり重装備。「童貞」という言葉に動揺している。ひとり席をあけたところに三人目の人物。かなりの巨躯。老人。腕を組み、顔を俯け、会話に参加するようすはない。コマの右端に四人目の人物の膝が見える。
5コマ目 老人の顔のクロースアップ。口髭と額に大きな傷跡が見える。「くだらん」と二人の会話を切り捨てているが、眼が見開かれていて異様な印象を与える。

15ページ(位置No.16)
1コマ目 縦構図。前ページの三人に加え表紙の女性が画面奥に座っている。冊子のようなものを読んでいる。輸送機の貨物室のような空間。
2〜3コマ目 女性の顔のアップ。視線を手元の冊子に落としている。3コマ目は視点ショットで冊子が写る。普通の冊子のようにみえるが、頁の上部にタブレット端末のようなバッテリー表示やその他アイコンが見える。
4コマ目 14ページ1コマ目と同じ丸窓が女性の顔下半分越しに映る。
5コマ目 横長のコマ。見開かれた右目のクロースアップ。コマの右端からホワイトで描かれた集中線が光線のように眼球まで届いている。

16ページ(位置No.17)
1〜2コマ目 丸窓の方を見る女性。2コマ目では窓枠が廃されガラス越しに見つめていることをあらわすかのように風景が掠れている。とくに異変はみられない。
3コマ目 15ページ1コマ目と同じ構図。貨物室後部からの縦構図だが、カメラ位置はローポジション。三人は足のみ映り、窓の方(右側)に身を乗り出している女性の上半身が目立つ。右足には体重がかけられ、左足は大きく開かれている。重心がどこにあるのか一目でわかる。
4〜6コマ目 4コマ目、女性の横顔のクロースアップ。窓の外に光るものを見たという。5コマ目、金髪の男性が女性の肩なめに映ることから彼女が立ち上がっていることがわかる。6コマ目、ヘッドセットの黒髪の少年の肩なめで女性の姿。窓から振り返っている。

17ページ(位置No.18)
1〜3コマ目 操縦席とモニター越しに会話する女性。何かを見つけた方向に施設があるか尋ねている。
4コマ目 横長のコマ。貨物室の四人全員の姿がみえる。操縦席からの音声を示す二重線の吹き出しが四人を挟み込むように配置されている。このような配置はこの音声が四人全員に聞こえていることを示すだろう。内容は質問への回答。小規模な採掘場があるが一年以上前に放棄されていると告げる。
5〜6コマ目 採掘場付近で活動中の職員がいるか基地に確認を頼む女性。6コマ目、操縦席からの返答は電磁界異常による通信不可。
7コマ目 身体を捻り窓の外に目を向ける黒髪の少年。異変を発見できない様子。金髪の男性は背凭れに背中を預けたままの姿勢で上半身はコマ外。訝しげな態度。

18ページ(位置No.19)
1コマ目 思案するような女性の顔。
2〜3コマ目 操縦席からの通信。
4〜6コマ目 4コマ目、カメラは180°回り込み女性の背中。採掘場に向かう場合、機体は隊を残し帰投する旨。5コマ目、「戻っては来ない」の吹き出しがモニター上の顔に重なる。口だけが見える。コマ、二十戦の吹き出し、口という類似した形象がいくつも内包され最後の忠告を視覚化している。6コマ目、女性の顔のアップ。

桜井画門『THE POOL』18ページ5〜6コマ


19ページ(位置No.20)
1コマ目 メンバーに向き直り、希望を尋ねる女性。
2〜4コマ目 各メンバーの名称が判明。金髪の男性が「リップ」、黒髪の少年が「バイト」、老齢の男性が「タイ」。「」でくくられているためおそらくコードネーム。「リップ」と「タイ」は採掘場に行くことに反対。ここで任務明けのため弾薬が少ないこと、基地まで50キロ離れていることが判明する。「タイ」は賛成でも反対でもなく「運命のままに」という抽象的な答え。
5コマ目 腕組みする「タイ」がコマの中心に。4コマ目の「タイ」の返答にドン引きする「リップ」と「バイト」。前者は後者をからかい、後者はそれに苛立っていたが、ここでは二人の反応は一致している。
6コマ目 各々の返答を踏まえ女性に最終的な判断を尋ねる「リップ」。

20ページ(位置No.20)
1コマ目 女性の名称が判明。これまでのやりとりや名前が「チーフ」であることからこの小隊のリーダーであることがわかる。
2コマ目 「チーフ」のバストショット。
3コマ目 横長のコマ。安堵した表情「リップ」と「バイト」の顔が左右対称的に描かれる。「バイト」の奥に無表情の「タイ」。
4コマ目 「チーフ」のクロースアップ。平然と「降下準備」と言い放つ。1、2、4コマ目とポン寄り的に「チーフ」の顔に接近するカメラ。「チーフ」の表情は変化に乏しく3コマ目の「リップ」と「バイト」の簡略的な笑顔との対比で4コマ目の平然と言い放たれる「降下準備」にユーモアが生じる。

桜井画門『THE  POOL』20ページ

21ページ(位置No.22)
1コマ目 床に落ちた発炎筒。
2コマ目 縦構図。採掘場のトンネル。床に倒れる人物と襟を掴む人物。
3コマ目 襟を掴んでいる男の顔。中年。上で何をしていたのかと詰問している。
4コマ目 金髪の男性。外の映像に機影を認めたちめ救助を要請したと説明。その吹き出しに重なるような「バカ野郎!!」という罵り。
5コマ目 中年男性の目元のアップ。脂汗、表情は苦悶。「全てを無駄にする気か?」というセリフ。救助を呼ぶことに消極的な様子。

22ページ(位置No.23)
1コマ目 降下する人物の主観ショット。円形の空き地が中央にあり周囲は森に囲まれている。
2コマ目 降下装置のフックが外れる描写。
3コマ目 着地する四人。「バイト」のみまだ中空。「タイ」の着地音のオノマトペが他の二人より大きく線も太い。重量差の描写。
4コマ目 「チーフ」の正面クロースアップ。ライフルを構え、照準器に右目をあわせている。

23ページ(位置No.24)
1コマ目 銃を構え周囲を警戒する「チーフ」らのフルショット。カメラ位置は22ページ4コマ目から左に90°動き「バイト」を正面に捉える。「バイト」は着地したばかりで銃を構えていない。
2〜4コマ目 「リップ」、「タイ」、「バイト」の顔のアップ。
5コマ目 銃を構える「チーフ」のアップ。「11時」と警戒を促す。
6コマ目 主観ショット。ライフルのサイト越しに生き物のシルエット。

24ページ(位置No.25)
1コマ目 大ゴマ。異様な姿の生物。大型犬くらいのサイズ。頭部が長くキリンの首のようだが、頭頂付近まで口と思しき裂け目があり、そこから触手のような管が伸びている。頭部の側面には縦に等間隔に並んだ穴がある。
2コマ目 サイト越しの「チーフ」の右目のクローズアップ。
3コマ目 生物の頭部のアップ。

25ページ(位置No.26)
1コマ目 走り去る生物。
2コマ目 「チーフ」のアップ。安全を確認し「クリア」と言う。
3コマ目 上空の輸送機を仰角で捉えたショット。帰投する旨を伝える連絡。輸送機のシルエットはSF的。
4〜6コマ目 輸送機を見送りながら「チーフ」に皮肉を言う「リップ」。5コマ目、「リップ」の横顔とキャップ。6コマ目、皮肉をこぼしつつキャップを被る「リップ」の背中。クロースアップからミディアムショットへのアクションつなぎ的なコマの連結。キャップを被りながら不平を言うことによってむしろ「チーフ」への信頼感がみえる。

26ページ(位置No.27)
1コマ目 バツの悪い表情の「チーフ」。
2〜5コマ目 採掘者へ向け森を進む一行。5コマ目、木の幹に深く刻まれた爪痕のアップ。

27ページ(位置No.28)
1〜4コマ目 引き続き森の中を進む「チーフ」ら。2コマ目、複数の木の幹に傷が刻み込まれている。26ページ5コマ目の傷と同様のもの。24ページに登場した生物の脚部に爪はなく、別の生物の存在を示唆する。4コマ目、四人のバストショット。歩行を止め何かを見つめている様子。

28ページ(位置No.29)
1コマ目 廃墟のような建物を見つめる「チーフ」の後ろ姿。ドアの上に「D4」の文字。建物の周囲も荒廃し、廃棄物が多数放置されている。
2コマ目 「リップ」ら三人のリアクション。ここでも「リップ」と「バイト」は似たような困惑の表情を浮かべている。「タイ」の反応は薄い。
3コマ目 間欠泉が吹き出している。間欠泉を見つめる「バイト」。「リップ」は「チーフ」がみた光は間欠泉の反射ではないかと疑う。

29ページ(位置No.30)
1コマ目 ドアのフルショット。
2コマ目 ドアの前の「チーフ」と「バイト」。「チーフ」は「バイト」にドアの状態を尋ねる。
3コマ目 「バイト」の顔をアオリで映す。背後に「リップ」と「タイ」の背中。位置的に「バイト」がしゃがみドアを点検している。「バイト」は所見を述べ、「リップ」は「オタク」と揶揄う。「リップ」に即座に罵り返し、「5分もあれび手動で開閉できるよ」と技術的な問題はないと「バイト」は判断する。『亜人』の奥山に相当するキャラクターか。「施設の稼働時なら俺らのIDで開くけど……」というセリフがかれらと施設が同じ組織に属することを示す。
4コマ目 「チーフ」の「その必要はなさそう」というセリフに振り返る「バイト」。
5〜7コマ目 「チーフ」の顔のアップ。「稼働している」というセリフ。6コマ目、「チーフ」の肩なめ、視線の先に3本のワイヤーで支えられたポール。7コマ目、ポール先端のカメラがアップで映る。「ジー……」という吹き出しがカメラから伸び、6コマ目の「チーフ」の台詞を証明する。

30ページ(位置No.31)
1コマ目 自動で開くドア。ドアから少し離れた位置で周囲を警戒していた「リップ」と「タイ」もドアの音に反応して振り返っている。
2コマ目 横長のコマ。各人のリアクションが描かれている。なかば予測していたような「チーフ」。「え」という吹き出しがのびる「バイト」、不審と驚きが入り混じったような「リップ」、心なしか少し目を見開いているような「タイ」。
3コマ目 開きつつあるドアのアップ。施設内は暗闇で中の様子は不明。
4コマ目 ドアの開く様子を見つめる「リップ」と「タイ」。「リップ」は「ウソだろ?」と事態の不可解さに戸惑っている。
5コマ目 「チーフ」の顔のアップ。トーンが貼られ、4コマ目の「リップ」とは対照的な雰囲気。睨めあげる視線。

31ページ(位置No.32)
1コマ目 カメラに向かって挨拶する「チーフ」。画面は右に傾いている。不安感の演出。
2コマ目 カメラ正面のアップ。
3コマ目 カメラ視点の俯瞰。「チーフ」がSOSを発信したのかと尋ねる。
4コマ目 カメラのアップ。2コマ目からポン寄りしたかのよう。コマの大きさも2コマ目から2倍ほど大きくなっている。カメラから「アンタは?」と質問。

32ページ(位置No.33)
1コマ目 大ゴマ。「チーフ」のミディアム・クロースアップ。「チーフ」が身分を明かす。「私は警備部シエラチーム隊長/〝小石オイシユギ〟です」。組織名を省略したのは施設が同組織の管轄のためか。警備部ということから軍人ではなく、企業に雇われた立場? 任務は採掘した資源や設備の盗難の防止か。またジョー・カーナハン『ザ・グレイ 凍える太陽』、テイラー・シェリダン『ウインド・リバー』冒頭の場面のような危険な原生生物から屋外作業員を守ることもかれらの任務だろうか。
2コマ目 「助けに来ました」の吹き出しのみ。

33ページ(位置No.34)
1コマ目 施設内に進入するユギら。「タイ」のみ敷居の上に立ったまま外を見つめている。
2コマ目 「トロイぞ タイ」と声をかける「リップ」。「タイ」は外を向いたまま「見られている」と返答。「何に?」と「リップ」
3コマ目 「タイ」の横顔のクロースアップ。目が見開かれている。2コマ目の質問の返答「森に」。顔全体にトーン。眼球のみが白く、コマの中心にあるため視線がそこに集まる。この白い眼球は吹き出し内の「森」の字とほぼ同じ高さにあり、森に潜むなにかと「タイ」の睨み合いが一コマのなかに視覚化されている(12〜13ページの「Danger Outside.」という惹句も想起すべきか)。

桜井画門『THE POOL』

4コマ目 取り合う様子のない「リップ」と「バイト」のバストショット。背後に仁王立ちの「タイ」の背中。「リップ」と「バイト」の凸凹コンビ感。
5コマ目 カメラは施設外、ドアのすぐ前に。閉まりつつあるドア。「タイ」が振り返り施設内へ進む様子。ユギがドアの方を振り返る。
6コマ目 ドアの隙間がいよいよ狭くなる。ユギはまだ振り返ったままでドアの外、森に視線を向けている。

34ページ(位置No.35)
1コマ目 四人全員が施設内に。ドアが完全に閉じられる。照明のたぐいは見当たらない。
2コマ目 ユギのアップ。アオリ気味。正面を向き直る動作の途中。視線はすでに正面を見ているよう。
3コマ目 フルショット。カメラはユギの背後に。前方にはトンネルがあり、奥は真っ暗で見えない。
4コマ目 ユギの背中。ポン寄り風。「おい……」という吹き出しが右側から。

35ページ(位置No.36)
1コマ目 ユギ越しにセーフルームのドアが開いている様子。室内には三人。
2コマ目 ドアを開ける男性のアップ。21ページに登場した人物。背後に救助を要請した金髪の男性と黒い長髪、口髭の男性。ドアを開けた男性はユギたちに室内に入るように促している。
3コマ目 金髪の男性のクロースアップ。ユギたちを見て安堵している表情。
4コマ目 ユギの横顔のクロースアップ。ドアを開ける男性に責任者かと尋ねようとしたところ、「シッ!」と遮られる。

36ページ(位置No.37)
1コマ目 大ゴマ。ドアを開けた男性のクロースアップ。顔の左半分はドアに隠れている。脂汗と見開かれた目、「ヤツに気付かれる」というセリフ、顔半分がドアに隠れている画から一刻も早くドアを閉めたいという心理が伝わる。「ヤツ」と単数形のため、彼らが把握している限りトンネル内に潜むのは一体のみと思われる。
2コマ目 ユギのクロースアップ。無表情。
3コマ目 セーフルームに進む四人。カメラ位置はトンネルに続くスロープ上。

37ページ(位置No.38)
1コマ目 36ページ3コマ目と同じ構図だが、カメラは奥に置かれコマの大半をスロープが覆う。ユギ以外の三人の姿が見える。
2コマ目 1コマ目からさらに引いた画。四人の姿が見えなくなる。
3コマ目 横長のコマ。黒ベタのみ。
4コマ目 地下の坑道内と思われる場所。剥き出しの地面。3本のパイプが置かれている。
5コマ目 地面、暗闇。闇の奥から「ガッ」という音。吹き出し、手描き文字。

38ページ(位置No.39)
7ページで連れ去られた坊主頭の男性を抱える怪物。全体像はまだ暗闇の中にいて、腕と頭部の先端のみ見える。頭部には24ページに登場した生物と同じような黒い穴がいくつか確認できる。頭頂部には五角形の上部のような線分。怪物は男性の腹部に噛みついている様子。腹部のほかに首から出血している様子が確認でき、左手と左足が千切れている。千切れた左手のタトゥーがはっきりと見える。


リドリー・スコット『エイリアン』とジェームズ・キャメロン『エイリアン2』(※)を彷彿とさせる設定は予告の段階である程度仄めかされていたが、1ページ目で唐突に提示された「ワームホール」という設定をつぶさに視覚化したかのような第一話。

『THE POOL』5ページ
『THE POOL』11ページ2コマ目
『THE  POOL』16ページ1〜2コマ目
『THE  POOL』34ページ3コマ目


こうした「穴」のイメージに誘導されるかのように落下、あるいは引き摺り込む、引き摺り下ろす運動が随所に描かれる。20ページの「チーフ」の「降下準備」もこの範疇に属する。対する上昇のモチーフとして発炎筒、飛行船、間欠泉が挙げられる。これらのモチーフはコマからコマへ連鎖することがなく、第二話以降の脱出と生存の困難さを予告する機能を果たすものと思われる(以下、次号)。

(※)桜井はX(旧Twitter)のアカウントにて『エイリアン2』のファンアートを投稿している。

桜井画門X(旧Twitter)アカウント2016/08/28投稿

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