社会人デビュー

3月にようやく大学院を卒業した。もう今年で30になるというのに、この年まで学生をやることになるとは全く思っていなかった。人生とはわからないものである。そんな俺も社会人になり、早二か月が過ぎようとしている。働き始めてからずっと考えていたことがある。それは、自分のこれまでの経験やノウハウがどのように活かせるのか、ということ。

大学ではずっと薬学の基礎研究を行なっていたが、もう基礎研究からは一度身を引いて臨床で働きたいと思っていたので就職先は大学病院を選んだ。自分の中では迷いはなかったのだが、周りからはとやかく言われた。「せっかく大学院まで行ったのに病院薬剤師なんてもったいなくない?」「研究職の方が向いてるんじゃない?」といった意見が多くを占めた。仕事の向き不向きについては働いてみないと分からないだろうと思っていたが、前者の意見については「そうねー。」と心ない返しをしつつも、内心ではお前ら大学院まで行ったわけでもないのに偉そうに言うなと思っていた。大学院で研究に向き合った時間は自分の人生においてはかけがえのない経験で、この経験は必ずどこかで活きる。それは研究の分野に進まなかったとしても同じだと、確証はないけれどそう自負していた。

とはいえ、いざ働き始めるとやはり自分がこれまでやってきたことなど、無意味だったのではと不安になった。休みの日が来るたびに、自分のスキルや経験はこの組織にどう還元できるのかをぼーっと考えていた。そんな中、4月も暮れの頃に飲み会で直属の上司らから仕事が早いと褒められた。この時期任せられていたのはExcelを使った簡単なデータの入力や表の作成で、こんなものに早いも遅いもないだろうと思ったが上司らによると普通に薬学部を卒業した学生ではExcelを使ったこともない学生もちらほらいて、最初は教えるのが大変なのだそうだ。一方俺はExcelに関しては研究を通じてデータの入力から関数を用いた計算、グラフの作成まで一通り使いこなせるようになっていた。それに加え、まだ研究室に配属されて間もないころ、指導教官から放置プレイをくらった俺はひたすら時間を持て余していた。そこで俺はその時間を利用してショートカットキーに代表されるようなありとあらゆるパソコン時短術をマスターした。そのため、簡単なExcelやPowerpointの資料ならマウスを使わずとも作成できるほどショートカットキーを使いこなせていた。ちなみにその時にお世話になった本がこちら。


そんなこんなで簡単に仕事を終わらせる俺を見て、上司はさらに高度な仕事を振るようになった。膨大な薬剤使用歴のデータを統計的に解析し、グラフにまとめるような仕事でIf関数の知識がないといくら時間があっても足りないであろう量だった。
待ってました!と言わんばかりに俺は学生の頃に手に取った「Excel 最強の教科書」を引っ張り出してきた。初めて読んだ当初、Excelは使いこなせればこんなに便利なものなのか!と衝撃を受けた。特に関数は四則演算くらいしか使ったことのない俺にとって新たな世界が開けた感覚がした。

せっかく学んだExcel関数を使ってみたい衝動に駆られた。なにか使う場面はないものかと考えていたちょうどその時、取り組んでいた実験で、得たデータをExcelに入力、解析し、グラフ作成を行っていた。基本的には単純な計算しか使わないのだが、外れ値(平均から著しく逸脱した値で、結果に含めると全体の結果に影響するため除外する値)が頻繁に出るためそれを除外する必要があるのだがその作業を手作業で行っていた。非常に間違いが起きやすいし時間もかかるこの作業をIF関数で自動化できるのでは、、、?とひらめいた。IF関数を用いるのは初めてだったので四苦八苦したものの、データを入力しただけで外れ値を除外し、グラフまで自動で作成できるシートを作り上げることに成功した。それ以来解析の時間を大幅に短縮することができた。
それ以来、IF関数などの高度な関数を使う場面には恵まれなかったが、久しぶりにこのスキルを発揮するときがきた!躍起になった。あれこれ苦戦しながらも1週間ほどでグラフを作り上げ、上司に提出した。すると上司は「よし、今度部長会議でこれを部長に見せるから君がプレゼンしてくれ。」と予想だにしない展開になり、入職して早二か月で部長との会議に臨んだ。こんな経験はなかなかないだろう。

そんなこんなで学生の時にやってきたことはどこかでつながり、身を結ぶのだ。これからも自分の培ってきたスキルがどう生かせるのか楽しみでならない。そして今学生のみんな、パソコンは使えるようになっておけ!


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