またいつでも行ける国なんてない


2020年3月、キューバへの渡航を計画していた。しかしご存じの通り、世界は2020年を明けたころからコロナ禍に突入した。渡航日が迫ってくる中、日に日に状況は悪化していく。もう航空券もキャンセルできないし、ギリギリまで渡航制限などの情報を収集し、状況を注視していた。そんな中、大学の事務室から渡航を中止するよう突然連絡がきた。どうして急に?と思ったがそういえばその数日前、大学が学生の海外への渡航状況を把握する名目で渡航予定がある場合は申し出るよう依頼があったのでそれに答えたのを思い出した。しかし、まさかそれで中止を迫られるとは寝耳に水だった。人の善意というのはこうして裏切られていくのだ。その連絡を当然のように無視していると、指導教官にもその話はすぐに伝わり、教授から直接、計画を中止するよう言い渡された。こうなればもう中止するほかない。

結局、その数日後キューバは入国禁止措置が取られ、結果としては変わらなかったのだが、一連の大学側の対応には本当に腹が立った。そのやり口も気に入らなかったが何と言っても「海外なんて、またいつでも行けるんだから。」という言葉だった。励ましのつもりで言ったのかもしれなかったが、こちらの気持ちなど何も理解していない言葉だった。

持論だが、いつでも行ける国なんてどこにもないと思っている。実際に最初はすぐに収束すると思われていたパンデミックだったが、ふたを開けてみると収束するまでに2年もかかった。その間、自由に海外に行くことは困難を極めた。その間に学生を卒業してしまった人たちはその後海外に行くことはより困難になってしまっただろう。

そしてコロナ禍を経て現在、日本は異次元の金融緩和により急激に円安が進行している。ただでさえ国内でも物価が上がっているのに、日本円は外国の通貨に対し著しく価値を失っているため、海外ではより物価が高いと感じるだろう。今後、海外旅行は経済的により困難になることが予想される。

そして2023年現在、時間的にも、経済的にも余裕があったとしても、キューバはアメリカからの制裁により渡航が困難になってしまった。簡単に言うとキューバに入国歴のある人はアメリカに入国する際、ビザが必要になり、事実上アメリカへの入国が困難になってしまった。グローバル社会になった現代でアメリカに行けなくなってしまうリスクはかなり大きい。時間があったとしても、パンデミックの心配がなかったとしてもその他の状況が変われば行けなくなる国は他にもたくさんある。海外なんていつでも行けるなんて考えはとんだ甘ったれなのだ。

もう一つ、行ってみたかった国がある。ロシアだ。シベリア鉄道を横断する旅はいつかしてみたいと思っていたが、実現できないまま、そして先のことは断言できないが、今後も叶うことはないだろう。心のどこかに、いつか行けるチャンスがあるだろうという甘い考えがあった。これは自分の人生の中で最も後悔していることの一つである。

海外旅行に頻繁に行かない人にはわからないだろうが、今しかそこに行けないから行くのだ。明日には世界情勢が変わることだってあるし、自分だって明日には死んでるかもしれない。

海外なんていつでも行けるからと、自分の気持ちに蓋をして二の足を踏んでいる人は、考えを改めて今すぐ行動に移してほしい。いつでもいける国なんて、ないのだから。

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